73 / 76
誘拐
応急処置2
しおりを挟む
そう思った瞬間だった。
そこから始まったのが、驚愕と戦慄に値する行為であり――
王子は跪いて、熱烈なキスを落としていったのだった。
無論、私にだ。
――はぁ⁉︎
途端、顔が熱くなる。
けれどその身体は重く、怠く、苦しかった。それはもう、指一本と動かすのが辛いほど。全身をもの凄い圧で締め付けられているみたいだった。
目の前は自分……、と天井。
けれど何故か、表情が全然自分じゃない。同じ顔なのに別人で。
こんなにギラギラした自分を私は知らなかった。
止めることも、叫ぶことも、一切の思考が固まってしまう。
ただ唖然とされるがままの私を王子は笑っていた。とてもとても幸せそうに恍惚と。
私は多分――いや、確実に王子の中に入ってしまったのだ。
どういう訳なのかは全くもって分からないけれど……。
絶対意味ないよね⁉︎ 嫌がらせだよね!
視界の端で、マルコルの身体が倒れ掛けて、それをジルさんがそそくさ抱き上げる。外に敷かれた布の上に置いていた。
無事……なのか?
ちょっと考えるもすぐに自分のことで頭がいっぱいなる。
なんせ私といえば、王子に蹂躙されるように、熱いもので口腔を優しくなぞりあげられていた。
頭がぼ――っとする。これが身体が怠いせいなのか、その行為によるものなのかは分からない。
なんせ初めてのことだから!
……な、長くない? えっ、ていうか長い長くない⁉︎ これ大人のやつだよね! 大人がするやつだよね‼︎
とか、ふと我に返って目を瞑る。
けど、余計に感覚が鋭くなって。やたらと口の中がくすぐったくて……。
って、いや違う! そんなはずはない!
慌てて目を開けた!
後ろで戻ってきたらしいジルさんの笑い声が聞こえてくる。
帰ってきたなら助けてよ!
でも、今はそれよりも……!
なけなしの力を絞ってそっぽを向く。
「ちょ……、ちょっと。なっ、なにしてるんですか!」
弱々しくも声を絞り出せば、王子は残念そうに「あぁ……」と声を漏らした。
なにが『あぁ……』だ! 睨みつける。
すると、王子は妖しく舌舐めずりなんかをしていた。
きょ……狂気だ!
「わわわ私の身体でなにやってるんですか……」
知らぬ間に身体がわなわな震えていた。そんな私を、王子は満足げに笑っていて。
「僕の身体から、魔力を吸い取っているんだよ。その身体きついでしょ? 魔力は魂に引き寄せられるからね、皮膚接触でもいいけど、粘膜接触の方が効率的なんだ」
粘 膜 接 触!
「で、でも、それなら胸に手を添える必要はないじゃないですか!」
王子の手は、ぴったり私の胸に添えられていた。
「ていうかそもそも、マルコル様が戻れたなら私が入れ替わる意味ないですよね⁉︎」
問えば肝心な部分は全て妖しい笑みで封殺された。
「皮膚接触」
「服着てます! それより、これの意味をちゃんと――」
「脱がしても良いの?」
王子が私の手をワキワキと見せびらかす。
「ダッ、ダメです!」
ははっと笑われた。
なんだか、自分に馬鹿にされてるみたいで余計ダメージがくる!
「残念だなぁ……」
「残念じゃない!」
「でも、僕と君の濃厚な愛の口付けのおかげであれは助かるよ。じきに、落ち着いてくるだろうからね」
王子が横目でマルコルを見た。
「……ほ、本当に?」
訝しみをこれでもかというほどに込めて王子を見た。
だって話が繋がらないし、意味が分からない。
けれど王子は、ニコリと笑う。
「勿論だよ。でもさ、君と僕の深ーい口付けが誰かを救うなんて、やっぱり僕たちは奇跡と運命で固く結ばれ合っているんだろうね」
「の、濃厚とか深いとか……、何度も言わないでください!」
叫ぶと同時にマルコルがなにやら苦しそうな呻き声を上げ始める。
そこから始まったのが、驚愕と戦慄に値する行為であり――
王子は跪いて、熱烈なキスを落としていったのだった。
無論、私にだ。
――はぁ⁉︎
途端、顔が熱くなる。
けれどその身体は重く、怠く、苦しかった。それはもう、指一本と動かすのが辛いほど。全身をもの凄い圧で締め付けられているみたいだった。
目の前は自分……、と天井。
けれど何故か、表情が全然自分じゃない。同じ顔なのに別人で。
こんなにギラギラした自分を私は知らなかった。
止めることも、叫ぶことも、一切の思考が固まってしまう。
ただ唖然とされるがままの私を王子は笑っていた。とてもとても幸せそうに恍惚と。
私は多分――いや、確実に王子の中に入ってしまったのだ。
どういう訳なのかは全くもって分からないけれど……。
絶対意味ないよね⁉︎ 嫌がらせだよね!
視界の端で、マルコルの身体が倒れ掛けて、それをジルさんがそそくさ抱き上げる。外に敷かれた布の上に置いていた。
無事……なのか?
