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裏側2

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 持ち掛けたの私だった。
 秘匿の趣味であるはずのイケメン観察なのだが、何処からか聞きつけた令嬢が意中の相手の情報を聞きに話し掛けてくることがあった。
 噂が噂を呼び、いつしか交友関係が広がった私に仮面舞踏会という情報が流れ込んできたのだ。
 確かその令嬢の相談は『仮面舞踏会で会った男性の身元が知りたい』だった。顔の特徴と背丈、口癖で判断したが、まさか宮廷医務官がそんな場に立ち入っているとは驚いた。
 
「ハイデル様、一度だけ、二人のお手伝いをしてみませんか?」
「手伝い……ですか?」
「はい、仮面舞踏会という知らぬ男女が一夜を共にする為だけに集まる夜会がございます。そこにメティシアとユリウス様を送り、二人を合わせるのです」 
 真面目なハイデルはすぐに忌避感を表した。けれど、そのまま続けていった。
「あの二人は恐ろしいまでの頑固者です。そして、正しく相手を見ていない。正攻法は無駄でしょう」
「二人……?」
「はい、メティシアもまた同じようなものなのです」
 ハイデルの目が大きく見開かれる。
「ということは、メティシア様もユリウス様のことを⁉︎」
 私は小さく頷いた。ハイデルは安堵に顔を綻ばせた。
 しかし、私はかぶりを振る。
「けれど、互いに現実を知る必要があるでしょう。でなければ、ずっと歪んだままの関係です」
「なるほど……。ですが、何故それが仮面舞踏会という話に?」
 ハイデルの問いに私は、向き合ったまま目を逸らす二人を想像する。つい呆れ笑いが溢れてしまった。
「ユリウス様には、メティシアが貞操を捨てるほど現状に忌避を覚えているということを。メティシアには、そんな場所にまで追ってくるほどユリウス様の愛情が深く重いということを。流石に、そんな状況下に置かれれば、あの二人も正直な言い合いをするでしょう」
 それが出来なければ二人は終わりだろう。
 そう思って、協力を承諾したハイデルと共に動き出した。
 勿論、これでダメなら終わりだということはハイデルには伝えていない。
 真面目な彼に伝えれば、投げ出すことが前提であれば協力できないと言い出しかねなかった。
 私はあくまでメティシア寄りだ。妹のなのだから当たり前だろう。
 ダメなら、早く決別して別の人間と幸せになって欲しいと思っていた。

 結果として失敗だった。王子が乗り込んできた時に、それを深く理解した。
 ハイデルには悪いが作戦変更だと嘘を吐き、ハイデル自身を利用した。
 そんなものはただの時間稼ぎだ。その間私は、新しい作戦とそれに伴う準備に奔走した。たった一日だ。
 それで、再び仮面舞踏会の招待状を手に入れて、イケメン観察から得た情報を元に良さげな男を見繕った。
 カルロ・テイネス――最近加わった王子の取り巻き女性の恋人だ。数ヶ月前に振られていたく傷心中。性格は穏和で誠実。
 私の情報内でも極めて性格上級イケメンだった。
 そのカルロには、知人伝いに仮面舞踏会の話と招待状を送り付ける。決め手として元恋人メイアが王子と大変仲睦まじいという話も流しておいた。
 当日は、かつて世話をした令嬢がメティシアとカルロを見張ってくれるという。後から聞いた話では、オロオロ立ちすくんでいるカルロでは埒があかないと、彼女がカルロに『あの子に話しかけてあげなさい』と背中を押したらしい。
 実にいい働きをしてくれたものだ。

 当日は、私がメティシアの代わりに王妃教育を受けていた。けれど事前準備のお陰で、ユリウス様の監視は緩く、更には風邪気味だと嘘を吐いたお陰で声の僅かな違いにも気が付かれなかった。
 いや、多少は怪しまれていたかもしれない。
 けれど、従順になっているメティシアを問いただす勇気がユリウス様にはなかったのだ。
 生温い環境を崩したくなかったのだろう。

 カルロはよくやってくれた。
 あの夜のメティシアは眩しいほど輝いていた。
 このまま二人が近付くのも良いだろう、そう思ってはいたが――

『私、ユリウス様からは逃げられないのかもしれない』

 この言葉がメティシアの正直な気持ちだった。

 非常に面倒臭いことながら、二人は拗れても尚、断ち切ることもできず、互いしか目に入っていないのだ。
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