上 下
384 / 422
ガリンダミア帝国との決着

383話

しおりを挟む
「ほう、それはまた……随分と厄介な敵がいるようですね」

 未知の敵の攻撃を凌いだ……正確には一度しか攻撃せず、その後はいくら待っても全く攻撃される様子がなかったので、拠点に戻ってきたアランはイルゼンに自分の体験した事態について説明した。
 いつものように軽い様子で呟いたイルゼンだったが、その表情には少しばかり真剣な色がある。
 色々な心核使いを見てきたイルゼンの目から見ても、ゼオンというのは突出した能力を持っている。
 そんなゼオンですら把握出来ない攻撃。
 これは脅威以外のなにものでもない。
 それこそ、アランとゼオンであったからこそ回避出来ただけで、もし偵察に向かったのが他の者であれば一体どうなっていたか。
 考えるまでもなく、明らかだろう。

「で、どうします? どういう敵にかは分からないですけど、俺たちが狙われている可能性は、これではっきりしました。この件を片付けてから出撃しますか?」
「それは難しいでしょうね。ゼオンですら、敵がどこにいるのか分からなかったのでしょう? であれば、この件を片付くのがいつになるのか分かりません。僕たちは、あまり時間的な余裕はないのですよ。連合軍の件もありますし」

 そう言われれば、アランも納得しない訳にはいかない。
 ましてや、アランは連合軍を構成している軍隊がガリンダミア帝国の従属国の街を略奪している光景をその目で見ている。
 もしアランたちがここで行動に戸惑うようなことになった場合、そのような光景が他で何度も同じようになる……といった可能性は否定出来ない。
 アランとしては、自分たちの行動の結果であのような光景を作り出すといったような真似は、可能な限りしたくなかった。

(とはいえ、予定通り進軍したからといって略奪が起きない訳でもないだろうけど)

 むしろ、連合軍が進軍することにより、連合運は新たな村や街、都市を目にし、そこで略奪をするといったような可能性は決して否定出来なかった。
 いくらアランが略奪の類はして欲しくないと言ったり、あるいはイルゼンが連合軍を結成するとき、決して略奪をしないようにと言っていても……人の欲望を止めるのは、そう簡単なことではない。
 実際、アランが略奪を止めた軍隊も、別に国から略奪をしろと命じられた訳ではないし、略奪の許可を貰った訳でもない。
 あくまでも指揮官の欲望から、略奪を行ったのだ。
 ……もっとも、欲望に負けた司令官は自分の命でその代価を支払うことになったが。

「けど、そうなると……移動しているときに、何らかの攻撃を受ける可能性は否定出来ませんよ?」
「でしょうね。ですが、アラン君の話によれば、敵の攻撃は一度だけ。それ以後は全く攻撃をしてこなかったのでしょう?」
「そうですけど、今回は向こうの気紛れでそんな感じになった可能性も否定は出来ませんよ?」

 未知の攻撃をしてきた相手が、どのような手段で行ったのか……また、どこから攻撃をしてきたのかというのは、アランにも分からない。
 アランに向かって今日一度だけされた攻撃が、偶然そのような形になっただけといった可能性は、否定出来ないのだ。
 もしアランの言葉を信じて明日出撃し、その結果次々と未知の攻撃を連射されるようなことになった場合、アランとしてはそれにどう対処すればいいのか分からない。
 だからこそ、イルゼンの次の言葉に驚く。

「それは大丈夫でしょう」

 そう、言い切ったのだ。
 何故そのように言い切れるのか。

(もしかして、俺に攻撃をしてきた相手の正体を知っている……とか? それはそれで疑問だけど納得は出来てしまうんだよな)

