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辺境にて
080話
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ざわり、と。
パーティ会場に姿を現したレオノーラを見た者が、男女関係なくざわめく。
当然だろう。
元々レオノーラは、歴史上希に見る美貌の持ち主だ。
そんな人物が着飾り、化粧をし……としていれば、その美貌は通常よりも数段上のものとなる。
(それでも中身は変わらないんだろうけど)
アランもまた、そんなレオノーラの美貌に目を奪われていた一人ではあったが、それでも完全に意識を奪われる訳ではなく、頭の中でそのようなことを考える余裕はあった。
これは、純粋にアランが普段からレオノーラと一緒に行動することが多いために、その美貌に慣れていたというのが大きいだろう。
……むしろ、そのようなアランであっても目を奪われてしまうような美貌を、レオノーラが持っているのだが。
そんなレオノーラに対し、普通なら多くの者が話そうと、もしくは口説こうと近づくだろう。
だが、それはあくまでもちょっと美人な場合であれば、だろう。
そもそも、この祝勝パーティに参加しているのは、ラリアントでこそある程度の地位を持つ者たちだが、国全体で見ればそこまで地位は高くない。
当然だろう。このラリアントはガリンダミア帝国と隣接している城塞都市なのだ。
そこに、公爵や侯爵といった貴族が来ることは滅多にないし、ここで暮らすといったことはもっとない。
だからこそ、凄絶なまでの美貌と非常に男好きのする身体を持つ、一種の女王様と呼んでも決して間違いではないレオノーラに、話すような余裕がある者はいなかった。
ましてや、ここにいる者の中にはザラクニアと通じていた者がいてもおかしくはない。
そのような者にしてみれば、今ここで目立つのは絶対に避けたい。
「……あら」
狙い通り、誰も自分に近づいてこないことに満足そうな笑みを浮かべていたレオノーラだったが、その視線が一人の人物に向けられ、止まる。
レオノーラにとっては、ある意味で自分の相棒とでも呼ぶべき人物……アラン。
そんなアランの姿を見たレオノーラは、笑みを浮かべてそちらに近づいていく。
当然のように、パーティ会場にいる者の多くはそんなレオノーラの動きを視線で追い、その進行方向にいる人物にも視線を向ける。
そう、アランに。
アランは、決して醜いという訳ではないし、どちらかと言えば平均よりは顔立ちが整っているだろう。
毎日のように母親のリアと訓練をしていることもあり、身体付きも締まっている。
それでもレオノーラのような、美貌の化け物とでも呼ぶべき存在の隣に立って違和感がないかと言われれば、皆が違和感があると答えるのは間違いなかった。
本人もそれを理解しているだけに、アランはレオノーラに自分の場所に来るなと視線で訴える。
だが、レオノーラはそんなアランの視線を受けても、行動を止めることはない。……いや、むしろアランの顔を見て笑みを浮かべ、歩く速度も上がった。
レオノーラの持つ凄絶なまでの美貌を抜きにして考えれば、それは愛する人を見つけて嬉しく思い、少しでも早く話をしたいと態度で示しているかのような行動にも見える。
当然のように、アランとレオノーラは心核使いとしての意味での相棒ではあっても、そのような関係ではない。
……アランはレオノーラの美貌に目を奪われるということは、何度もあったが。
だというのにパーティ会場でこのような真似をするというのは、アランに対する悪戯か何かなのだろう。
もしくは、自分に寄ってくる男を追い払うための虫除けとしての効果を期待しているのか。
「楽しめている?」
「……この状況で楽しめると、本気で思っているのか?」
周囲に聞こえないように尋ねてくるレオノーラに、アランは呆れながら言葉を返す。
これもまた、傍から見れば恋人同士が愛を囁き合っているように見え、それが余計に二人の行動を邪推させることになるのだが……レオローラはともかく、アランはそこまで気が付いてはいない。
「それで、本題だけど……」
