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第七章 正当なる後継者
第五十五話 逃亡計画
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久しぶりに酔ってしまった。
ロアッソのたくましい腕に抱だかれて、階段を寝室まで移動していくのは何度目だろうか。
そこにはこれから先に待つだろう期待感とか男女の仲、とかいうものは一切なく。
ただ揺れるたびに、脳が振動し、胃が痛みを起こして中身をぶちまけそうになる、色気もなにもあったもんじゃない、そんな感覚だった。
彼の胸に抱かれていると落ち着きを覚える。
それは死んだ父親が自分を馬の鞍に乗せて、草原を駆け抜けてくれたときの、あの感覚によく似ていた。
ロアッソは違う。
愛を語り合うべき男性ではない。とてもお世話になっているが、そういう対象とは見れない。
彼の厚意に報えないことにごめんなさい、と謝罪しながら心では別の男性を想っている。
ロバート。
あの夜と、いやそれ以上にまばゆい魅力的な男性として、彼はやってきてくれた。
捜してくれていないもの、と思っていた。
彼の前から逃げ出したことへの罪悪感もあった。
それがきっかけは些細な事だったとはいえ、彼の目に留まり、そしてやってきてくれた。
素直に喜べたらよかったのに、自分たちの間にあるのは息子という大きな難問だった。
こんな言い方をしたらディーノにしかられるかもしれない。
彼が王子さまでなく、自分が追放された公爵令嬢でなく、息子が二人の間に望まれて生まれてきた子供だったら。
こんなにも面倒くさいことにならずに済むだろう。
しかし私は立ち向かわなければならない。一人の女としての幸せよりも母親として、ディーノを守ってやらなければ。
高等学院を追放された日、自分を守ってくれた者は誰もいなかった。
迎えに来た車の運転手は、どこかもわからない路上で荷物を放り出し、乱暴に自分を後部座席から引きはがして、その場所に捨てていった。
あの夜も、今夜と同じような月が半分ほど翳った夜だった。
この身に流れているという聖女の血は、戦女神ラフィネの恩寵は、本当にあったのだろうか。
揺れる視界の隅に寝室へと続く扉が映り込み、そこを入ると息子が待つベッドの上だ。
彼はもう寝ているだろう、とロアッソにされるがままに身を横たえると、声が聞こえた。
顔をそっと向けると、ディーノが心細いように目の端に涙を溜めている。
ああ、やはり彼がここにきたことは、悪いことの起こる予兆だったのだ。
自分が抱きしめるより先に、ロアッソがふんふんと話を聞き、二人して階下へと降りてしまった。
先ほどまでその加護があるのか、と疑っていた女神に回復を祈る。
すると神はちゃんと聞き入れてくれて、心の疲労と、アルコールによっていささか疲弊していた身体が快復し、酔った感覚も分解されてどこかに消えてしまった。
「そろそろロアッソにも新しい奥様だって必要だろうし、ね」
そう言えば、親友のミアが最近、厚かましくおしかけてきては、恋人の愚痴を口にするが、それは以前つきあっていた六年前の彼ではないような気がする。
まあ、どうでもいいことだわ、と受け流す。
セナは若い頃からつかってきた旅行鞄と、ここに引っ越してきてからいくつか買い揃えたスーツケースを物置から、そっと引き出した。
あの二人は夜を一緒にすると長いのだ。
これまでの経験から、一時間は戻ってこないことが予測される。
『なにかあった万が一の時』に、備えてセナはいつも準備を怠らなかった。
必要な旅券、当座の資金、引き出しを開ければすぐに衣類をスーツケースに納められるように、区分けしてタンスには収納してある。
帝国だけでなく、王国や遠くは公国に至るまで、これまで溜めてきたディーノのための学資資金や生活費とは別にした、逃亡用の貯蓄を各国の口座に用意していた。
それは微々たるものだったけれど、十四歳のころから溜め続ければ、それなりの額になる。
今では、どの口座にもセナたち母子二人だけなら、二年は食べていけるほどの金額が貯められていた。
次にいく先は、なるべく王国と帝国から離れている国がいい。
ここほどに文化が発展しておらず、物価も帝国より十分の一か、それほど安い土地がいい。
身分を偽ることは望まないが、必要とあれば父親が与えてくれた身分証となる爵位証明書と印象がある。
印象とは、印鑑の代わりに使うようなものだ。
蜜蝋の上に封印などを施すさいに使う道具である。
それがあるだけで、伯爵家の人間だと証明することができる。
帝国の貴族籍からはとうの昔に抹消されたオルブライト伯爵家。
だが、その威光にすがりつくことは可能だ。
特にいまだ封建主義制度を取り入れている南の大陸諸国家なら、よろこんで受け入れてくれるだろう。
それは最悪の場合に備えての準備ではあったけれど。
「向かうならば、北にある魔王の都」
偉大なる魔王はその魔法技術の粋を尽くして、この世で最先端の文明国家を築いているという。
そこでは身分はあるものの、あらゆる宗教が認められ、例え聖女や勇者の血筋だとしても、利用されることがないのだとか。
「魔王様が最強だから、余計なものは期待しないとか。どんなに凄いのかしらね、あの国」
戦女神からも炎の精霊からも帝国からも、王国の手だって及ばない理想郷。
それは、今住んでいる帝国北部とほんの山脈ひとつ越えた向こうにある。
魔導列車に乗れば、長い山脈を繰り抜いた一本道がある。トンネルを数時間進むだけで、それは現実のものとなる。
新しい環境を息子が喜んでくれるだろうか。
そんな未来に思いを馳せながら準備を整えていたところで、階下が賑やかになった。
どうやらそろそろディーノの帰還らしい。
