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68話
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「あら、白夜がトワイライトと一緒に仕事を? また……随分と急ですわね」
紅茶を飲みながら、麗華はその報告書を見て呟く。
ネクストの生徒がトワイライトのメンバーと一緒に仕事をするのは、多くある……という訳ではないが、皆無という訳でもない。
それだけに、今回の一件は納得出来るものでもあった。
何より、白夜がゲートの一件で成長させ、見せた力。
ゴブリンの死体を闇に吸収し、その闇でゴブリンを生み出して自分の戦力として使役するというその能力は、光皇院家の令嬢として、そして乙女座のゾディアックの地位にいる者として、今まで幾多もの能力を見てきた中でも初めて見る能力だ。
その能力を詳しく調査し、友好的に使う方法を確立するということは、能力者を運用しているトワイライトやネクストの人間としては当然だろう。
「白夜の能力次第では……もしかしたら、新たなゾディアックになる可能性もあるかもしれませんわね」
チョコチップの入ったクッキーを口に運び、サクリとした食感と口の中でチョコチップの食感と甘さを楽しむ。
そのクッキーの味を楽しみながら、自分と同格のゾディアックの者たちの姿を思い浮かべる。
どの者も能力者という点では非常に強い能力を持っている。
だが、白夜の持つ能力は、場合によってはそれを上回るだけの潜在能力を秘めている……というのが、麗華の予想……いや、確信だった。
今のままでは、まだ実力不足なのは明らかだろう。
だが、白夜の能力は、その足りない実力を補うことも十分可能なだけの性能を持つのだ。
それこそ、強力なモンスターを闇に吸収し、その闇のモンスターを遠くから自由に扱えるようになれば……それこそ、白夜本人が戦いの現場に出るような必要はなくなる。
そうなれば、白夜本人の能力はそこまで関係してこない。
(とはいえ、白夜の性格を考えるとそれを許容するかどうかは、難しいところでしょうけど)
紅茶を飲みながら、麗華はそう考える。
麗華が知っている白夜という人物は、自分の能力で生み出したモンスターだけを前線に向かわせ、本人は背後でじっとしているといった真似はまずしないだろうという確信があった。
「そうなると、結局……白夜が強くなるのが重要になってくる訳ですけど、今回の一件で多少なりとも戦闘力が上がるのかしら。……難しいわね」
今回の一件は、あくまでも白夜の能力を確認し、育てるための仕事だ。
戦闘もあるかもしれないが、それでも主な仕事は道を通すことであり、白夜本人の戦闘力という点での成長はそこまで望めないだろう。……それが麗華の予想だったが、軍隊蟻がいるという時点で嫌でも戦闘は行われる。
それが麗華の考えている戦闘であるかどうかは、また別の話だったが。
そうして考えながら紅茶を楽しんでいた麗華だったが、一度白夜のことを考えると、どうしてもそちらが気になってしまう。
(何故、私はここまで白夜のことが気になるのかしら)
自分の能力が光で、白夜がその対をなす闇であるというのが関係しているのだろうとは思う。
だがその能力だけではなく、それ以外の理由よって……そう考えると、白夜と二人でゴブリンの異常種と戦ったときのことを思い出す。
自分でも知らず知らずのうちに。
そして……余計に麗華は自分の心がざわつくのを感じる。
(病気かしら? ……いえ、この前の検査では時に何も異常がなかったのは間違いないわ。そうなると……)
自分の中に起きた変化を考えていいたその瞬間、まるでそのタイミングを狙っていたかのように、PDAの着信音が周囲に響く。
「っ!? ……誰かしら」
もしかかってきたのが業務用のPDAであれば、そこまで疑問に思うようなことはなかっただろう。
だが、かかってきたのはプライベート用の方だ。
そちらに連絡をしてくる者は、皆無……という訳ではないが、数は圧倒的に少ないのは間違いのない事実だった。
光皇院財閥の令嬢として、表向きの友人と呼ぶべき者は多くいる。