笑みを浮かべていたレオノーラだったが、次の瞬間には目に真剣な光を宿す。……それでいながら、笑みを浮かべて恋人同士の愛の囁きが続いているように見せているのは、この話をしている間に関係のない人物に介入して欲しくないからか。
「ガリンダミア帝国の一件か」
「ええ。……私としては、アランに協力したいと思っている。それは間違いないわ。けど、今の私はあくまでも黄金の薔薇を率いているの。私個人の考えで、皆を戦いには巻き込めないわ」
「……つまり、一緒に行動するのはこれで終わり、か?」
「残念だけど、そうなるわね」
残念だけどと、そう告げるレオノーラの顔は笑みを浮かべたままで、目にも申し訳なさそうな色はない。
心の底では非常に残念に思っているし、心苦しい思いもある。
だが、それはあくまでもレオノーラ個人の思いでしかない。
協力出来ないと、それどころかそんなに長い間ではなかったが、一緒に行動してきた雲海と別れると自分で決めた以上、ここで自分の思いを表す訳にはいかなかった。
「そう、か。……残念だけどしょうがないな」
アランとしても、レオノーラや黄金の薔薇と別行動となるのは残念だ。
それは純粋にレオノーラと一緒にいられなくなるというのもそうだが、何よりも残念に思うのは、やはりレオノーラが心核で変身する黄金のドラゴンにかんしてだろう。
単体でも高い性能を持つゼオンだが、レオノーラの変身する黄金のドラゴンと合体することで、ゼオリューンという、ゼオンよりも数段上の性能を持つにいたる。
黄金の薔薇と離れて行動するということは、当然のようにゼオリューンになることも出来なくなるということだ。
近い未来……それこそ、数日なのか、数十日なのか、場合によっては数ヶ月なのかは分からないが、それでもガリンダミア帝国がラリアントに攻めてくるのは確実だった。
ザラクニアに率いられたラリアント軍の中でも、ただザラクニアに……そして上司に従っていただけの者は、無罪として軍に復帰させている。
怪しげな者も、罪が確定ではない者も同様に働きでその後を見るということにして、解放されていた。
そこまでしなければ、ガリンダミア帝国との戦いでは戦力が足りないのだ。
いや、そこまでしてもガリンダミア帝国の侵攻を跳ね返せるかと言われれば、素直に頷けない者も多いだろう。
それでも、この国をガリンダミア帝国の好きにさせないためには、ラリアントにいる者だけで頑張る必要がある。
また、圧倒的に不利ではあっても、決して絶望的という訳ではない。
ドットリオン王国にとって、ラリアントという城塞都市は決して失えない場所だ。
ここを抜かれれば、ガリンダミア帝国はドットリオン王国を好き放題に占領することが可能となる。
ラリアントが強固な防壁となっているからこそ、その内部は脆い。
ある程度の防衛力はあっても、それはとてもではないがラリアントには及ばないのだ。
だからこそ、ラリアントが持ち堪えている間にドットリオン王国としては、援軍を派遣することになるのは確実だった。
そして援軍が来れば、ガリンダミア帝国に勝つことも可能……かもしれない。
「じゃあ、私はこの辺で失礼するわね。……ごめんね」
最後の小さく呟いたその言葉こそが、恐らくはレオノーラの本音なのだろう。
アランにもその声は聞こえたが、レオノーラの立場を理解している以上、何も言えない。
そうして他の人に挨拶をするべく去っていったレオノーラの後ろ姿を眺め……微妙な気分となる。
本来なら、大きく露出しているレオノーラの背中を見て、その艶めかしさに目を奪われてもおかしくはないのだが。
「ふぅ」
アランの口から、小さく声が漏れる。
分かってはいた。分かってはいたのだ。
レオノーラにとっては、個人的な感情よりも自分が率いる黄金の薔薇の方が重要なのだということは。
だが、それでも……もしかしたら、本当にもしかしたらだが、レオノーラも協力してくれるのではないかと、そう思ったのだ。
アランのゼオンが異質な存在で、ガリンダミア帝国に危険視されるのは事実だが、同時にレオノーラが変身する黄金のドラゴンもまた、ガリンダミア帝国が興味を抱かない訳ではないのだから。
未知のゼオンと、既知の黄金のドラゴン。
