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3章 遠足ではありません

38. 楽しいお茶会

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「折角仲良くしようと思ったのに、私がちょっと王城に帰ってる隙にシャーロットったらアルストルに勝手に旅立ってるじゃない? だから追っかけてきてあげたのよ」

 シャーロットを近くのカフェへと引きずり込んだエスメは、注文したアイスティーをかき混ぜながら言う。
 シャーロットは作り笑いを浮かべ、ホットカフェラテを両手で握りながらそれを聞いていた。
 
 エスメとの一件の後、シャーロットは少しだけ身の上話をエスメに聞かせた。
 勿論、自分が本当の聖女であるということは言ってない。原作の記憶以外にまるで根拠のない話だからだ。
 元は孤児だったこと、奴隷狩りに会ってラヴィニアに買われたこと、そこで酷く虐げられたこと、ウィンザーホワイトを訪れた際に神聖騎士たちに暴行され、焼却炉に捨てられたこと、そしてノアに拾われたこと……。
 そういった事を話し、それにえらく同情したらしいエスメはシャーロットを友人認定し、生まれたての雛のようにシャーロットの後を付いて回るようになった。
 
 こんなに簡単に手のひらを返して大丈夫なのか? と思わないでも無かったが、好かれるのは悪い気はしない。
 最初は良かったのだが、段々辟易としてきたところでエスメは王城に呼び戻され、その間にシャーロットのアルストル派遣命令が下ったのだ。
 用事を済ませ意気揚々と魔導塔へ戻ってきたエスメはシャーロットが居ないことに愕然としたのだという。
 
「なんで広場で芸を披露していたんですか? エスメ様、仮にもお姫様なんだから、あんなことして稼がなくても……」

 とりあえず疑問に思ったことを尋ねると、エスメは何故か得意げな表情をした。
 
「ふふん。遊ぶ金欲しさよ」

 まるで得意げになる意味がわからない格好悪い発言だった。
 エスメは続ける。
 
「この旅、完全にお忍びなの。お父様にも言って無くて……。だから国庫からお小遣いを貰うことも出来なくてね、こうして稼いでるってワケ」
「お父様って、国王陛下ですよね……? それってお忍びどころか家出だし、結構大事になっているのでは……?」
「もう、細かいことはいいじゃなーい! それでね、カイが、姫様の魔法のレベルなら簡単にお金くらい稼げますよって言うから、ああやって稼いでたの! 本当に結構簡単に稼げるのね!」

 そういってカゴ一杯になった銅貨をシャーロットに機嫌良さそうに見せるエスメ。
 あの男がこの姫様の奇行の原因か。とはいえカイもそんな意味で行った訳ではないような気がするが。
 
「……ラヴィニアが来るかも知れないわ」
「えっ」

 シャーロットは思わずカフェラテに入れようとしていた砂糖を取り落した。
 エスメは深刻な顔をして言う。
 
「アルストルに魔獣が大量発生しているっていうのがあの聖なる耳に入ったらしくてね。街に被害が出た時に備えて、アルストルに来たがってるらしいの、あの聖女サマ。気をつけた方が良いわ。……私、『赤月祭』まではこっちに居る予定だから。困ったことがあったら頼ってきても良いのよ?」

 そう言ってエスメは得意げに笑って見せた。
 有り難いが、仮にエスメの力を借りるようなことになれば国家問題になりかねない。
 基本的にそこまで悪い人間ではないのだが、甘やかされて育ったせいか、視野が狭く考えなしのところがある。
 彼女を頼るのは最終手段になるだろう。
 
 シャーロットはそう考え、曖昧に笑って流し、その後適当に雑談をして別れた。
 
 
 <月の光亭>に戻る道すがら、またいくつか例の光る石を見つけ、拾った。
 こんなにあるということは恐らくこの辺りにはよくある石なのだろう。
 ほんのり光っていて綺麗で、眺めていると気分が良い。
 

 日が落ちかけた頃、シャーロットはようやく部屋に戻った。
 ノアは流石に起きていて、置いていかれたことにやや拗ねている様子だった。
 カラスの姿のノアは、人の姿をしているときよりもやや言動が幼い気がする。
 
「明日、呼び出されなければ二人で出かけましょう」

 そうシャーロットはノアに約束し、ノアの機嫌を取った。
 
 
 
 しかし、次の日、日が完全に高くなり、そして落ち、夜になってもになってもノアは眼を覚ますことは無かった。
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