 アランはそんな風に思ってしまう。
 色々と底知れないところのあるイルゼンだけに、実はゼオンを攻撃してきた未知の相手の正体を知っていると言っても、アランは驚かない。
 いや、むしろ納得すらしてしまうだろう。
 イルゼンには、そんな底知れなさがある。
 とはいえ、それでもイルゼンの周囲から人が離れていかないのは、イルゼンが何だかんだと悪い人間ではないと、そう皆が理解しているからなのだろう。
 あるいは、飄々としているイルゼンだけに、放っておけないと思っている者も多いのかもしれないが。

「とにかく、明日の出発は延期しません」
「……分かりました。イルゼンさんがそう言うのなら。ただ、本当に何がどうなってもしりませんよ? 俺が対処出来るのなら対処しますけど」
「ほう。では、やはりアラン君に対処して貰いましょうか」
「え?」

 イルゼンが一体何を言ってるのか、アランには分からない。
 だが、イルゼンはいつもの胡散臭い笑みを浮かべ、口を開く。

「僕の予想が正しければ、向こうが狙ってくるのはあくまでもアラン君……いえ、正確にはゼオンです」
「……それは……」

 アランはイルゼンの言葉に驚くが、考えてみればそこまでおかしな話ではない。
 そもそもの話、ガリンダミア帝国が求めているのは、あくまでもアランという心核使いなのだ。
 であれば、未知の攻撃を放った相手がアランだけを狙うというイルゼンの言葉も、決して有り得ない訳でないと思ってしまう。

「もちろん、本当にアラン君だけを狙っているとは限らない以上、もしかしたらこちらにも攻撃をしてくる可能性はあります。そうである以上、一応こちらでも何かあったときに対処出来るようにはしますが……それでも、恐らく敵の狙いはアラン君で間違いないでしょう」

 どのような確信があるのか、イルゼンはそう言い切る。
 そんなイルゼンの様子にアランは何かを言おうとするものの、結局自分を狙ってくるのなら、まだその方が対処はしやすいだろうと、半ば自分に言い聞かせるように考えた。

「そうなると、俺は別行動をとった方がいいですか? 下手をしたら、攻撃を回避したときに味方をその行動に巻き込んでしまいかねないですし」

 未知の敵の攻撃は、心核使いに特化している能力を持つアランがゼオンに乗って、いるアランであっても確実に回避出来るとは限らない。
 それこそ、一度だけしかアランも攻撃を受けたことはないのだが、それを考えると回避出来たのが奇跡だと、そう言っても決して間違いではないだろう攻撃だった。
 それだけに、もし明日以降進軍している中で突然攻撃されるようなことがあった場合、アランは半ば反射的に回避行動を取るだろう。
 そうなると、当然ながら周囲にいる者たちのことを考えて行動するような余裕はない。
 周囲にいる者たちのことを考えて行動するとなると、間違いなく敵の攻撃を回避出来ないだろう。
 具体的にどのような攻撃をされているのかが分からない以上、攻撃が命中したときにどうなるかが全く分からないし、アランもそんな未知の攻撃に命中したりといったようなことには絶対になりたくない。
 その一撃がゼオンには効果がないというのなら、まだ受けてもいいのだが。
 しかし、未知の攻撃だけに一体どのような効果があるのか、分からない。
 それこそ最悪の場合は、ゼオンに命中した瞬間にゼオンを破壊する……などといったようなことにならないとも限らないのだ。
 そうである以上、アランとしては周囲に人がいても、最悪の場合はそれに構うような余裕がない。
 周囲の者たちに被害が出ないようにするためには、やはりアランが単独行動をした方がいいのは間違いなかった。

