才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
上 下
24 / 178
異世界へ

0024話

しおりを挟む
 自分に向かって近付いて来る男に対し、イオはどう反応するのか迷う。
 近付いて来る男は、明らかにイオに対して敵意を抱いていた。
 その理由はイオにも分かる。
 先程まで会話していた、ウルフィへの態度が気にくわなかったのだろう。
 あるいは、それ以前にイオがウルフィと話してたことそのものが気にくわなかったのかもしれないが。
 見るからに敵意を剥き出しにしている男の様子に、イオは杖を構えようとするものの……

「止めるんだ」
「ウルフィさん!?」

 男がイオに近付くのを止めたのは、男がイオに向かって怒っていた最大の理由であるウルフィ本人だった。
 男がウルフィを尊敬しているのはイオから見ても明らかだ。
 それだけに、イオに詰め寄るのを当の本人であるウルフィに止められてしまえば、男もそれ以上は無茶が出来ない。

「ウルフィさん……」
「君が私のことを思って今のような行動をしているのは分かっているよ。けど、私はそのようなことは望んでいないんだ」
「でも、ウルフィさんにあんな態度を取ったんですよ!?」
「別に構わないだろう? 彼は傭兵でも冒険者でもない一般人なんだ。それにもし傭兵や冒険者であっても、別に私の仲間でもない。それに……別にそこまで気にするようなことはないと思うけどね」

 そう告げるウルフィは、事実イオの言葉遣いや態度をそこまで問題にしてはいない。
 むしろ、自分と気安く会話をしてくれる辺り、好感を抱いてすらいる。

「ほら、君も今はゴブリンの軍勢と星が落ちた件の情報を集めるためにギルドにいるのだろう? 私の相手をしている場合ではないと思うけどね」

 ウルフィのその言葉に、イオに近付こうとしていた男は渋々とではあるが頷く。
 自分の尊敬するウルフィにこうまで言われてしまえば、男としてもこれ以上は何も言えない。
 ……代わりに、男はウルフィから視線を逸らしてイオを強く睨み付けてから、その場を去っていく。

「すまないね」

 男が立ち去ったのを見て、ウルフィがイオに向かってそう頭を下げてくる。
 そんなウルフィに対し、イオは慌てて首を横に振る。

「いえ。そんな。そもそも、今回の件はウルフィさんが悪い訳じゃないんですから」

 これは大袈裟でも何でもなく、イオが心の底から思ったことだ。
 今のような状況でウルフィが責められるといったことは、普通有り得ない。
 もし責められるのなら、それは当然ながら先程イオに向かって怒鳴った男だろう。

「そう言って貰えると助かるよ。彼は……その、自分で言うのもなんだけど、かなり私を慕っていてね。以前ちょっと助けたことがあったんだけど」
「それで、ですか。……でも、ウルフィさんの様子を見る限りだと、それってかなり珍しいんですよね?」
「だろうね。普通は助けて貰ったからといってあそこまで慕ったりはしないんだけど」

 ふぅ、と憂鬱そうな様子を見せるウルフィ。
 ウルフィにしてみれば、自分を慕ってくれるのは嬉しいものの、だからといってやりすぎは困るといったところか。

(あの様子だと、俺に絡んできた以外も色々とやらかしてるんだろうし)

 何となくだが、イオはそう思えた。
 とはいえ、それをウルフィに言えば精神的なダメージを与えそうだったので、言うつもりはなかったが。

「それにしても、ウルフィさんってやっぱり有名人なんですね」
「そうだね。ソロでランクBの傭兵というのは珍しいし。大抵の傭兵は最初はソロでも、ある程度ランクが上がったり実力が上がってきたらどこかの傭兵団に入るか、あるいは自分で傭兵団を作るかといったような真似をするんだ」
「ソロの方が稼ぎは上に思えますけど」
「そうでもないさ。ソロと傭兵団なら、大きな仕事は傭兵団の方にいくしね。もちろん、ソロで活動していれば報酬を独り占め出来るという点では大きいけど、その代わり危険も大きくなる」
「ああ、なるほど。ソロだとその辺が危険ですよね」

 傭兵というのは、当然ながら戦いによって日々の糧を得る者たちだ。
 中には冒険者のようにダンジョンに潜ったり、モンスターを倒したり、場合によっては盗賊になったりといったような真似をする者もいるが。
 ともあれ、戦いで日々の糧を得ている以上、ソロの傭兵は個人で戦いに参加することになる。
 あるいは他の傭兵団に一時的に所属させて貰うか、他のソロの傭兵と一時的に手を組むといったこともあるのだろう。
 ただしそのような真似をした場合、当然ながら報酬を独り占めにするというソロ最大の特権を享受することは出来ない。
 本当に報酬を独り占めにするのなら、全てを自分だけでどうにかする必要があるのは間違いなかった。
 そしてソロでランクBにまで上がってきたということは、ウルフィはそれを出来るだけの実力の持ち主であるのは間違いない。

「でも、ウルフィさんはそんな危険な状況であってもどうにか一人でやって来たから、一人でランクBになれたんですよね? それは素直に凄いと思いますけど」
「ははは。そう言って貰えると嬉しいよ。ただ、私の場合は他の相手と一緒に活動するのが苦手という一面もあるんだけどね」
「……そうなんですか?」