だが、その多くは自分の権力にすり寄ってきているような者たちが大半であって、本当の意味での友人となると、その数は驚くほどに少なくなってしまう。
小さい頃はそれを寂しく思っていた麗華だったが、そのような状況が続けば、当然のようにそのような状況にも慣れる。
……だからこそ、今このときにいきなり着信があったときに驚いたのだ。
「お父様やお母様からかしら。……五十鈴(いすず)?」
PDAに表示されていたのは、白夜のことを知ったゲートの一件で知り合った、南風(なんぷう)五十鈴のものだった。
表向きは鈴風ラナというアイドルとして活動している人物だが、その実は東京を守る古くから続く一族、南風家の者。
だが、特に親しい訳でもない五十鈴が、何故自分の連絡をしてきたのか。
それが分からず、疑問に思い……それでも結局は直接聞くのが一番早いだろうと考え、通信に出る。
「こんな時間に、一体どうしましたの?」
そんな麗華の言葉に、映像モニタに表示された五十鈴は呆れたように口を開く。
『こんな時間って言われても、別にそこまで常識外れという時間じゃないでしょ?』
現在は午後八時すぎ。
その時間に通信を送ってくるのが常識外れかどうかというのは、それこそ人によって意識が違うだろう。
麗華にしてみれば常識外れに近い時間だったが、アイドルとしても活動している五十鈴にしてみれば、そこまでおかしな時間という訳ではない。
それこそ、芸能界では二十四時間いつでも連絡をするというのは、当然のことなのだから。
それを思えば、午後八時というのは普通に連絡するのに全く問題はない時間だった。
「全く」
口では若干不満そうに言う麗華だったが、その表情には微かに柔らかいものがある。
五十鈴もそれを察したのか、素直じゃないんだからといった視線を向け、それでも直接口に出せば麗華の機嫌が悪くなるだろうと判断し、素直に本題に入る。
『それで……その、白夜って今どうしているの?』
「……え?」
五十鈴の言葉に咄嗟に答えることが出来なかったのは、麗華もつい先程まで白夜のことを考えていたからだろう。
あまりにタイミングがよすぎ、だからこそ今の状況では何をどう言うべきか迷ったのだ。
だが、五十鈴にそれが分かるはずがない。
映像モニタの向こう側で、五十鈴は不思議そうに小首を傾げる。
……アイドルをやっているためか、その仕草は人の目を惹きつけるような、不思議な魅力があった。
ととはいえ、男ならともかく女、それも五十鈴と同等の美貌を持っている麗華にしてみれば、そのような仕草に目を奪われるはずもない。
むしろその行動で我に返った麗華は、自分を落ち着かせるように紅茶を口に運び……冷めていることに微かに眉を顰めつつ、口を開く。
「白夜でしたら、今頃はトワイライトの仕事に引っ張り出されているはずですわ」
『トワイライトの? 何でまた? 白夜はまだネクストの生徒……ああ、つまりそういうことね』
自分で言っていて、五十鈴もその理由に思い当たったのだろう。納得したように頷き、言葉を続ける。
『白夜の新しい能力の確認と成長のため……といったところかしら』
「正解ですわ。恐らく今頃は、あの新しい能力を使って色々と試していることでしょう。……とはいえ、問題もない訳ではないのですが」
『問題?』
「ええ。白夜の能力は、あくまでも倒したモンスターの死体を吸収し、その上で闇でそのモンスターを生み出すというもの。弱いモンスターは弱いまま、強いモンスターは強いまま、といった具合に。もっとも多少の強化はされているようですが」
『まぁ、それはしょうがないんじゃない? 元々、闇で吸収した存在を自由に作り出すことが出来るというだけで、半ば反則的な能力なんだから』
五十鈴の言葉に、麗華はそうでしょうねと頷きを返す。
麗華もそれは分かっているのだが、出来れば白夜の能力はもっと強力な能力であればよかった……と、そう思っているのは事実だ。
だからこそ、自然と白夜に対する点数が厳しくなってしまうのだろう。
「それは分かりますけどね。仮にも私の光と対となる能力である以上、白夜にはもっと強くなって貰いませんと」
『白夜も色々と大変ね』
「あら、そう? でも……」
そうして五十鈴に何かを言おうとした麗華だったが、その言葉を遮るように扉がノックされる音が部屋の中に響く。
