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誘拐

応急処置2

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 そう思った瞬間だった。
 そこから始まったのが、驚愕と戦慄に値する行為であり――
 王子は
 無論、私にだ。
 ――はぁ⁉︎
 途端、顔が熱くなる。
 けれどその身体は重く、怠く、苦しかった。それはもう、指一本と動かすのが辛いほど。全身をもの凄い圧で締め付けられているみたいだった。
 目の前は自分……、と天井。
 けれど何故か、表情が全然自分じゃない。同じ顔なのに別人で。
 こんなにギラギラした自分を私は知らなかった。
 止めることも、叫ぶことも、一切の思考が固まってしまう。
 ただ唖然とされるがままの私を王子は笑っていた。とてもとても幸せそうに恍惚と。
 私は多分――いや、確実に王子の中に入ってしまったのだ。
 どういう訳なのかは全くもって分からないけれど……。
 絶対意味ないよね⁉︎ 嫌がらせだよね!
 視界の端で、マルコルの身体が倒れ掛けて、それをジルさんがそそくさ抱き上げる。外に敷かれた布の上に置いていた。
 無事……なのか?
 ちょっと考えるもすぐに自分のことで頭がいっぱいなる。
 なんせ私といえば、王子に蹂躙されるように、熱いもので口腔を優しくなぞりあげられていた。
 頭がぼ――っとする。これが身体が怠いせいなのか、その行為によるものなのかは分からない。
 なんせ初めてのことだから!
 ……な、長くない? えっ、ていうか長い長くない⁉︎ これ大人のやつだよね! 大人がするやつだよね‼︎
 とか、ふと我に返って目を瞑る。
 けど、余計に感覚が鋭くなって。やたらと口の中がくすぐったくて……。
 って、いや違う! そんなはずはない!
 慌てて目を開けた!
 後ろで戻ってきたらしいジルさんの笑い声が聞こえてくる。
 帰ってきたなら助けてよ!
 でも、今はそれよりも……!
 なけなしの力を絞ってそっぽを向く。
「ちょ……、ちょっと。なっ、なにしてるんですか!」
 弱々しくも声を絞り出せば、王子は残念そうに「あぁ……」と声を漏らした。
 なにが『あぁ……』だ! 睨みつける。
 すると、王子は妖しく舌舐めずりなんかをしていた。
 きょ……狂気だ!
「わわわ私の身体でなにやってるんですか……」
 知らぬ間に身体がわなわな震えていた。そんな私を、王子は満足げに笑っていて。
「僕の身体から、魔力を吸い取っているんだよ。その身体きついでしょ? 魔力は魂に引き寄せられるからね、皮膚接触でもいいけど、粘膜接触の方が効率的なんだ」
 粘 膜 接 触!
「で、でも、それなら胸に手を添える必要はないじゃないですか!」
 王子の手は、ぴったり私の胸に添えられていた。
「ていうかそもそも、マルコル様が戻れたなら私が入れ替わる意味ないですよね⁉︎」
 問えば肝心な部分は全て妖しい笑みで封殺された。
「皮膚接触」
「服着てます! それより、これの意味をちゃんと――」
「脱がしても良いの?」
 王子が私の手をワキワキと見せびらかす。
「ダッ、ダメです!」
 ははっと笑われた。
 なんだか、自分に馬鹿にされてるみたいで余計ダメージがくる!
「残念だなぁ……」
「残念じゃない!」
「でも、僕と君の濃厚な愛の口付けのおかげであれは助かるよ。じきに、落ち着いてくるだろうからね」
 王子が横目でマルコルを見た。
「……ほ、本当に?」
 訝しみをこれでもかというほどに込めて王子を見た。
 だって話が繋がらないし、意味が分からない。
 けれど王子は、ニコリと笑う。
「勿論だよ。でもさ、君と僕の深ーい口付けが誰かを救うなんて、やっぱり僕たちは奇跡と運命で固く結ばれ合っているんだろうね」
「の、濃厚とか深いとか……、何度も言わないでください!」
 叫ぶと同時にマルコルがなにやら苦しそうな呻き声を上げ始める。
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