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最終章 全てを統べる者と暗殺者

切り札

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「龍神流の使い手、天性の才を持ち合わせた剣士・・・それに加えて早川恵の夫まで来たか~随分と豪華なメンバーだねぇ」

 急いで居間まで戻ると、仙女様がソファーで寝そべりながら集まった人達を眺めていた。

「まさか仙女というのが実在する者達だったとはな!驚きだ!!」

「しかも稲川さんをも舌を巻く程の魔力・・・私も先程から鳥肌が止まらないよ」

「恵・・・君に比べて俺は・・・父親失格だ。君は死んでもなお、壱朗を守り続けているというのに俺は・・・俺は・・・!!」

 どうやら各々に説明は終えたらしく、剣豪さんと新井さんは驚き、親父は頭を抱えて嘆いている。

少しはカオスと化している居間に入ると、最初に気づいてきてくれたのは田端さんだった。しかし、田端さんは不安そうな表情を浮かべて尻尾をへにゃりとさせている。

「どうしたんすか?田端さん。凄い不安そうな顔してますけど・・・」

「いや・・・こんなに凄い人達の中にいて良いのかなー・・・って」

 彼女の不安。それは自分の力不足から来るものだった。日本最強格の3人と人智を超えた存在がいるんだ。委縮するのも仕方がない。

「それなr─────」

「それなら心配することない。君は既にあの人達と肩を並べられる存在さ」

 不安を払拭しようとした瞬間の出来事であった。どこから現れたのか、ローガンが横槍を入れてきたのだ。

「そ、それは言い過ぎだよ・・・わ、私なんかまだまだ修行中の身なんだし────」

「誰だって生きているうちは修行中さ。それに君には数多の技があるじゃないか。気落ちする必要はない」

「そ、そういって貰えると私もうれしいな・・・」

 顔を熟した林檎のように赤く染め、尻尾をブンブン振る田端さん。

 何だろう・・・すごく気まずい。人のイチャイチャをこんなに間近で見るの初めてだからすんごく気まずい。

「・・・へっ」

 そしてトドメと言わんばかりにクソローガンのどや顔。殴りたい、この笑顔・・・。

「はいはい、おバカ2人はさっさと席に座る。話が始まるんだから」

「えっ、ここで話すんですか!?もっと良い場所があるでしょう!?」

「いや、だってさ・・・この家、居心地良いし・・・」

「そんな理由で・・・?」

 早川宅は道場が付いているだけのただのボロ家。防音機能も無ければ、セキュリティも甘い。

 こんな所でやる秘密会議は秘密会議という名の公開会議。つまりは敵にバレバレだという事である。

「おいおい小僧。我が何も対策をしていないと思っているのか?」

 そう言われてハッとさせられる。そうだ。目の前にいるのは神に最も近い存在。ブラフや結界等の用意は周到なのだろう。

「そういえば、関東に入ったぐらいで改造妖怪を見かけなくなったね」

「僕も千葉県に着いた頃に改造妖怪はいなかった!!代わりに青森県や宮城には多かった気がする」

「おお!良く監察しているな!その通り!我は今この関東地方を覆うほどの大きな結界と妨害電波なる物を張っている。埼玉の地だけでの結界では逆に場所を絞られて襲われる可能性があるのでな」

「あの結界・・・やはり貴女だったのですね・・・あんなに広範囲だというのに全く結界が薄くありませんでした・・・正直感動してしまいました・・・」

 稲川さんは先程から人が変わったように仙女様と話している。あのレベルの妖術師でなければ理解できない事があるのだろう。

「まあね。その代わり、地方に皺寄せが来るがな」

「それなら心配は無いです!関東の剣士が応援に向かっているそうなので!!」

「そうか、それなら良かった。では、これからの内容を説明しよう。何度も話せるものではない為、皆の者はなるべく1度で覚えるように」

「「「「「「はい」」」」」」

「良い返事だ。では、まずこれを見て欲しい・・・小僧、を出せ」

は所沢に来る前に仙女様が『やっぱ我が持つ』って言って渡したでしょう?覚えていないんですか?」

「あれ?そうだったか?」

 ヤバイな・・・作戦会議開始30秒で早くも雲行きが怪しくなってきたぞ・・・。

 仙女様は自分の持ってきたカバンと着て来た服のポケットを漁るように探す。

「あ、あった」

「マジでしゃんとして下さいよ」

「悪い悪い」

 仙女様がカバンの中から取り出したのは小さな革製のポーチ。開くと中には青い液体が入った数本の小さな瓶が入っていた。

「これが・・・改造人間を元に戻す薬・・・」

 瑠璃がそう言うと、仙女様は首を横に振った。

「残念だがそんな良い物ではない。厳密に言うとこの薬はを殺す薬だ」

「『厳密に』とはどういう事です?」

「まず、今までお主らが殺しあってきた改造人間の事を思い出してほしい。ヤツらは大体どんな姿をしていた?」

 記憶を辿って思い出してみる。だが、思い出すと同時に改造人間の歪さで頭が痛くなってしまった。

「そう。お主らが戦ってきた改造人間は人間の姿のまま歪な姿になっていただろう?あれは薬が未完成だからだ」

 そういえば前に言っていたな。龍嶋が。

「少し難しいので効力を粘土作品に例えよう。未完成の薬は別の色を適当に加えてぐちゃぐちゃに手でこねた結果、出来上がった失敗作。完成品はしっかりとイメージを捉えて、別の色を加えて彫刻刀等で形をつけた成功作だ」

「だから龍嶋洋平は凶暴ではあるものの、美しい姿をした龍になれたのか!」

「そうだ。それでこの薬は加えた別の色の粘土を取り除き、粘土を元の姿に戻すという効力を持つ物だ。だが、時間の問題もあって別色の粘土はアバウトにしか取り除けない」

「だから別の粘土とぐちゃぐちゃに合わさった未完成の薬には意味はないのですか?」

「意味がないわけではない。ちゃんと効力はある。殺すという効果がな」

「取り除くというよりも削ぎ落とすといった感じですね」

「そうだな。未完成の薬を打たれた者に使うと無駄な物未完成の薬の効力だけでなく必要な物も削ぎ落とすというわけだ。だからこの薬は龍嶋以外には使わないように」

 薬の効力を聞いた途端、落胆し、黙りこむ一同。彼らは一握りの希望を抱いていたのだ。もしかしたら改造人間にされた人を治せるかもしれないという淡い希望を。

「そう落ち込むな。君達が悪いわけではないのだから」

 しかし、事態は良い方向へと向かっているという事は間違いない。僅かながらも希望の光は見えてきている。

 その場に集まった剣士妖術師達はもうこれ以上龍嶋の被害者を出さないようにと決意を新たに心に刻むのであった。
 
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