「誰かしら。少し待っててちょうだい。……入りなさい」
五十鈴にそう告げ、ノックの主に部屋に入るように促す。
すると入ってきたのは、麗華にとっても馴染みのある人物だった。
「あら、セバス。どうしましたの?」
「失礼します、お嬢様。お耳に入れておいた方がいいだろう情報が入りましたので」
「……意味深ですわね。セバスが直接出向いたということは、それだけ重要なのでしょうけど。……五十鈴、悪いですけど今日はこの辺で通信を切らせて貰いますわね」
『あー、そうね。そっちの様子を見る限りでは、そうした方が良さそうね』
五十鈴はそう告げ、最後に一言二言麗華と言葉を交わすと、通信を切る。
通信が切れたのを見て、麗華がセバスに視線を向け……すると、セバスが笑みを浮かべながら自分の方を見て、一瞬戸惑う。
「どうしましたの? 何か面白いことでもあったかしら」
「いえ、お嬢様にも良いご友人が出来たと思って」
友人。
それが誰のことを言っているのかを理解し、麗華は反射的に何かを言い返そうとするも……自分が今まで五十鈴と話していた光景を客観的に見れば、どのように見えるのかは明らかであり、ここで何かを言っても意味がないと判断出来た為だ。
「ん、こほん。それはいいとして……私の耳にいれておいた方がいいという情報は一体なんですの?」
話を変える……いや、この場合は元に戻すと言うべきか。ともあれそう尋ねた麗華の言葉に、セバスは小さく笑みを浮かべたあとで真剣な表情になって口を開く。
「先日、麗華様が解決したゲートの一件について、日本に外国から何人もの能力者が違法に入国しているという点は以前お話ししたと思いますが……」
「セバス、言葉は正確にしなさい。あの件は、別に私だけの力で解決したのではありません。白夜や、他の者たちの力もあったからこそです」
そう言いながらも、麗華は日本に多くの能力者が侵入してくるのは仕方がないという思いもある。
今まで、この世界ではいくつものゲートが開いた。
だが、その中でもっとも短いゲートであっても、自然に閉じるまで一ヶ月程度はかかったいたのだ。
当然ゲートが開いている間は、そこから出てくるモンスターの類が周囲に被害を与えるので、日本でいうトワイライトのような部隊が、ゲートから出てくるモンスターに対処する必要があり、それはその国にとって大きな負担となっていた。
ましてや、そこで倒しきれなかったモンスターは、地球で繁殖して増えることすらある。
だというのに、先日東京の近くで開いたゲートは実質一日かそこらで閉じたのだ。
それを考えれば、各国が日本がゲートの研究について何らかの進展があったのでは? と、そう疑ってもおかしくはない。
しかし、それを日本政府やトワイライトに尋ねても、当然の如く答えは否だ。
……実際に研究に何らかの進展があった訳でもないのだから、その答えは当然のものだったのだが。
だが、実際にゲートが閉じたということを確認している以上、他国ではそれを真実とは思わない。
日本が情報を隠蔽していると判断し、それを暴こうと……いや、自分たちの国だけがその技術を得ようと、そう判断し、行動に移してもおかしくはなかった。
「全く。一応報告書は上に提出してますし、各国ともそれを読んでいるのでしょうに」
麗華が憂鬱そうに呟くが、その麗華本人ですら、もし自分が経験したことではなく、他人から聞かされていれば、あのゲートの件はすぐに信じることは出来なかっただろうという確信がある。
それでも実際に起きたことである以上は、当然ながら潜入しても意味はないのだが……
「そうですね。ですが、侵入している各国にはどうしても信用出来ないのでしょう。……ただ、この場合は侵入している各国の能力者が狙うのは、お嬢様ではなく……」
「白夜を襲うと言うんですの?」
今回のゲートの一件で一番活躍したのは、麗華と白夜なのは間違いない。
それは、当然のように報告書に書かれていた。
そうである以上、日本に不法入国してきた者たちが誰を狙うのかは明らかだ。
麗華を狙うのは、光皇院財閥の力を考えると難しい。
であれば、当然のように次に狙うべきなのは……白夜の方になるのは当然だった。
