上 下
24 / 191
1章 就職!異世界の門日本支部!

23話 ドッペルゲンガー

しおりを挟む
「ケケッ!!」

 シャープの攻撃を予想していたのか、自ら体に穴を開けて、剣の月を避ける。

「うぉおおおおお!!」

 諦めずに突いた状態で、剣を持ち上げ、腹部から頭を切り裂くが、霞を切っているようで肉を切った実感がない。

 シャープは怒っていたが、同時にある程度の冷静さ持ち合わせていた。そのまま突進するように猛攻はせずに一旦引き、構え直す。

「ケケケッ!!」

 腹から頭を切り裂かれていたドッペルゲンガーも、まるで粘土のようにくっついて斬られる前の姿に戻っていた。

「くっ!噂には聞いてた言うけど、物理攻撃が全く効かない」

 ドッペルゲンガーは、霞のような影のような掴みどころのない存在。故に、武器を用いた物理攻撃は基本的に意味をなさない。

 シャープもその事は重々理解しており、今の攻撃は試し切りの意味合いもあったようだ。

「ケシャアッ!!」

 両腕を剣のように鋭くしたドッペルゲンガーは、シャープに対して猛攻を始める。

 こちら側がドッペルゲンガーに触れられないのに対し、ドッペルゲンガー側は普通にこちらに触れることができる。なので、ドッペルゲンガーの攻撃はこちら側に通じてしまうのだ。

 普通の刃なら、こちらも武器で弾いているが、ドッペルゲンガーは触らない為、避ける以外の方法は無い。いや、あと1つだけ触れることができる方法が残っている。

「『トゥエレ』!!」

 シャープの口から防御魔術が唱えられると同時に、ドッペルゲンガーの一方的な猛攻がピタリと止む。否、受け止めたのだ。

「ケェッ!?」

「僕が何も知らないと思ったか?お前らドッペルゲンガーの事なんか、把握してんだよ!!」

 ドッペルゲンガーを直接叩く方法、それは魔力である。どういう理屈かは未だに判明していないが、魔力を用いた場合、ドッペルゲンガーにダメージを負わせることができるのだ。

 防御魔術を解くと、シャープは自分の剣に薄い魔力の膜に張る。これで彼の剣はドッペルゲンガーと斬り合う事ができるようになったのだ。

「ケケッ!?」

 ドッペルゲンガーも自分が無敵でなくなったことに気づき、明らかに動揺し始める。しかしそんな事はシャープには関係ない。

 一方的に攻められる立場が逆転し、ドッペルゲンガーにも表情はないが、若干の焦りが感じられる。

「このクソドッペルゲンガー!人間様を舐めないで欲しいな!!」

「グガ・・・ケケケェッ!!」

 ドッペルゲンガーの強みは、物理攻撃を効かない事。それが事実上無くなった今、ドッペルゲンガーは、ただ体を変形させることができる。普通の魔物へと成り下がったのだ。

 鋭利な腕は切断され、床に向かって仰向けに倒れたところを心臓に一突き。

「ケケ、ケ・・・」

 無敵ではなくなったドッペルゲンガーは黒い塵となって、風に乗ってどこかへと消えていった。死体も血液も残っていない。全く以て謎の生き物だ。

「よく倒したねシャープ」

「はぁ・・・はぁ・・・ま、まあね・・・」

 難民たちもよくぞ悲鳴をあげなかったものだ。自分たちが命の危機され晒されてたのに悲鳴の1つを上げないのはザナという過酷な環境で生活していたからだろうか。

 俺に見つかった時は、あんなにも怯えていたのに・・・ん?なんで俺に怯えてドッペルゲンガーに怯えるどころか、声1つ上げなかったんだ?

 ポケットの中に入れていたスマホがバイブ音を鳴らす。慌てて手に取ると、主任から電話かかってきた。すぐに通話を開始すると、主任は重々しい口調で俺に訪ねてきた。

『翡翠、今どこにいる?』

「シャープの家にいます。主任の言う通り、ドッペルゲンガーが難民になりすましていました。ですが安心してください。既にシャープが倒しています」

『そっか・・・なあ、難民は今何人いる?」

「ええと、24人ですがどうしたんですか?何か問題でも?」

『・・・今さっき、ザナ側から連絡が来た。リオに渡ろうとしていた難民24人と手伝っていた商人達を確保したと』

「「えっ・・・!!」」

『もう一度聞く。翡翠、今目の前に難民は何人いる?」

 シャープにも聞こえるようにスピーカーにしていたからか、難民にもこの会話は聞こえていた。残された難民24人は無機質なロボットのように立ち上がり、薄気味悪い笑声を上げながら人の姿から、黒一色の不気味な姿へと変貌を遂げた。

「ヒスイ、ごめん。頼む・・・助けてくれ」

「勿論だとも。俺の友よ」

 今まで抜かなかった刀を抜刀。こちらに無邪気な殺意と悪意を向けてくるドッペルゲンガー24体に向かってその刃を振り下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ドロップキング 〜 平均的な才能の冒険者ですが、ドロップアイテムが異常です。 〜

出汁の素
ファンタジー
 アレックスは、地方の騎士爵家の五男。食い扶持を得る為に13歳で冒険者学校に通い始めた、極々一般的な冒険者。  これと言った特技はなく、冒険者としては平凡な才能しか持たない戦士として、冒険者学校3か月の授業を終え、最低ランクHランクの認定を受け、実地研修としての初ダンジョンアタックを冒険者学校の同級生で組んだパーティーでで挑んだ。  そんなアレックスが、初めてモンスターを倒した時に手に入れたドロップアイテムが異常だった。  のちにドロップキングと呼ばれる冒険者と、仲間達の成長ストーリーここに開幕する。  第一章は、1カ月以内に2人で1000体のモンスターを倒せば一気にEランクに昇格出来る冒険者学校の最終試験ダンジョンアタック研修から、クラン設立までのお話。  第二章は、設立したクラン アクア。その本部となる街アクアを中心としたお話。  第三章は、クラン アクアのオーナーアリアの婚約破棄から始まる、ドタバタなお話。  第四章は、帝都での混乱から派生した戦いのお話(ざまぁ要素を含む)。  1章20話(除く閑話)予定です。 ------------------------------------------------------------- 書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。 全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。 下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...