優先度から考えれば前者が上だが、だからといって後者を見逃すような真似を、そうするとは思えない。
……それでも、レオノーラは黄金の薔薇によりリスクの少ない選択をしたのだろう。
アランはレオノーラと話していた自分に興味深い視線を向けてくる者たちの様子を気にせず、イルゼンと話しているレオノーラに視線を向けるのだった。
戦勝パーティが終わって数日。
すでに、ラリアントは次の戦いに向けて準備が始まっていた。
モリクが領主代行といった形で王都に今回の騒動のいきさつを説明する手紙と、それを補足する使者を送っており、雲海の面々もイルゼンが言った通りアランに協力するとあっさりと決まった。
だが、当然のようにラリアントに協力する者ばかりではない。
ガリンダミア帝国との戦いでは絶対に勝てないと判断してラリアントを出て行く者も少なからず存在する。
そんな中で幸運だったのは、出て行くのはラリアントに定住していない者たちが大半だったということか。
ラリアントに住んでいる者にしてみれば、自分たちが住む場所は自分たちで守るのだと、そう思っている者が多い。
長年ガリンダミア帝国と接しているこの地に住み、常にガリンダミア帝国の侵攻を跳ね返してきた住民たちが奮起したといったところか。
そうして去っていく者たちの中に、レオノーラ率いる黄金の薔薇の姿もあった。
「じゃあ、ね」
「ああ。こういう場合は元気でって言った方がいいのか?」
「馬鹿ね。私たちはアランを見捨てていくのよ? そんな相手に元気でなんて普通は言わないわ」
「そうか? 別にそれを責めるつもりはないけどな。ただ……まぁ、出来れば残って欲しかったけど」
アランの言葉に、レオノーラは一瞬だけ何かを言いたそうな表情を浮かべ……だが、次の瞬間にはそのような表情を浮かべたのが嘘だったかのように、笑みを浮かべて口を開く。
「じゃあ、ね」
レオノーラの口から出て来たのは、先程と全く同じ言葉。
だが、そこに込められている言葉は、似ているようで違っていた。
そして、レオノーラ以外の面々も馴染みとなった雲海の面々と言葉を交わし……黄金の薔薇は、ラリアントを旅立つのだった。
パーティ会場に姿を現したレオノーラを見た者が、男女関係なくざわめく。
当然だろう。
元々レオノーラは、歴史上希に見る美貌の持ち主だ。
そんな人物が着飾り、化粧をし……としていれば、その美貌は通常よりも数段上のものとなる。
(それでも中身は変わらないんだろうけど)
アランもまた、そんなレオノーラの美貌に目を奪われていた一人ではあったが、それでも完全に意識を奪われる訳ではなく、頭の中でそのようなことを考える余裕はあった。
これは、純粋にアランが普段からレオノーラと一緒に行動することが多いために、その美貌に慣れていたというのが大きいだろう。
……むしろ、そのようなアランであっても目を奪われてしまうような美貌を、レオノーラが持っているのだが。
そんなレオノーラに対し、普通なら多くの者が話そうと、もしくは口説こうと近づくだろう。
だが、それはあくまでもちょっと美人な場合であれば、だろう。
そもそも、この祝勝パーティに参加しているのは、ラリアントでこそある程度の地位を持つ者たちだが、国全体で見ればそこまで地位は高くない。
当然だろう。このラリアントはガリンダミア帝国と隣接している城塞都市なのだ。
そこに、公爵や侯爵といった貴族が来ることは滅多にないし、ここで暮らすといったことはもっとない。
だからこそ、凄絶なまでの美貌と非常に男好きのする身体を持つ、一種の女王様と呼んでも決して間違いではないレオノーラに、話すような余裕がある者はいなかった。
ましてや、ここにいる者の中にはザラクニアと通じていた者がいてもおかしくはない。
そのような者にしてみれば、今ここで目立つのは絶対に避けたい。
「……あら」
狙い通り、誰も自分に近づいてこないことに満足そうな笑みを浮かべていたレオノーラだったが、その視線が一人の人物に向けられ、止まる。
レオノーラにとっては、ある意味で自分の相棒とでも呼ぶべき人物……アラン。
そんなアランの姿を見たレオノーラは、笑みを浮かべてそちらに近づいていく。