紅茶を飲みながら、麗華はその報告書を見て呟く。
ネクストの生徒がトワイライトのメンバーと一緒に仕事をするのは、多くある……という訳ではないが、皆無という訳でもない。
それだけに、今回の一件は納得出来るものでもあった。
何より、白夜がゲートの一件で成長させ、見せた力。
ゴブリンの死体を闇に吸収し、その闇でゴブリンを生み出して自分の戦力として使役するというその能力は、光皇院家の令嬢として、そして乙女座のゾディアックの地位にいる者として、今まで幾多もの能力を見てきた中でも初めて見る能力だ。
その能力を詳しく調査し、友好的に使う方法を確立するということは、能力者を運用しているトワイライトやネクストの人間としては当然だろう。
「白夜の能力次第では……もしかしたら、新たなゾディアックになる可能性もあるかもしれませんわね」
チョコチップの入ったクッキーを口に運び、サクリとした食感と口の中でチョコチップの食感と甘さを楽しむ。
そのクッキーの味を楽しみながら、自分と同格のゾディアックの者たちの姿を思い浮かべる。
どの者も能力者という点では非常に強い能力を持っている。
だが、白夜の持つ能力は、場合によってはそれを上回るだけの潜在能力を秘めている……というのが、麗華の予想……いや、確信だった。
今のままでは、まだ実力不足なのは明らかだろう。
だが、白夜の能力は、その足りない実力を補うことも十分可能なだけの性能を持つのだ。
それこそ、強力なモンスターを闇に吸収し、その闇のモンスターを遠くから自由に扱えるようになれば……それこそ、白夜本人が戦いの現場に出るような必要はなくなる。
そうなれば、白夜本人の能力はそこまで関係してこない。
(とはいえ、白夜の性格を考えるとそれを許容するかどうかは、難しいところでしょうけど)
紅茶を飲みながら、麗華はそう考える。
麗華が知っている白夜という人物は、自分の能力で生み出したモンスターだけを前線に向かわせ、本人は背後でじっとしているといった真似はまずしないだろうという確信があった。
「そうなると、結局……白夜が強くなるのが重要になってくる訳ですけど、今回の一件で多少なりとも戦闘力が上がるのかしら。……難しいわね」
今回の一件は、あくまでも白夜の能力を確認し、育てるための仕事だ。
戦闘もあるかもしれないが、それでも主な仕事は道を通すことであり、白夜本人の戦闘力という点での成長はそこまで望めないだろう。……それが麗華の予想だったが、軍隊蟻がいるという時点で嫌でも戦闘は行われる。
それが麗華の考えている戦闘であるかどうかは、また別の話だったが。
そうして考えながら紅茶を楽しんでいた麗華だったが、一度白夜のことを考えると、どうしてもそちらが気になってしまう。
(何故、私はここまで白夜のことが気になるのかしら)
自分の能力が光で、白夜がその対をなす闇であるというのが関係しているのだろうとは思う。
だがその能力だけではなく、それ以外の理由よって……そう考えると、白夜と二人でゴブリンの異常種と戦ったときのことを思い出す。
自分でも知らず知らずのうちに。
そして……余計に麗華は自分の心がざわつくのを感じる。
(病気かしら? ……いえ、この前の検査では時に何も異常がなかったのは間違いないわ。そうなると……)
自分の中に起きた変化を考えていいたその瞬間、まるでそのタイミングを狙っていたかのように、PDAの着信音が周囲に響く。
「っ!? ……誰かしら」
もしかかってきたのが業務用のPDAであれば、そこまで疑問に思うようなことはなかっただろう。
だが、かかってきたのはプライベート用の方だ。
そちらに連絡をしてくる者は、皆無……という訳ではないが、数は圧倒的に少ないのは間違いのない事実だった。
光皇院財閥の令嬢として、表向きの友人と呼ぶべき者は多くいる。
だが、その多くは自分の権力にすり寄ってきているような者たちが大半であって、本当の意味での友人となると、その数は驚くほどに少なくなってしまう。
小さい頃はそれを寂しく思っていた麗華だったが、そのような状況が続けば、当然のようにそのような状況にも慣れる。
……だからこそ、今このときにいきなり着信があったときに驚いたのだ。