「うーん、アラン君一人だと、さすがに心配ですね」
「けど、レオノーラを連れていく訳にもいかないでしょう? 黄金の薔薇を纏める仕事があるし」

 アランとしては、レオノーラと一緒に行動出来れば非常に頼もしい。
 それこそ、雲海や黄金の薔薇に所属している心核使いで、空を飛ぶ能力を持っているのはアランとレオノーラの二人だけだ。
 それだけに、アランが行動する際にレオノーラが一緒にいると、非常に助かるのだ。
 しかし、そのレオノーラも現在はとてもではないがアランが言うように黄金の薔薇という自分のクランを率いる必要があった
 ただでさえ、今まで黄金の薔薇を離れてアランと行動を共にしていたのだ。
 それを考えれば、また明日アランと一緒に行動したいとレオノーラが言っても、黄金の薔薇の面々が反対するだろう。
 それはレオノーラと近しい関係にあるアランに対する嫉妬もあるし、それ以外にもアランが謎の攻撃を受けたというのを知れば、それにラオノーラを巻き込むなといったように考えてもおかしくはない。
 ともあれ、アランは明日は別行動するというのを、イルゼンも納得するのだった。





 翌日、アランは雲海、黄金の薔薇、レジスタンスとは離れて行動することになった。
 とはいえ、それはあくまでも離れて行動するということであって、別行動をする訳ではない。
 本隊がガリンダミア帝国軍の攻撃を受けたとき、それに対応する必要があるから。
 アランは自分が本隊の側にいてもいいのか? と疑問に思うものの、それでも今の状況を思えばそれも仕方がないかと判断する。
 未知の攻撃が脅威なのは事実なのだが、それを考えてもゼオンという存在は圧倒的なまでの信頼感を抱かせるには十分だ。
 当然の話だが、雲海や黄金の薔薇の探索者たちはともかく、レジスタンスの中には未だにガリンダミア帝国に反抗することを恐れている者もいる。
 他の者が聞けば、レジスタンスに入っておきながら一体何を? といったように思っても仕方がない。
 しかし、レジスタンスに入っているとはいえ、中には半ば成り行きでといったような者もいるし、あくまでも格好だけレジスタンスに所属していただけなのに、いつの間にかここまで話が進んでいる……といったような者もいる。
 そういう者たちにしてみれば、アランの乗るゼオンというのは圧倒的なまでの迫力で強い安心感を抱かせるには十分だった。
 ゼオンを敵にしたガリンダミア帝国軍にしてみれば、災厄の象徴と言ってもいいだろう。
 もっとも、ガリンダミア帝国軍はその災厄の象徴を手に入れるべく、頑張って行動しているのだから。
 そのような訳で、ガリンダミア帝国軍と敵対する者にしてみればゼオンはレオノーラが変身する黄金のドラゴンと共に、希望の象徴でもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

アラヌスと海底遺跡

紗吽猫
ファンタジー
剣と魔法の遺跡探求王道ファンタジー。 そこは宇宙の中の世界樹からなる小さな星。古来から魔法と共にあったその星には、先祖が残した遺跡や謎が満ちている。また、様々な種族が暮らし、幻獣や精霊といった存在もいる。 そんな星の、とある海の近くの街に住み、海岸を望む小さな丘に佇む少年がひとり。 彼の名はアラヌス・カーネル。幼い頃から遺跡探究が好きで、暇があれば遺跡へと足しげく通っている。 そんなアラヌスには幼馴染であるルチーナ・フォレイシュという少女がいる。何やらご立腹にようで、アラヌスを追いかけているようだった。 だが、その二人が行き着いた街の近くの海岸で、彼らの日常を覆す出来事が起きてしまった。突然、嵐でもないのに穏やかだった海が荒々しく波をうち始めたのだ。 このままでは、街が危ないかもしれない…。 アラヌスとルチーナは海が荒れた原因を探すため、魔法を使い、原因の元へ! 二人がたどり着いたのは、とある遺跡のようだった。一体、こんな遺跡に何があると言うのか。 こうしている間も海は荒れ続けているという話になり、アラヌスとルチーナには焦りが見え始める。 突如、荒れ始めた海の原因はなんなのか! アラヌス達は原因を探り、街を救い、問題を解決するため行動を開始するー! アラヌスとルチーナは無事、原因を突き止め、街を救うことができるのかー…。 ※こちらはエブリスタ、なろうでも掲載しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

処理中です...