セナは慌てて用意したスーツケース類を物置にしまいこむと、ベッドにもぐりこんで寝たふりを始めた。
ロアッソのたくましい腕に抱だかれて、階段を寝室まで移動していくのは何度目だろうか。
そこにはこれから先に待つだろう期待感とか男女の仲、とかいうものは一切なく。
ただ揺れるたびに、脳が振動し、胃が痛みを起こして中身をぶちまけそうになる、色気もなにもあったもんじゃない、そんな感覚だった。
彼の胸に抱かれていると落ち着きを覚える。
それは死んだ父親が自分を馬の鞍に乗せて、草原を駆け抜けてくれたときの、あの感覚によく似ていた。
ロアッソは違う。
愛を語り合うべき男性ではない。とてもお世話になっているが、そういう対象とは見れない。
彼の厚意に報えないことにごめんなさい、と謝罪しながら心では別の男性を想っている。
ロバート。
あの夜と、いやそれ以上にまばゆい魅力的な男性として、彼はやってきてくれた。
捜してくれていないもの、と思っていた。
彼の前から逃げ出したことへの罪悪感もあった。
それがきっかけは些細な事だったとはいえ、彼の目に留まり、そしてやってきてくれた。
素直に喜べたらよかったのに、自分たちの間にあるのは息子という大きな難問だった。
こんな言い方をしたらディーノにしかられるかもしれない。
彼が王子さまでなく、自分が追放された公爵令嬢でなく、息子が二人の間に望まれて生まれてきた子供だったら。
こんなにも面倒くさいことにならずに済むだろう。
しかし私は立ち向かわなければならない。一人の女としての幸せよりも母親として、ディーノを守ってやらなければ。
高等学院を追放された日、自分を守ってくれた者は誰もいなかった。
迎えに来た車の運転手は、どこかもわからない路上で荷物を放り出し、乱暴に自分を後部座席から引きはがして、その場所に捨てていった。
あの夜も、今夜と同じような月が半分ほど翳った夜だった。
この身に流れているという聖女の血は、戦女神ラフィネの恩寵は、本当にあったのだろうか。
揺れる視界の隅に寝室へと続く扉が映り込み、そこを入ると息子が待つベッドの上だ。
彼はもう寝ているだろう、とロアッソにされるがままに身を横たえると、声が聞こえた。
顔をそっと向けると、ディーノが心細いように目の端に涙を溜めている。
ああ、やはり彼がここにきたことは、悪いことの起こる予兆だったのだ。
自分が抱きしめるより先に、ロアッソがふんふんと話を聞き、二人して階下へと降りてしまった。
先ほどまでその加護があるのか、と疑っていた女神に回復を祈る。
すると神はちゃんと聞き入れてくれて、心の疲労と、アルコールによっていささか疲弊していた身体が快復し、酔った感覚も分解されてどこかに消えてしまった。
「そろそろロアッソにも新しい奥様だって必要だろうし、ね」
そう言えば、親友のミアが最近、厚かましくおしかけてきては、恋人の愚痴を口にするが、それは以前つきあっていた六年前の彼ではないような気がする。
まあ、どうでもいいことだわ、と受け流す。
セナは若い頃からつかってきた旅行鞄と、ここに引っ越してきてからいくつか買い揃えたスーツケースを物置から、そっと引き出した。
あの二人は夜を一緒にすると長いのだ。
これまでの経験から、一時間は戻ってこないことが予測される。
『なにかあった万が一の時』に、備えてセナはいつも準備を怠らなかった。
必要な旅券、当座の資金、引き出しを開ければすぐに衣類をスーツケースに納められるように、区分けしてタンスには収納してある。
帝国だけでなく、王国や遠くは公国に至るまで、これまで溜めてきたディーノのための学資資金や生活費とは別にした、逃亡用の貯蓄を各国の口座に用意していた。
それは微々たるものだったけれど、十四歳のころから溜め続ければ、それなりの額になる。
今では、どの口座にもセナたち母子二人だけなら、二年は食べていけるほどの金額が貯められていた。
次にいく先は、なるべく王国と帝国から離れている国がいい。
ここほどに文化が発展しておらず、物価も帝国より十分の一か、それほど安い土地がいい。
身分を偽ることは望まないが、必要とあれば父親が与えてくれた身分証となる爵位証明書と印象がある。
印象とは、印鑑の代わりに使うようなものだ。
蜜蝋の上に封印などを施すさいに使う道具である。
それがあるだけで、伯爵家の人間だと証明することができる。
帝国の貴族籍からはとうの昔に抹消されたオルブライト伯爵家。
だが、その威光にすがりつくことは可能だ。
特にいまだ封建主義制度を取り入れている南の大陸諸国家なら、よろこんで受け入れてくれるだろう。
それは最悪の場合に備えての準備ではあったけれど。
「向かうならば、北にある魔王の都」
偉大なる魔王はその魔法技術の粋を尽くして、この世で最先端の文明国家を築いているという。
そこでは身分はあるものの、あらゆる宗教が認められ、例え聖女や勇者の血筋だとしても、利用されることがないのだとか。
「魔王様が最強だから、余計なものは期待しないとか。どんなに凄いのかしらね、あの国」
戦女神からも炎の精霊からも帝国からも、王国の手だって及ばない理想郷。
それは、今住んでいる帝国北部とほんの山脈ひとつ越えた向こうにある。
魔導列車に乗れば、長い山脈を繰り抜いた一本道がある。トンネルを数時間進むだけで、それは現実のものとなる。
新しい環境を息子が喜んでくれるだろうか。
そんな未来に思いを馳せながら準備を整えていたところで、階下が賑やかになった。
どうやらそろそろディーノの帰還らしい。
セナは慌てて用意したスーツケース類を物置にしまいこむと、ベッドにもぐりこんで寝たふりを始めた。
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