「お父様やお母様からかしら。……五十鈴(いすず)?」
PDAに表示されていたのは、白夜のことを知ったゲートの一件で知り合った、南風(なんぷう)五十鈴のものだった。
表向きは鈴風ラナというアイドルとして活動している人物だが、その実は東京を守る古くから続く一族、南風家の者。
だが、特に親しい訳でもない五十鈴が、何故自分の連絡をしてきたのか。
それが分からず、疑問に思い……それでも結局は直接聞くのが一番早いだろうと考え、通信に出る。
「こんな時間に、一体どうしましたの?」
そんな麗華の言葉に、映像モニタに表示された五十鈴は呆れたように口を開く。
『こんな時間って言われても、別にそこまで常識外れという時間じゃないでしょ?』
現在は午後八時すぎ。
その時間に通信を送ってくるのが常識外れかどうかというのは、それこそ人によって意識が違うだろう。
麗華にしてみれば常識外れに近い時間だったが、アイドルとしても活動している五十鈴にしてみれば、そこまでおかしな時間という訳ではない。
それこそ、芸能界では二十四時間いつでも連絡をするというのは、当然のことなのだから。
それを思えば、午後八時というのは普通に連絡するのに全く問題はない時間だった。
「全く」
口では若干不満そうに言う麗華だったが、その表情には微かに柔らかいものがある。
五十鈴もそれを察したのか、素直じゃないんだからといった視線を向け、それでも直接口に出せば麗華の機嫌が悪くなるだろうと判断し、素直に本題に入る。
『それで……その、白夜って今どうしているの?』
「……え?」
五十鈴の言葉に咄嗟に答えることが出来なかったのは、麗華もつい先程まで白夜のことを考えていたからだろう。
あまりにタイミングがよすぎ、だからこそ今の状況では何をどう言うべきか迷ったのだ。
だが、五十鈴にそれが分かるはずがない。
映像モニタの向こう側で、五十鈴は不思議そうに小首を傾げる。
……アイドルをやっているためか、その仕草は人の目を惹きつけるような、不思議な魅力があった。
ととはいえ、男ならともかく女、それも五十鈴と同等の美貌を持っている麗華にしてみれば、そのような仕草に目を奪われるはずもない。
むしろその行動で我に返った麗華は、自分を落ち着かせるように紅茶を口に運び……冷めていることに微かに眉を顰めつつ、口を開く。
「白夜でしたら、今頃はトワイライトの仕事に引っ張り出されているはずですわ」
『トワイライトの? 何でまた? 白夜はまだネクストの生徒……ああ、つまりそういうことね』
自分で言っていて、五十鈴もその理由に思い当たったのだろう。納得したように頷き、言葉を続ける。
『白夜の新しい能力の確認と成長のため……といったところかしら』
「正解ですわ。恐らく今頃は、あの新しい能力を使って色々と試していることでしょう。……とはいえ、問題もない訳ではないのですが」
『問題?』
「ええ。白夜の能力は、あくまでも倒したモンスターの死体を吸収し、その上で闇でそのモンスターを生み出すというもの。弱いモンスターは弱いまま、強いモンスターは強いまま、といった具合に。もっとも多少の強化はされているようですが」
『まぁ、それはしょうがないんじゃない? 元々、闇で吸収した存在を自由に作り出すことが出来るというだけで、半ば反則的な能力なんだから』
五十鈴の言葉に、麗華はそうでしょうねと頷きを返す。
麗華もそれは分かっているのだが、出来れば白夜の能力はもっと強力な能力であればよかった……と、そう思っているのは事実だ。
だからこそ、自然と白夜に対する点数が厳しくなってしまうのだろう。
「それは分かりますけどね。仮にも私の光と対となる能力である以上、白夜にはもっと強くなって貰いませんと」
『白夜も色々と大変ね』
「あら、そう? でも……」
そうして五十鈴に何かを言おうとした麗華だったが、その言葉を遮るように扉がノックされる音が部屋の中に響く。
「誰かしら。少し待っててちょうだい。……入りなさい」
五十鈴にそう告げ、ノックの主に部屋に入るように促す。
すると入ってきたのは、麗華にとっても馴染みのある人物だった。
「あら、セバス。どうしましたの?」
「失礼します、お嬢様。お耳に入れておいた方がいいだろう情報が入りましたので」