ちょっと考えるもすぐに自分のことで頭がいっぱいなる。
なんせ私といえば、王子に蹂躙されるように、熱いもので口腔を優しくなぞりあげられていた。
頭がぼ――っとする。これが身体が怠いせいなのか、その行為によるものなのかは分からない。
なんせ初めてのことだから!
……な、長くない? えっ、ていうか長い長くない⁉︎ これ大人のやつだよね! 大人がするやつだよね‼︎
とか、ふと我に返って目を瞑る。
けど、余計に感覚が鋭くなって。やたらと口の中がくすぐったくて……。
って、いや違う! そんなはずはない!
慌てて目を開けた!
後ろで戻ってきたらしいジルさんの笑い声が聞こえてくる。
帰ってきたなら助けてよ!
でも、今はそれよりも……!
なけなしの力を絞ってそっぽを向く。
「ちょ……、ちょっと。なっ、なにしてるんですか!」
弱々しくも声を絞り出せば、王子は残念そうに「あぁ……」と声を漏らした。
なにが『あぁ……』だ! 睨みつける。
すると、王子は妖しく舌舐めずりなんかをしていた。
きょ……狂気だ!
「わわわ私の身体でなにやってるんですか……」
知らぬ間に身体がわなわな震えていた。そんな私を、王子は満足げに笑っていて。
「僕の身体から、魔力を吸い取っているんだよ。その身体きついでしょ? 魔力は魂に引き寄せられるからね、皮膚接触でもいいけど、粘膜接触の方が効率的なんだ」
粘 膜 接 触!
「で、でも、それなら胸に手を添える必要はないじゃないですか!」
王子の手は、ぴったり私の胸に添えられていた。
「ていうかそもそも、マルコル様が戻れたなら私が入れ替わる意味ないですよね⁉︎」
問えば肝心な部分は全て妖しい笑みで封殺された。
「皮膚接触」
「服着てます! それより、これの意味をちゃんと――」
「脱がしても良いの?」
王子が私の手をワキワキと見せびらかす。
「ダッ、ダメです!」
ははっと笑われた。
なんだか、自分に馬鹿にされてるみたいで余計ダメージがくる!
「残念だなぁ……」
「残念じゃない!」
「でも、僕と君の濃厚な愛の口付けのおかげであれは助かるよ。じきに、落ち着いてくるだろうからね」
王子が横目でマルコルを見た。
「……ほ、本当に?」
訝しみをこれでもかというほどに込めて王子を見た。
だって話が繋がらないし、意味が分からない。
けれど王子は、ニコリと笑う。
「勿論だよ。でもさ、君と僕の深ーい口付けが誰かを救うなんて、やっぱり僕たちは奇跡と運命で固く結ばれ合っているんだろうね」
「の、濃厚とか深いとか……、何度も言わないでください!」
叫ぶと同時にマルコルがなにやら苦しそうな呻き声を上げ始める。
10
お気に入りに追加
1,107
あなたにおすすめの小説
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
姉の代わりに初夜を務めます。そしたらサヨナラです。
木野ダック
恋愛
※身代わり初夜系をツラツラ書いたので、初夜オムニバスとしてこちらにまとめることにしました。
※魔法があったりなかったり。国や世界観もまちまちなので、少し読みにくいかもしれません。特に、救済の初夜はファンタジー要素が多めな気もするので、宜しければ……という程度であげてみました。《以外あらすじ》【献身の初夜】イリス・テレコットは双子の地味な方の妹だった。姉のメイアは華やかで人気がある。そんなメイアに縁談が舞い込んだ。お相手は、堅物美男子で有名な若き侯爵様。話はトントンと進んでいき、いよいよ結婚式。ひとつ問題があった。それは、メイアが非処女であるということ。上級貴族の婚姻においては御法度だった。そんな中で白羽の矢が立ったのが、地味な妹。彼女は、まともに男性と話したことすらなかったのだ。元々、何をしても出来の悪かったイリスの婚姻は殆ど諦められていた。そんな両親は、これ好機とイリスを送り出す。
初夜だけ務めて戻れと言い渡してーー
【救済の初夜】姉の代わりにエイベル王子に公妾の申し入れをされたリーシェは、王子の元から逃げ出すことを決める。リーシェは祖父の力を借りて旅に出て、運命の人に出会うことになる。二人は仲を深めていくのだが、そんな中で王子の魔の手は迫っていてーー
氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます
名無しの夜
恋愛
旧題:婚約者の地位? そんなものは天才な妹に譲りますので私は平民として自由に生きていきます
「私、王子との婚約はアリアに譲って平民として生きようと思うんです」
魔法貴族として名高いドロテア家に生まれたドロシーは事あるごとに千年に一度の天才と謳われる妹と比較され続けてきた。
「どうしてお前はこの程度のことも出来ないのだ? 妹を見習え。アリアならこの程度のこと簡単にこなすぞ」
「何故王子である俺の婚約者がお前のような二流の女なのだ? お前ではなく妹のアリアの方が俺の婚約者に相応しい」
権力欲しさに王子と結婚させようとする父や、妹と比較して事あるごとにドロシーを二流女と嘲笑う王子。
努力して、努力して、それでも認められないドロシーは決意する。貴族の地位を捨てて平民として自由に生きて行くことを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる