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「しかし、おかしな話だ」と、さらに面白そうにゼフェトは語り出す。
その瞳は決して笑ってはいなかった。
「タージマルの王族は全て死んだはずだ。あれから十数年、帝国はその残党を見つけることに躍起になってきたからな。そんなことより年齢だ。あの国の王族は確か、当時の最年少で十二歳だったはず。生き残っているとしてもそんなに若くないだろうし、外観が一致しない。やつらは銀髪に金色の瞳だ。髪色は同じだが、瞳の色までは変えられなかったのかな、オリビアとやら」
「そんな、その話は嘘よっ! 私は間違いなく、タージマルの王族だわ!」
あり得ない、自分は無実だと、オリビアが叫んだ。
追撃するように、ゼフェトが質問する。
「証明は? 証拠はどこにある」
「殿下が、エリオス殿下が! 殿下と公爵様が認めて下さったもの!」
殿下はともかくとして、公爵? その名前にナフティリアとゼフェトは顔を見合わせる。
会話の間に彼は移動していて、ナフティリアの側にやってきていた。
ナフティリアを立ち上がらせ、友人を守るようにしてその背に庇っていた。
「どこの公爵様だ? だいたい、この王国に亡命した事実はどこにある? 仮にお前のことを亡国の王族だと認めたとして、我が帝国との関係を、この王国はどう考えるのだ。なあ、エリオス。これは両国の同盟を破棄するという認識でいいのか? 俺は皇帝陛下にそのように報告するぞ」
「まっ、待て! それは待て! これは高度に政治的な問題なんだ、皇太子のお前だって口出しをしていい話じゃない」
「高度、ねえ? まあ、……確かにな。それは一理ある。だが、今聞いた事実は報告させてもらう。それが俺の義務だからな。ところで‥‥‥」
そこまで言い、ナフティリアと青ざめているオリビアを交互に見やったゼフェトは、ナフティリアの手の中にあった婚約破棄宣告書を奪うようにして取り上げた。
「ゼフェトっ、なにするの!」
「お前は黙ってろ。こんな証明書一枚で、人一人の人生を狂わしていいものか。第一、結婚の約束までしたこのクズ男に、お前が泣かされることが、俺は情けなくて仕方がない。怒りしか湧いてこないんだ」
「でも――あなたが関わったら、それこそ帝国と王国の問題なるわよ」
「そっ、そうだ。ゼフェト、お前が立ち入っていい話じゃないんだ。さっさとここから出て行け。これはこの国の第三王子としての命令だ。お前ですら従わないなら、捕縛することになる」
頭に血が昇ったのか、考えなしのエリオスの発言に乗るようにして、オリビアもまた叫んでいた。
「そうよ、帝国の人間は去りなさい! 今はエリオス殿下が婚約破棄を宣告されている、真っ最中なんだから! 無関係なよそ者は出ていくべきだわ」
「へえ、無関係。なるほど、それは面白い。なあ、ナフティリア」
「……ゼフェト、それ以上、言わない方がいいと思う。あなたまで巻き込みたくない。私のために怒ってくれているのは嬉しいけれど‥‥‥」
「被害者のお前がそれを言ったら駄目だろ? 婚約発表を受け止めてやればいい。そうしたら、ここに書いてある通り、お前は貴族を辞め平民になるんだろ」
「うん……」
ナフティリアはこれで何もかも解放される。
そんな半ば自暴自棄になった顔をして、呻くように言った。
その瞳は決して笑ってはいなかった。
「タージマルの王族は全て死んだはずだ。あれから十数年、帝国はその残党を見つけることに躍起になってきたからな。そんなことより年齢だ。あの国の王族は確か、当時の最年少で十二歳だったはず。生き残っているとしてもそんなに若くないだろうし、外観が一致しない。やつらは銀髪に金色の瞳だ。髪色は同じだが、瞳の色までは変えられなかったのかな、オリビアとやら」
「そんな、その話は嘘よっ! 私は間違いなく、タージマルの王族だわ!」
あり得ない、自分は無実だと、オリビアが叫んだ。
追撃するように、ゼフェトが質問する。
「証明は? 証拠はどこにある」
「殿下が、エリオス殿下が! 殿下と公爵様が認めて下さったもの!」
殿下はともかくとして、公爵? その名前にナフティリアとゼフェトは顔を見合わせる。
会話の間に彼は移動していて、ナフティリアの側にやってきていた。
ナフティリアを立ち上がらせ、友人を守るようにしてその背に庇っていた。
「どこの公爵様だ? だいたい、この王国に亡命した事実はどこにある? 仮にお前のことを亡国の王族だと認めたとして、我が帝国との関係を、この王国はどう考えるのだ。なあ、エリオス。これは両国の同盟を破棄するという認識でいいのか? 俺は皇帝陛下にそのように報告するぞ」
「まっ、待て! それは待て! これは高度に政治的な問題なんだ、皇太子のお前だって口出しをしていい話じゃない」
「高度、ねえ? まあ、……確かにな。それは一理ある。だが、今聞いた事実は報告させてもらう。それが俺の義務だからな。ところで‥‥‥」
そこまで言い、ナフティリアと青ざめているオリビアを交互に見やったゼフェトは、ナフティリアの手の中にあった婚約破棄宣告書を奪うようにして取り上げた。
「ゼフェトっ、なにするの!」
「お前は黙ってろ。こんな証明書一枚で、人一人の人生を狂わしていいものか。第一、結婚の約束までしたこのクズ男に、お前が泣かされることが、俺は情けなくて仕方がない。怒りしか湧いてこないんだ」
「でも――あなたが関わったら、それこそ帝国と王国の問題なるわよ」
「そっ、そうだ。ゼフェト、お前が立ち入っていい話じゃないんだ。さっさとここから出て行け。これはこの国の第三王子としての命令だ。お前ですら従わないなら、捕縛することになる」
頭に血が昇ったのか、考えなしのエリオスの発言に乗るようにして、オリビアもまた叫んでいた。
「そうよ、帝国の人間は去りなさい! 今はエリオス殿下が婚約破棄を宣告されている、真っ最中なんだから! 無関係なよそ者は出ていくべきだわ」
「へえ、無関係。なるほど、それは面白い。なあ、ナフティリア」
「……ゼフェト、それ以上、言わない方がいいと思う。あなたまで巻き込みたくない。私のために怒ってくれているのは嬉しいけれど‥‥‥」
「被害者のお前がそれを言ったら駄目だろ? 婚約発表を受け止めてやればいい。そうしたら、ここに書いてある通り、お前は貴族を辞め平民になるんだろ」
「うん……」
ナフティリアはこれで何もかも解放される。
そんな半ば自暴自棄になった顔をして、呻くように言った。
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