「……意味深ですわね。セバスが直接出向いたということは、それだけ重要なのでしょうけど。……五十鈴、悪いですけど今日はこの辺で通信を切らせて貰いますわね」
『あー、そうね。そっちの様子を見る限りでは、そうした方が良さそうね』
五十鈴はそう告げ、最後に一言二言麗華と言葉を交わすと、通信を切る。
通信が切れたのを見て、麗華がセバスに視線を向け……すると、セバスが笑みを浮かべながら自分の方を見て、一瞬戸惑う。
「どうしましたの? 何か面白いことでもあったかしら」
「いえ、お嬢様にも良いご友人が出来たと思って」
友人。
それが誰のことを言っているのかを理解し、麗華は反射的に何かを言い返そうとするも……自分が今まで五十鈴と話していた光景を客観的に見れば、どのように見えるのかは明らかであり、ここで何かを言っても意味がないと判断出来た為だ。
「ん、こほん。それはいいとして……私の耳にいれておいた方がいいという情報は一体なんですの?」
話を変える……いや、この場合は元に戻すと言うべきか。ともあれそう尋ねた麗華の言葉に、セバスは小さく笑みを浮かべたあとで真剣な表情になって口を開く。
「先日、麗華様が解決したゲートの一件について、日本に外国から何人もの能力者が違法に入国しているという点は以前お話ししたと思いますが……」
「セバス、言葉は正確にしなさい。あの件は、別に私だけの力で解決したのではありません。白夜や、他の者たちの力もあったからこそです」
そう言いながらも、麗華は日本に多くの能力者が侵入してくるのは仕方がないという思いもある。
今まで、この世界ではいくつものゲートが開いた。
だが、その中でもっとも短いゲートであっても、自然に閉じるまで一ヶ月程度はかかったいたのだ。
当然ゲートが開いている間は、そこから出てくるモンスターの類が周囲に被害を与えるので、日本でいうトワイライトのような部隊が、ゲートから出てくるモンスターに対処する必要があり、それはその国にとって大きな負担となっていた。
ましてや、そこで倒しきれなかったモンスターは、地球で繁殖して増えることすらある。
だというのに、先日東京の近くで開いたゲートは実質一日かそこらで閉じたのだ。
それを考えれば、各国が日本がゲートの研究について何らかの進展があったのでは? と、そう疑ってもおかしくはない。
しかし、それを日本政府やトワイライトに尋ねても、当然の如く答えは否だ。
……実際に研究に何らかの進展があった訳でもないのだから、その答えは当然のものだったのだが。
だが、実際にゲートが閉じたということを確認している以上、他国ではそれを真実とは思わない。
日本が情報を隠蔽していると判断し、それを暴こうと……いや、自分たちの国だけがその技術を得ようと、そう判断し、行動に移してもおかしくはなかった。
「全く。一応報告書は上に提出してますし、各国ともそれを読んでいるのでしょうに」
麗華が憂鬱そうに呟くが、その麗華本人ですら、もし自分が経験したことではなく、他人から聞かされていれば、あのゲートの件はすぐに信じることは出来なかっただろうという確信がある。
それでも実際に起きたことである以上は、当然ながら潜入しても意味はないのだが……
「そうですね。ですが、侵入している各国にはどうしても信用出来ないのでしょう。……ただ、この場合は侵入している各国の能力者が狙うのは、お嬢様ではなく……」
「白夜を襲うと言うんですの?」
今回のゲートの一件で一番活躍したのは、麗華と白夜なのは間違いない。
それは、当然のように報告書に書かれていた。
そうである以上、日本に不法入国してきた者たちが誰を狙うのかは明らかだ。
麗華を狙うのは、光皇院財閥の力を考えると難しい。
であれば、当然のように次に狙うべきなのは……白夜の方になるのは当然だった。
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このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
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