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ニーラータラッタ編

127頁 アスタロト戦 3

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……つまらぬ。


久々に地上に舞い戻ってきた身だ、準備運動がてら遊んでやろうと思ったが…。

なんと、この生き物たちのか弱きことか。
これだけ待ってやってわらわにかすり傷しか負わせられぬとは。

赤毛の小僧と青毛の小僧。
そ奴らは多少活きがいいようだったが、他は駄目だ、話にならぬ。



いや、元々こやつらは妾の食料。強さ、面白さなど求めるが愚かと言うことか。


だと言うに、せめて楽に喰ろうてやろうと滅びの星を呼んでやれば、青毛の小僧が星を破壊してしもうた。

そんな芸当が出来ることには少し驚いたが…ほれ、見たことか。もうボロボロじゃ。
青毛はもう1、2発も星を呼べば喰えるだろう。


さて、しかし。

妾がまず喰らわねばならぬのは赤毛だ。
ほかの命はその後と決めておる。


……にしても、赤毛。
チョロチョロと逃げ回りおって…。なかなか捕まらぬではないか。

魅了チャームも効かぬ。
状態異常耐性が高いのだろうな。



…くくっ、されど、それでこそ喰らい応えがあるというもの。

とはいえそろそろ空腹も限界じゃ。

さぁ、喰ろうてやろうぞ。




黒蜥蜴から降り、赤毛の方へ足を踏み出したときだった。


グラリと地面が傾く。

これは…落とし穴?

数メートルの高さの穴。
中は薄暗く、様子を窺い知ることは出来ない。

しかし、

「くだらんな」

羽のある妾に落とし穴など……。





「秘技 無双千斬」





「…青毛か…、ふん、効かぬわそんなもの」

斬撃が片羽を傷つける。
とはいえ、ほんの少しだけだ。飛行に問題は無い。




「秘技 無双千斬、無双千斬、無双千斬無双千斬無双千斬!!」




「…なっ、キサマっ!…正気か?!」

パッシブ秘め事を見通す目で青毛のMPがどんどん無くなっていくのが分かる。

まるで気が狂ったかのような猛攻…。

千の斬撃。それが幾度も、幾度も、幾度も幾度も、同じ箇所に叩きつけられる。


そして、ついに。


「無双、千斬!!」


赤い飛沫しぶきを上げて片羽が千切れた。




「…チッ」


バランスが崩れた。落とし穴の底へ落ちる。

大した高さはないものの、落下時の多少の衝撃に眉をしかめる。
と同時に落とし穴の底の感触に違和感を覚えた。

硬い岩に張り付いたような、ベタベタとした不快な感覚。
これは一体…。

「……まぁ、良い。ともかく上に…」




……見上げた空には紅蓮の鳥がいた。



不死鳥フェニックス

しかし、その気配は紛れもなく赤毛のものだ。


「……ま、さか」


ハッと周囲を見渡す。

このベタついた感触は……まさか。



不死鳥の炎が辺りに満ちる。

熱くはない。痛くもない。

それはパッシブ秘め事を見通す目の効果ではなく、不死鳥の炎の性質だ。


おのれの生命力を周囲に分け与える、という能力。


…燃え盛る炎の中、周囲からミチミチと音が聞こえた。


「…やはり棺草ひつぎくさだったか!」


棺草。
温暖で多雨な気候の地域に生息する草。
魔物モンスターでも何でもないただの植物であるが、集団で狩りを行う性質を持つ。
ツタを獲物に巻き付けて動きを封じ、溶解液で溶けた獲物を養分とする。

名の由来は獲物にとっての死に場所となるからである。

枯れた棺草は毒を含んだ粘液を出し、新しい種子が芽吹くまで周囲に他の植物が生えないようにする。





このベタベタとしたものは枯れた棺草。

それに不死鳥が生命力を分け与えれば……。





「…くっ、」




棺草は命を吹き返し、腕に、足に、腹に、首に、まとわり、巻き付き、締め上げる。



「ハッ、この、程度…!」


力を込めればちぎれないことはない。

が、辺りには不死鳥の炎が満ちている。

千切れど千切れど、草は再生。むしろ繁殖までしている。



「……ええい、邪魔じゃ!」


あの赤毛も何を考えておる!足止め程度にしか使えぬ草などに生命力を分け与え続けるなど、死ぬ気か?!


…………もう、良い。


喰らうのは赤毛からと思っていたが、知らぬ。

全て、全て、一気に喰ろうてやろう。


魔力を込める。

1滴残らず、4発分の魔力を全てこの一撃に込める。




天より来たる滅びの星メテオライト・インパクトっ!」





















「………………え、」












切れた。




何が?




分からない。




魔法、不発。






魔力、暴走。










…ぁ……。






























心臓が熱い。脈打つ。脈打つ。汗が伝う。冷や汗が、脂汗が頬を背中を首筋を伝って地に落ちる。カチカチと奥歯が鳴る。体が内側から焼けるのが分かる。熱い、熱い。ビリビリと電流がはしる。焼けた鉄のような熱さが血管を通って肺を焼いて、喉を溶かして、脳を焦がす。絶叫。喉が裂けるほど叫ぶ。眼球の血管がプチプチと切れる。赤い雫が目から流れ落ちた。熱い、痛い。喉奥から赤錆びた臭いが立ち上る。臓腑が破裂。あぁ、嫌だ嫌だ嫌だぁ!痛い、熱い、痛い嫌、痛い!!痛い痛い。痛い痛い痛い!!地面に倒れる。転がる、のたうち回る。砂が口内を犯す。不快感。それ以上の全身の激痛。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、痛い、痛い。






嫌…いや、

しにたく、ない。























そして、

なにも、

わからなく、

なった。
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