婚約者の死の悼(いた)み方を、彼女は知らない。

 愛した者の死を悼むことは、当然の行いだ。
 死んだ者の罪を問うことも、間違っている。
 彼はもうこの世にいないのだから。
 だが、婚約者が浮気をしたあとに去ってしまった後――。
 彼の死の悼り方を、マーシャは知らなかった。

 婚約者のケインは逞しく、カルアドネでも有数の水魔法使いとして知られていた。
 彼はいつもマーシャだけを見ていて、彼女のためだけに懸命に尽くしてくれている。
 そう、周囲も思っていたし、そんな生き方をしてくれる彼にマーシャもまた、感謝を捧げていた。
 こんな幸せそうな二人に、あんな未来が待ち受けているなんて――。

 ある早朝、マーシャは特別な用事で市場を訪れていた。
 そこで彼女は、風俗街のホテルに女性たちと足を運ぶ婚約者を発見する。
 浮気の決定的な現場だった。

 マーシャは婚約者との婚約破棄を決断する。
 水の都を守るといわれている精霊王に、恋人を呪う言葉を吐いた。
 彼が罰を受けるようにとも願った。

 そして、彼は漁に出たっきり、戻らない人になった。
 浮気をして、勝手に死んでいった婚約者の死の悼み方を、マーシャは知らなかった。

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