上 下
22 / 25

第二十二話

しおりを挟む
 アレクセイはなぜか、聖女様の隣にきてから「いいか?」と確認するように質問をしていた。
 彼女が「あなたって本当に厄介ごとに首を突っ込みたがるのね」とぼやくように言い、それから「御自由に」と肩をすくめるの見届けてから、あの大きな声で発言する。

「部外者が他国の内情に口を突っ込むのは、どうかとも思うんだが‥‥‥。国王陛下、よろしいでしょうか?」
「むっ‥‥‥。これは、聖教国宰相殿。何か発言がおありかな」

 聖教国宰相?
 あのアレクセイが!
 私は驚きで目を丸くする。
 その反応を見て聖女様は、面白そうにクスクスと笑っておられた。
 アレクセイこと、聖教国宰相は一度、自分が気絶させた相手。ロイデンをにらむと、陛下に向かい言葉を続けた。

「第二王子に暴言を吐かれ、おまけに暴力を振るわれたのは俺も同じでね。それについての謝罪はどこにある?」
「なっ! ‥‥‥ロイデン、お前はなんということを」

 会場の視線が一斉に第二王子に注がれた。
 ロイデンはその告発を聞き、もうこれ以上ないように、顔を薄黒く闇夜にさまよう死人のように青ざめさせていた。

「うっ、嘘だ‥‥‥。あれは、あいつが! そこのあいつが、途中から出てきたから、仕方なく」
「おまけに醜い婚約破棄の現場に遭遇したし、ミザリーとかいう怪しげな新しい婚約者だと名乗る女にも俺は出会った。ついでにその女と取り巻きどもに、馬車溜まりで遭遇して? いやいや、待ち伏せをされてたな。俺たちを殺す、そんな発言まで聞いた気がする。それは一体誰の責任になる、ロイデン国王陛下」
「……その場にいた最も身分の高い者。我が息子になるだろうな」
「では国王陛下。それに見合う罰を下していただきたい。あー……いや、ちょっと待ってくれ、国王陛下が下すよりもっといい方法がある」
「どういう意味だ?」
「俺は被害者だ。ならもっとひどい目にあった人間がいる。国王陛下、第二王子の元婚約者、レイダー侯爵令嬢アイナ様もまた同じ目に遭ったんだ。第二王子を裁くのに、これ以上ない逸材だと思わないか?」
「むう‥‥‥そなたまで襲われたという話は耳にしていなかった。貴国の外務官が巻き込まれたという話は聞いていたがな」
「それはつまり俺のことだ。この俺が保証する。ついでに妻も保障するそうだ」

 妻?
 独身に見えて妻帯者だったのこの人!
 今日は様々なことに驚いた日だったけれども。
 その中で一番驚いたのは多分、この事実だった。
 だって彼の妻は‥‥‥私の目の前で恥ずかしそうに頬を染める聖女様、その人だったのだから。
 彼女が重々しく頷くと国王陛下はもう逃げられないと感じたらしい。
 私に向かって「そなたが決めるが良い」と一言だけ告げると、押し黙ってしまった。

「私が? 私が決めても‥‥‥」
「お前が決めていいのだ」
「お父様、でも。どんな未来を選ぶとしても、彼とその周りの圧力はずっと私達を逃がさない‥‥‥」

 父親がそれでも選ぶのだと私に告げる。
 周りに促されるままに生きてしまっていいのだろうか。
 何かを選ぶという選択肢を与えられて流されるままにそれを決めるのは正しいことだろうか。
 私が本当の意味で、自由になれるのだとしたら‥‥‥どうすればいい?
 答えはたった一つしかなかった。

「陛下に申し上げます」
「うむ」
「私に第二王子を、元婚約者を裁く権利を与えてくださるというお話ですが」
「……そなたは何を選ぶ」
「私は誰かに決められた何かを選ぶのではなく。自分で自分の幸せをつかみたいと思います」
「それはなんだ」
「……」

 助けてくれ、と。
 私のほうを見てロイデンは叫びたそうにしていた。
 もはや助かるためならばどんなものにでもすがりつくような、そんな目をしていた。
 ああ、可哀想な人。
 哀れな子羊みたいに震えてしまって。
 そして、思ってしまったのだ。
 ‥‥‥復讐するときは、いまだ、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

安息を求めた婚約破棄

あみにあ
恋愛
とある同窓の晴れ舞台の場で、突然に王子から婚約破棄を言い渡された。 そして新たな婚約者は私の妹。 衝撃的な事実に周りがざわめく中、二人が寄り添う姿を眺めながらに、私は一人小さくほくそ笑んだのだった。 そう全ては計画通り。 これで全てから解放される。 ……けれども事はそう上手くいかなくて。 そんな令嬢のとあるお話です。 ※なろうでも投稿しております。

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

鈴宮(すずみや)
恋愛
 公爵令嬢ポラリスはある日、婚約者である王太子シリウスと、親友スピカの浮気現場を目撃してしまう。信じていた二人からの裏切りにショックを受け、その場から逃げ出すポラリス。思いの丈を叫んでいると、その現場をクラスメイトで留学生のバベルに目撃されてしまった。  その後、開き直ったように、人前でイチャイチャするようになったシリウスとスピカ。当然、婚約は破棄されるものと思っていたポラリスだったが、シリウスが口にしたのはあまりにも身勝手な要求だった――――。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?

空月
恋愛
精霊信仰の盛んなクレセント王国。 その王立学園の一大イベント・舞踏会の場で、アリシアは突然婚約破棄を言い渡された。 まったく心当たりのない理由をつらつらと言い連ねられる中、アリシアはとある理由で激しく動揺するが、そこに現れたのは──。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...