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2章 亡命者は魔王の娘!?

2話 他愛のない会話が一番楽しい

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 家を出て、門に向かっていると横道から元気の良い挨拶が聴こえてくる。登校途中の小学生だろうか?否、異門町は危険すぎて小学校等の学習施設は存在しない。いる子供も0~6歳までの小学校に上がる前の子供しか存在しない。子供が存在しないのは些か寂しいが、異門町は非常に危険な町なので、子供が住むのはオススメしない。

 話がズレてしまった。では、挨拶をしてきたのは誰なのかの答えなのだが、答えは俺の同僚であり、友人のシャープ・フリップである。

「おはよー!今日が雪が降りそうなぐらい寒いね~」

「よっす、シャープ。お前の地元でも雪って振るの?」

「降る降る!めっちゃフル!良く除雪を手伝わされてたよ~。魔術師が来た時は手伝ってもらって滅茶苦茶楽だったのも良く覚えてる!」

 息も白くなる程の寒さ故に通行人の中には防寒具で身を固める人が多い。シャープも首に青いマフラーを巻いて防寒対策をしている。彼にとっては、防寒以外にも、GPS首輪を隠す目的もあるだろうが。

 難民ドッペルゲンガー騒動から既に7ヶ月が経過。以降、シャープは問題を起こす事なく真面目に門番を務めた事により、門番本部も警戒を解き、減給の取り止めと首輪の毒薬の除去を考えてるらしい。

 主任の計らいもあってか、あと半年ぐらいでそれらが実行されるとの事。話が早いのは助かるのだが、主任がまた裏で本部の人間を脅していないか心配だ。

「冬はほんとに嫌よね。手はかじかむし、全体的に生活にかかるお金が増える。早く春にならないかしら」

「そう言うと冬って嫌な季節に思えるけど、他の季節じゃ食べれない物もあるし、体験できない事もある。それに、何より魔物が少ない!!」

 魔物も生物である。餌が少ない上に気温が低い冬は体力を温存する為に冬眠する種類も多いのだ。人の血を好んで飲むブラッドベア―や昆虫系の魔物が冬眠の傾向にある。

「魔物が侵入してこないってわけじゃないけどね」

 その為、冬の季節は冬眠を必要としない魔物や、寒さに強い魔物や、そもそも生きているのかすら分からないエレメント系の魔物のみがリオに侵入してくる傾向にある。

 エレメント系は特に厄介だ。火や水などの属性を司る存在の為、一手間物理攻撃が当たらないものが多い。例えば、火のエレメントは水をかけて消火してから本体を叩かなければならないし、水のエレメントはまず電気で本体を感電させなければならない。属性に応じて攻撃する為には魔術が必要不可欠となる為、人によってはブラッドベアーよりも手強いと言う人もいる。

「あと、ゴブリンとかコボルトもうざい」

「アイツら季節とか関係ないしねぇ~~。寧ろ冬の方が強かったりするし」

 ゴブリンとコボルトは略奪を生業とする魔物。冬眠はせずに村を襲って食料を手に入れ、冬を越す。何ならついでに女性を攫って群れの数を増やす。

 中途半端に賢く、『リオにはいっぱい人がいる』程度の知識しか身に着けていない為、馬鹿の一つ覚えが如く攻めてくる。そして、俺らに殺される。

「僕達が前にとっちめたゴブリンの群れ何体で構成されてた?」

「32かな?」

「夜勤組は72体のコボルトの群れが攻めてきたらしいよ」

「村一つは簡単に滅ぼせそうね。あと、それは群れって言わない。軍団よ」

 夜勤組は入国審査が得意でない一方で、戦闘技術が抜きんでている。戦闘力の面で言うなら、俺らの目標地点と言っても過言ではない。

 毒にも薬にもならない。けれども、何だか楽しい会話を続けながらしょくばへと向かう。門の降臨によって荒野となった職場周辺を歩いていると、大弓が地面に突き刺さり、その横でスキンヘッドのガタイの良い強面の男性が寝転がっていた。

「夜勤お疲れ様です里見さん。立てます?」

「おう・・・立てるぜ。何とかな」

 男の正体は例の夜勤組の1人で、大弓使いの里見武昌さとみぶしょうさん。主任は短気で接待には向いていないと評しているが、俺ら後輩には優しい良い先輩だ。4人張りの大弓を使用し、空を飛んで逃げる魔物を射抜き殺す。

「その声はヒスイきゅんじゃないかぁ~~お姉さんはもうヘトヘトだから、ヒスイきゅんが立たせてくれぇぇぇぇ・・・」

「ヘトヘトって言いながら、匍匐前進してこないで下さい鳩山先輩。怖いです」

 翡翠の気配を察知して、200m先から匍匐前進で近づいてきた女性も里見先輩同様に夜勤組の門番の1人、淡い緑髪を三つ編みにした美女の名は鳩山希楽里はとやまきらり。可愛らしい名前と美しい容姿を持っているが、生粋の狂戦士バーサーカーであり、2本の斧を得物として使う。あと、たまに俺を見る目が怖い。

「今日は主任の方が出勤が早かったな。15分前にここを通って挨拶していったぜ」

「へぇ~珍しいことも有るんですね!」

「何でも、重要な仕事が待ってるからその準備をしたいんだって」

「お偉いさんでも来るのかしら」

「ここで、考えるよりも主任に会った方が早いんじゃね?2人とも、行こう」

「OK!」「はいはい」

 2人の先輩に手を振り、分かれを告げてしょくばへと向かう。タイムカードを切る為に事務室に入った俺らを待っていたのは既に制服に着替えて仕事の準備を完了させている俺らの主任だった。
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