当然のように、パーティ会場にいる者の多くはそんなレオノーラの動きを視線で追い、その進行方向にいる人物にも視線を向ける。
そう、アランに。
アランは、決して醜いという訳ではないし、どちらかと言えば平均よりは顔立ちが整っているだろう。
毎日のように母親のリアと訓練をしていることもあり、身体付きも締まっている。
それでもレオノーラのような、美貌の化け物とでも呼ぶべき存在の隣に立って違和感がないかと言われれば、皆が違和感があると答えるのは間違いなかった。
本人もそれを理解しているだけに、アランはレオノーラに自分の場所に来るなと視線で訴える。
だが、レオノーラはそんなアランの視線を受けても、行動を止めることはない。……いや、むしろアランの顔を見て笑みを浮かべ、歩く速度も上がった。
レオノーラの持つ凄絶なまでの美貌を抜きにして考えれば、それは愛する人を見つけて嬉しく思い、少しでも早く話をしたいと態度で示しているかのような行動にも見える。
当然のように、アランとレオノーラは心核使いとしての意味での相棒ではあっても、そのような関係ではない。
……アランはレオノーラの美貌に目を奪われるということは、何度もあったが。
だというのにパーティ会場でこのような真似をするというのは、アランに対する悪戯か何かなのだろう。
もしくは、自分に寄ってくる男を追い払うための虫除けとしての効果を期待しているのか。
「楽しめている?」
「……この状況で楽しめると、本気で思っているのか?」
周囲に聞こえないように尋ねてくるレオノーラに、アランは呆れながら言葉を返す。
これもまた、傍から見れば恋人同士が愛を囁き合っているように見え、それが余計に二人の行動を邪推させることになるのだが……レオローラはともかく、アランはそこまで気が付いてはいない。
「それで、本題だけど……」
笑みを浮かべていたレオノーラだったが、次の瞬間には目に真剣な光を宿す。……それでいながら、笑みを浮かべて恋人同士の愛の囁きが続いているように見せているのは、この話をしている間に関係のない人物に介入して欲しくないからか。
「ガリンダミア帝国の一件か」
「ええ。……私としては、アランに協力したいと思っている。それは間違いないわ。けど、今の私はあくまでも黄金の薔薇を率いているの。私個人の考えで、皆を戦いには巻き込めないわ」
「……つまり、一緒に行動するのはこれで終わり、か?」
「残念だけど、そうなるわね」
残念だけどと、そう告げるレオノーラの顔は笑みを浮かべたままで、目にも申し訳なさそうな色はない。
心の底では非常に残念に思っているし、心苦しい思いもある。
だが、それはあくまでもレオノーラ個人の思いでしかない。
協力出来ないと、それどころかそんなに長い間ではなかったが、一緒に行動してきた雲海と別れると自分で決めた以上、ここで自分の思いを表す訳にはいかなかった。
「そう、か。……残念だけどしょうがないな」
アランとしても、レオノーラや黄金の薔薇と別行動となるのは残念だ。
それは純粋にレオノーラと一緒にいられなくなるというのもそうだが、何よりも残念に思うのは、やはりレオノーラが心核で変身する黄金のドラゴンにかんしてだろう。
単体でも高い性能を持つゼオンだが、レオノーラの変身する黄金のドラゴンと合体することで、ゼオリューンという、ゼオンよりも数段上の性能を持つにいたる。
黄金の薔薇と離れて行動するということは、当然のようにゼオリューンになることも出来なくなるということだ。
近い未来……それこそ、数日なのか、数十日なのか、場合によっては数ヶ月なのかは分からないが、それでもガリンダミア帝国がラリアントに攻めてくるのは確実だった。
ザラクニアに率いられたラリアント軍の中でも、ただザラクニアに……そして上司に従っていただけの者は、無罪として軍に復帰させている。
怪しげな者も、罪が確定ではない者も同様に働きでその後を見るということにして、解放されていた。
そこまでしなければ、ガリンダミア帝国との戦いでは戦力が足りないのだ。
いや、そこまでしてもガリンダミア帝国の侵攻を跳ね返せるかと言われれば、素直に頷けない者も多いだろう。
