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「なら、僕はどうすればよかったって言うんだ? ずっと我慢して、父上にもお願いしたんだぞ、あの女と!」
そう叫んでマシューは青白く細っちょろ指先で、エヴァを示した。
「婚約を解消させてくれって!」
「……っ!」
その一言に一番ショックを受けたのこの中の誰でもない。
エヴァその人だっただろう。
俺も思わなかったよ。
まさか国王陛下に直訴までしていたなんて。
だけど陛下はそれを却下した。
その上で、こんな無慈悲で冷酷な婚約破棄を通告する場を設けたのだとしたら。
「お前、物事には限度ってものがあるって知らないのか‥‥‥」
「なんだと! 僕には婚約を破棄する権利がある!」
「あーはいはい。陛下がそれを却下なさった後に、どんな権利が発生するって言うんだよ。だからここでやったのか? 治外法権のこの場所で」
「そっ、それは――!」
「……マシュー。お前、確信犯だな?」
「……」
三度、会場がおおきくどよめいた。
これはもう全体責任とかそんな話じゃない。
王族に対する侮辱とか、不敬罪とか、そんなものより、もっと重い。
下手すれば国家反逆罪だ。
たかだか匂いのために、普通、そこまでやるか?
結婚した後だって、ベッドを別にするとか。
公式の行事以外は顔を合わさないようにするとか。
何だって方法があるだろうが。
俺はなぜだか無性に情けなくなって、はあ、と大きくため息をつく。
もうこれは救いようがない。
「エヴァ‥‥‥言ってしまったらどうだ。みんな聞いている。あと数ヶ月隠すか、ここでバラすかの違いだ。教えてしまえ」
「ロアンっ? でも、そんなことしたら――私は‥‥‥」
ああ、そうか?
お前に命令している存在は、王様よりもっと上だもんな。
たまたまお前とあの御方が会話しているのを、目撃した俺にも問題はある。
と、いうより‥‥‥もしかして、あの現場に遭遇したのは、あの御方の思し召しじゃなかったんだろうかと、後になって疑ったくらいだ。
まあ、いいや。
エヴァはこれを暴露すればしかられるだろう。
なら、俺が暴露してやろう。
マシュー、驚愕して地にひれ伏すがいい。
「じゃあ俺が、代わりに言ってやるよ。マシュー、いいかよく聞け。エヴァの母君は平民だったが、月の女神様を奉る神殿の巫女でもあった。エヴァが生まれたとき、誰にも分からないまま、その胎内に女神様が祝福を下さったんだ。意味はわかるか?」
「は‥‥‥? なんだその話は。今まで一度も耳にしたことがない」
それはそうだろうな。
だって、女神様は誰にも教えるな、と。
そうエヴァに命じていたのだから。
「俺は色々あってその一端を知ってしまったんだ。だがとある事情で国王陛下にも申し出ることができなかった」
「なぜだ。どうしてお前なんかがそんなことを知っている。やっぱりお前たちは――ふてっ!」
俺を指さし口汚く罵るをする幼馴染には申し訳ないが、蹴りを食らわせてやった。
がら空きの腹部に一撃をお見舞いする。
体を鍛える事なんて全くしてこなかったこいつだ。
しばらくは静かになるだろうよ。
‥‥‥後から国王陛下に謝っとかないとやばいかも。
とりあえず気を取り直して先を続ける。
「みんな聞いてくれ。今から話すことは約半年後に正式に明らかにされることだ。だから俺がここで虚言を吐いたかどうかは、半年後に正しい形となって世間に現れる。いや、月の女神様の神殿から正式に世界に対して報告がなされるはずだ。だから俺は胸を張ってこう言う。エヴァには、女神様の恩寵が与えられている」
ざわめきどころか、どよめきが巻き起こる。
そりゃそうだろうな。
俺だって、この話を知ったあのときは、心臓がばくばくとして動悸が止まらなかったんだから。
そう叫んでマシューは青白く細っちょろ指先で、エヴァを示した。
「婚約を解消させてくれって!」
「……っ!」
その一言に一番ショックを受けたのこの中の誰でもない。
エヴァその人だっただろう。
俺も思わなかったよ。
まさか国王陛下に直訴までしていたなんて。
だけど陛下はそれを却下した。
その上で、こんな無慈悲で冷酷な婚約破棄を通告する場を設けたのだとしたら。
「お前、物事には限度ってものがあるって知らないのか‥‥‥」
「なんだと! 僕には婚約を破棄する権利がある!」
「あーはいはい。陛下がそれを却下なさった後に、どんな権利が発生するって言うんだよ。だからここでやったのか? 治外法権のこの場所で」
「そっ、それは――!」
「……マシュー。お前、確信犯だな?」
「……」
三度、会場がおおきくどよめいた。
これはもう全体責任とかそんな話じゃない。
王族に対する侮辱とか、不敬罪とか、そんなものより、もっと重い。
下手すれば国家反逆罪だ。
たかだか匂いのために、普通、そこまでやるか?
結婚した後だって、ベッドを別にするとか。
公式の行事以外は顔を合わさないようにするとか。
何だって方法があるだろうが。
俺はなぜだか無性に情けなくなって、はあ、と大きくため息をつく。
もうこれは救いようがない。
「エヴァ‥‥‥言ってしまったらどうだ。みんな聞いている。あと数ヶ月隠すか、ここでバラすかの違いだ。教えてしまえ」
「ロアンっ? でも、そんなことしたら――私は‥‥‥」
ああ、そうか?
お前に命令している存在は、王様よりもっと上だもんな。
たまたまお前とあの御方が会話しているのを、目撃した俺にも問題はある。
と、いうより‥‥‥もしかして、あの現場に遭遇したのは、あの御方の思し召しじゃなかったんだろうかと、後になって疑ったくらいだ。
まあ、いいや。
エヴァはこれを暴露すればしかられるだろう。
なら、俺が暴露してやろう。
マシュー、驚愕して地にひれ伏すがいい。
「じゃあ俺が、代わりに言ってやるよ。マシュー、いいかよく聞け。エヴァの母君は平民だったが、月の女神様を奉る神殿の巫女でもあった。エヴァが生まれたとき、誰にも分からないまま、その胎内に女神様が祝福を下さったんだ。意味はわかるか?」
「は‥‥‥? なんだその話は。今まで一度も耳にしたことがない」
それはそうだろうな。
だって、女神様は誰にも教えるな、と。
そうエヴァに命じていたのだから。
「俺は色々あってその一端を知ってしまったんだ。だがとある事情で国王陛下にも申し出ることができなかった」
「なぜだ。どうしてお前なんかがそんなことを知っている。やっぱりお前たちは――ふてっ!」
俺を指さし口汚く罵るをする幼馴染には申し訳ないが、蹴りを食らわせてやった。
がら空きの腹部に一撃をお見舞いする。
体を鍛える事なんて全くしてこなかったこいつだ。
しばらくは静かになるだろうよ。
‥‥‥後から国王陛下に謝っとかないとやばいかも。
とりあえず気を取り直して先を続ける。
「みんな聞いてくれ。今から話すことは約半年後に正式に明らかにされることだ。だから俺がここで虚言を吐いたかどうかは、半年後に正しい形となって世間に現れる。いや、月の女神様の神殿から正式に世界に対して報告がなされるはずだ。だから俺は胸を張ってこう言う。エヴァには、女神様の恩寵が与えられている」
ざわめきどころか、どよめきが巻き起こる。
そりゃそうだろうな。
俺だって、この話を知ったあのときは、心臓がばくばくとして動悸が止まらなかったんだから。
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