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3章 遠足ではありません

26. 旅の仲間

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 がたごとがたごと。
 揺れる車内の中でシャーロットは心を無にして外を眺めていた。

(あ、鳥が飛んでる。カラスかな?)

 完全に現実逃避である。
 今現在、シャーロットが逃避したい「現実」とは、目の前で延々と起こっているやり取りだった。

 隣に座っている少女が楽しそうに喋り続けている。

「アルストルについたらまず道ゆく人のファッションチェックをしなきゃ! やっぱり流行を押さえた感じにしないと、浮いちゃうもんね。そして、色んなショップを巡るの! やっぱりノインとは置いてるものとか全然違うのかなあ、楽しみだなあ」

 それに呆れた様に目の前の男が返答する。

「あのですね、観光に行くわけではないんですよ? ボク達は魔物討伐の遠征に行くんですからね。まあ天才魔導師のボクは一人でも構わないんで、足引っ張るくらいなら遊んでてもらっても全然良いんですが」
「魔物ちゃんたちにもいっぱい会えるんだよね! どんなのがいるんだろ。やっぱりオークとかが多いのかな? 豚鼻が可愛いよね~!」
「オークを可愛いというセンスは正直よくわかりませんが……まあいるでしょうね。実際目撃報告も上がってきてるみたいですし」
「スライムちゃんとか、ゴブリンちゃんとかもいるかな? 何匹殺せるか競争しようね~!」
「意外と物騒な発想しますね……」

 先程自己紹介したところによると、この、人の話を余り聞いていない少女はメロディ。
 ストロベリーブロンドの髪を二つに結った可愛らしい印象の小柄な少女。瞳の色は森を思わせる深緑で、その色彩は春の妖精を思わせる。

 呆れた様にメロディの相手をしている男はヴィクター・クリフォード。暗めの茶髪に、同系色の瞳。視力があまり良く無いのか眼鏡をかけているが、どちらかと言えば顔は整っている方だろう。
 彼は少し年上の魔導師で、先日見習いを終えたばかりだという。
 クリフォード家は由緒正しい貴族の家系で、魔力を持って生まれたヴィクターはそれはそれは大事にされて育ったらしい。
 律儀にメロディの相手をしている所からみても、根は結構真面目な性分なのだろう。

「ねえシャルちゃん! ずっとぼーっとして、何考えてるの? メロに見惚れてる? まあメロびっくりするくらい可愛いもんね!」
「いえ、ボクと一緒に遠征できて緊張してるんですよ。なんてったって魔導塔の中でも一番の有望株ですからね」
「あ、いえ……。三人だと会話をサボれるから楽だなと思ってました……」

 急に話しかけられて咄嗟に本音が出てしまった。
 ヴィクターは虚をつかれたように黙ったが、その後ややムッとした顔でシャーロットとメロディの顔を眺めた後、わざとらしく大きなため息をついた。

「なんでこのボクの初めての遠征が、このお花畑女と、名前も聞いたことのないような陰気な女と一緒なんでしょうかねえ。お荷物背負わされてもボクなら出来るというノア様の期待の現れでしょうが……やれやれ。全く、先が思いやられますよ。そもそもまともに魔法は使えるんですか?」
「メロは魔道具作るのが得意だよー! ほら見て、この本」

 そういうとメロディはどこからか――本当にどこからだろう――薄い本を取り出すとシャーロットに手渡した。
 早く開けと促され、言われるがままシャーロットは本を開いたがそこには何も書かれていない。
 白紙のページが広がっている。

 と、突然ページが発光し、小さい人の像が浮かび上がってきた。

 よく見ると、それは小さいメロディだ。
 恐ろしく精巧なそれは、どこからか流れてきた陽気な音楽に合わせて本の上で踊り始めた。

「じゃじゃん! 名付けて、<メロディちゃんの薄い本>です!」

 何もかもがよくわからないが、凄い技術が使われているのはわかる。魔道具作成が得意というのは本当なのだろう。
 ヴィクターは高い技術力を無駄に発揮して作られたそれに、呆れて言葉も出ない様子だ。
 ぽかんと口が開いたままになっている。貴族令息としてあるまじき姿だ。

 ヴィクターは暫くそうしていたが、やがてクイっと眼鏡の位置を直すと、気を取り直したようにシャーロットの方に向き直った。

「……それで、君は? 何が出来るんですか?」

 メロディにはもう触れないことにしたらしい。
 シャーロットは暫く考え込んで答えた。

「物を壊すのとかは得意かもしれません……」

 ヴィクターは深いため息をついた。メロディは何が気に入ったのか無言でニコニコしている。
 そこから暫く誰も口を開かなかった。
 陽気な音楽と共に、小さなメロディの像がただ踊り続けていた。
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