それでも、この国をガリンダミア帝国の好きにさせないためには、ラリアントにいる者だけで頑張る必要がある。
また、圧倒的に不利ではあっても、決して絶望的という訳ではない。
ドットリオン王国にとって、ラリアントという城塞都市は決して失えない場所だ。
ここを抜かれれば、ガリンダミア帝国はドットリオン王国を好き放題に占領することが可能となる。
ラリアントが強固な防壁となっているからこそ、その内部は脆い。
ある程度の防衛力はあっても、それはとてもではないがラリアントには及ばないのだ。
だからこそ、ラリアントが持ち堪えている間にドットリオン王国としては、援軍を派遣することになるのは確実だった。
そして援軍が来れば、ガリンダミア帝国に勝つことも可能……かもしれない。
「じゃあ、私はこの辺で失礼するわね。……ごめんね」
最後の小さく呟いたその言葉こそが、恐らくはレオノーラの本音なのだろう。
アランにもその声は聞こえたが、レオノーラの立場を理解している以上、何も言えない。
そうして他の人に挨拶をするべく去っていったレオノーラの後ろ姿を眺め……微妙な気分となる。
本来なら、大きく露出しているレオノーラの背中を見て、その艶めかしさに目を奪われてもおかしくはないのだが。
「ふぅ」
アランの口から、小さく声が漏れる。
分かってはいた。分かってはいたのだ。
レオノーラにとっては、個人的な感情よりも自分が率いる黄金の薔薇の方が重要なのだということは。
だが、それでも……もしかしたら、本当にもしかしたらだが、レオノーラも協力してくれるのではないかと、そう思ったのだ。
アランのゼオンが異質な存在で、ガリンダミア帝国に危険視されるのは事実だが、同時にレオノーラが変身する黄金のドラゴンもまた、ガリンダミア帝国が興味を抱かない訳ではないのだから。
未知のゼオンと、既知の黄金のドラゴン。
優先度から考えれば前者が上だが、だからといって後者を見逃すような真似を、そうするとは思えない。
……それでも、レオノーラは黄金の薔薇によりリスクの少ない選択をしたのだろう。
アランはレオノーラと話していた自分に興味深い視線を向けてくる者たちの様子を気にせず、イルゼンと話しているレオノーラに視線を向けるのだった。
戦勝パーティが終わって数日。
すでに、ラリアントは次の戦いに向けて準備が始まっていた。
モリクが領主代行といった形で王都に今回の騒動のいきさつを説明する手紙と、それを補足する使者を送っており、雲海の面々もイルゼンが言った通りアランに協力するとあっさりと決まった。
だが、当然のようにラリアントに協力する者ばかりではない。
ガリンダミア帝国との戦いでは絶対に勝てないと判断してラリアントを出て行く者も少なからず存在する。
そんな中で幸運だったのは、出て行くのはラリアントに定住していない者たちが大半だったということか。
ラリアントに住んでいる者にしてみれば、自分たちが住む場所は自分たちで守るのだと、そう思っている者が多い。
長年ガリンダミア帝国と接しているこの地に住み、常にガリンダミア帝国の侵攻を跳ね返してきた住民たちが奮起したといったところか。
そうして去っていく者たちの中に、レオノーラ率いる黄金の薔薇の姿もあった。
「じゃあ、ね」
「ああ。こういう場合は元気でって言った方がいいのか?」
「馬鹿ね。私たちはアランを見捨てていくのよ? そんな相手に元気でなんて普通は言わないわ」
「そうか? 別にそれを責めるつもりはないけどな。ただ……まぁ、出来れば残って欲しかったけど」
アランの言葉に、レオノーラは一瞬だけ何かを言いたそうな表情を浮かべ……だが、次の瞬間にはそのような表情を浮かべたのが嘘だったかのように、笑みを浮かべて口を開く。
「じゃあ、ね」
レオノーラの口から出て来たのは、先程と全く同じ言葉。
だが、そこに込められている言葉は、似ているようで違っていた。
そして、レオノーラ以外の面々も馴染みとなった雲海の面々と言葉を交わし……黄金の薔薇は、ラリアントを旅立つのだった。
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