 ウルフィの口から出た言葉は、イオを驚かせ、あるいは疑問を抱かせるには十分だった。
 イオから見た場合、ウルフィはかなり人当たりのいい性格をしている。
 ギルドの中に入ってきて、右も左も分からないといった様子のイオにわざわざ声をかけていることからも、その辺りは明らかだろう。
 そんなウルフィが誰か他の相手と一緒に行動するのが苦手だというのは、イオには信じられなかった。
 実際にこうして話していても、イオはウルフィの人当たりのよさを感じることが出来るのだから。

「ああ、そうなんだよ。それにしても……イオだったよね? 君はこれからどうするんだい?」
「どうする? どうすると言われても、まずは傭兵や冒険者がどういう人たちなのかを知りたいと思ってギルドに来たんですし」
「なるほど。……まぁ、杖を持っている様子からすると、イオは魔法使いなんだろう? なら、よほどのことがない限り、他の傭兵や冒険者には歓迎されるだろうね。それこそ、もしイオが優れた技量を持つ魔法使いなら、私も一緒に仕事をしたいと思うくらいだ」
「えっと、その……ありがとうございますと言った方がいいですよね?」

 ウルフィの言葉には多分にお世辞が入っているのだろうということは、イオにも容易に想像出来る。
 しかし、そのお世辞は見方を変えれば期待という一面もある。
 だからこそ、イオはウルフィのその言葉にも素直に感謝の言葉を口にすることが出来たのだった。
 そんな様子に、ウルフィはイオが何を考えているのかを理解したのだろう。
 小さく笑みを浮かべ、改めて口を開く。

「言っておくけど、私が口にしたのは本心だよ。魔法使い……それも腕の立つ魔法使いというのは、それだけ珍しい存在なんだ」
「え? その……しょ……本気ですか?」

 思わず正気ですか? と尋ねそうになったイオだったが、咄嗟に何とか言葉を変える。
 色々と自分に親切にしてくれたウルフィに対して、まさか正気ですかといったようなことは言えなかったのだ。

「本気だよ。イオにはあまり実感がないようだけど、魔法というのはそれだけ大きな意味を持つ。それこそ、場合によっては戦局を逆転させる切り札になったりもするんだ」
「そうですね」

 ウルフィの言葉に思わず納得してしまったのは、イオの使う流星魔法がまさにその典型だからだろう。
 空から落ちてくる流星による一撃は、それこそ一軍を相手にしても自分たちには被害がないまま、一方的に殲滅することが出来るのだ。
 そうである以上、ウルフィのその言葉は真実でしかない。
 実際にゴブリンの軍勢を一方的に殲滅したイオだけに、その言葉の意味は十分に実感があった。

「分かって貰えたようで何よりだよ。それで、イオは傭兵や冒険者として活動するかどうかは、まだ分からないのかな?」
「そうですね。今は少し前に知り合った傭兵団に世話になっていますから、すぐにどうこうするといったようなことはしなくてもいいんですけど」
「傭兵団に? もしよければ、どこに世話になっているのかを聞いてもいいかな?」

 ウルフィがそのように尋ねたのは、もしかしたらイオが悪質な傭兵団にかかわっているのかもしれないと思ったからだ。
 傭兵団の中には、質の悪い者たちもかなり多い。
 イオに分かりやすく言うのなら、黒き蛇のような傭兵団が特にそうだろう。
 もしイオがそのような傭兵団にかかわっているのなら、出来るだけどうにかしてやりたいと思ったのだ。
 それだけ、短い会話ではあるがウルフィはイオに好感を持ったのだろう。

「黎明の覇者ですね」
「……は?」

 だからこそ、イオがそう口にした瞬間、ウルフィの動きは止まる。
 いや、動きが止まったのはウルフィだけではない。
 イオやウルフィの周囲で話を聞いていた他の者たちもまた同様に動きを止めていた。
 ランクA傭兵団、黎明の覇者。
 その名前は当然多くの傭兵団に知られており、多くの傭兵にとっては憧れの存在でもあった。
 いつか傭兵として名前を上げて黎明の覇者に入団したい。
 そのように思っている者も、決して少なくないだろう。
 だからこそ、まさかイオの……それこそろくに鍛えているようにも思えない男の口から黎明の覇者の名前が出たことに驚いたのだろう。

(あれ、もしかしてやらかしたか?)

 レックスとの一件で黎明の覇者のネームバリューがもの凄いことは知っている。
 だが、レックスの場合は最初から傭兵に憧れを持っており、だからこそ黎明の覇者に食いついた……と、そうイオは思っていた。
 だからこそここで黎明の覇者の名前を出した途端、驚かれるのはともかく、周囲が静まりかえるといったようなことになるはイオにとっても予想外だったのだ。

「一応言っておきますけど、別に俺が黎明の覇者に所属してる訳じゃないですよ? ちょっとした問題があって、そのときに黎明の覇者に助けて貰ったというだけで」

 嘘ではないが、本当でもない。
 そんな内容を、慌てて口にするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...