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第二十二話
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アレクセイはなぜか、聖女様の隣にきてから「いいか?」と確認するように質問をしていた。
彼女が「あなたって本当に厄介ごとに首を突っ込みたがるのね」とぼやくように言い、それから「御自由に」と肩をすくめるの見届けてから、あの大きな声で発言する。
「部外者が他国の内情に口を突っ込むのは、どうかとも思うんだが‥‥‥。国王陛下、よろしいでしょうか?」
「むっ‥‥‥。これは、聖教国宰相殿。何か発言がおありかな」
聖教国宰相?
あのアレクセイが!
私は驚きで目を丸くする。
その反応を見て聖女様は、面白そうにクスクスと笑っておられた。
アレクセイこと、聖教国宰相は一度、自分が気絶させた相手。ロイデンをにらむと、陛下に向かい言葉を続けた。
「第二王子に暴言を吐かれ、おまけに暴力を振るわれたのは俺も同じでね。それについての謝罪はどこにある?」
「なっ! ‥‥‥ロイデン、お前はなんということを」
会場の視線が一斉に第二王子に注がれた。
ロイデンはその告発を聞き、もうこれ以上ないように、顔を薄黒く闇夜にさまよう死人のように青ざめさせていた。
「うっ、嘘だ‥‥‥。あれは、あいつが! そこのあいつが、途中から出てきたから、仕方なく」
「おまけに醜い婚約破棄の現場に遭遇したし、ミザリーとかいう怪しげな新しい婚約者だと名乗る女にも俺は出会った。ついでにその女と取り巻きどもに、馬車溜まりで遭遇して? いやいや、待ち伏せをされてたな。俺たちを殺す、そんな発言まで聞いた気がする。それは一体誰の責任になる、ロイデン国王陛下」
「……その場にいた最も身分の高い者。我が息子になるだろうな」
「では国王陛下。それに見合う罰を下していただきたい。あー……いや、ちょっと待ってくれ、国王陛下が下すよりもっといい方法がある」
「どういう意味だ?」
「俺は被害者だ。ならもっとひどい目にあった人間がいる。国王陛下、第二王子の元婚約者、レイダー侯爵令嬢アイナ様もまた同じ目に遭ったんだ。第二王子を裁くのに、これ以上ない逸材だと思わないか?」
「むう‥‥‥そなたまで襲われたという話は耳にしていなかった。貴国の外務官が巻き込まれたという話は聞いていたがな」
「それはつまり俺のことだ。この俺が保証する。ついでに妻も保障するそうだ」
妻?
独身に見えて妻帯者だったのこの人!
今日は様々なことに驚いた日だったけれども。
その中で一番驚いたのは多分、この事実だった。
だって彼の妻は‥‥‥私の目の前で恥ずかしそうに頬を染める聖女様、その人だったのだから。
彼女が重々しく頷くと国王陛下はもう逃げられないと感じたらしい。
私に向かって「そなたが決めるが良い」と一言だけ告げると、押し黙ってしまった。
「私が? 私が決めても‥‥‥」
「お前が決めていいのだ」
「お父様、でも。どんな未来を選ぶとしても、彼とその周りの圧力はずっと私達を逃がさない‥‥‥」
父親がそれでも選ぶのだと私に告げる。
周りに促されるままに生きてしまっていいのだろうか。
何かを選ぶという選択肢を与えられて流されるままにそれを決めるのは正しいことだろうか。
私が本当の意味で、自由になれるのだとしたら‥‥‥どうすればいい?
答えはたった一つしかなかった。
「陛下に申し上げます」
「うむ」
「私に第二王子を、元婚約者を裁く権利を与えてくださるというお話ですが」
「……そなたは何を選ぶ」
「私は誰かに決められた何かを選ぶのではなく。自分で自分の幸せをつかみたいと思います」
「それはなんだ」
「……」
助けてくれ、と。
私のほうを見てロイデンは叫びたそうにしていた。
もはや助かるためならばどんなものにでもすがりつくような、そんな目をしていた。
ああ、可哀想な人。
哀れな子羊みたいに震えてしまって。
そして、思ってしまったのだ。
‥‥‥復讐するときは、いまだ、と。
彼女が「あなたって本当に厄介ごとに首を突っ込みたがるのね」とぼやくように言い、それから「御自由に」と肩をすくめるの見届けてから、あの大きな声で発言する。
「部外者が他国の内情に口を突っ込むのは、どうかとも思うんだが‥‥‥。国王陛下、よろしいでしょうか?」
「むっ‥‥‥。これは、聖教国宰相殿。何か発言がおありかな」
聖教国宰相?
あのアレクセイが!
私は驚きで目を丸くする。
その反応を見て聖女様は、面白そうにクスクスと笑っておられた。
アレクセイこと、聖教国宰相は一度、自分が気絶させた相手。ロイデンをにらむと、陛下に向かい言葉を続けた。
「第二王子に暴言を吐かれ、おまけに暴力を振るわれたのは俺も同じでね。それについての謝罪はどこにある?」
「なっ! ‥‥‥ロイデン、お前はなんということを」
会場の視線が一斉に第二王子に注がれた。
ロイデンはその告発を聞き、もうこれ以上ないように、顔を薄黒く闇夜にさまよう死人のように青ざめさせていた。
「うっ、嘘だ‥‥‥。あれは、あいつが! そこのあいつが、途中から出てきたから、仕方なく」
「おまけに醜い婚約破棄の現場に遭遇したし、ミザリーとかいう怪しげな新しい婚約者だと名乗る女にも俺は出会った。ついでにその女と取り巻きどもに、馬車溜まりで遭遇して? いやいや、待ち伏せをされてたな。俺たちを殺す、そんな発言まで聞いた気がする。それは一体誰の責任になる、ロイデン国王陛下」
「……その場にいた最も身分の高い者。我が息子になるだろうな」
「では国王陛下。それに見合う罰を下していただきたい。あー……いや、ちょっと待ってくれ、国王陛下が下すよりもっといい方法がある」
「どういう意味だ?」
「俺は被害者だ。ならもっとひどい目にあった人間がいる。国王陛下、第二王子の元婚約者、レイダー侯爵令嬢アイナ様もまた同じ目に遭ったんだ。第二王子を裁くのに、これ以上ない逸材だと思わないか?」
「むう‥‥‥そなたまで襲われたという話は耳にしていなかった。貴国の外務官が巻き込まれたという話は聞いていたがな」
「それはつまり俺のことだ。この俺が保証する。ついでに妻も保障するそうだ」
妻?
独身に見えて妻帯者だったのこの人!
今日は様々なことに驚いた日だったけれども。
その中で一番驚いたのは多分、この事実だった。
だって彼の妻は‥‥‥私の目の前で恥ずかしそうに頬を染める聖女様、その人だったのだから。
彼女が重々しく頷くと国王陛下はもう逃げられないと感じたらしい。
私に向かって「そなたが決めるが良い」と一言だけ告げると、押し黙ってしまった。
「私が? 私が決めても‥‥‥」
「お前が決めていいのだ」
「お父様、でも。どんな未来を選ぶとしても、彼とその周りの圧力はずっと私達を逃がさない‥‥‥」
父親がそれでも選ぶのだと私に告げる。
周りに促されるままに生きてしまっていいのだろうか。
何かを選ぶという選択肢を与えられて流されるままにそれを決めるのは正しいことだろうか。
私が本当の意味で、自由になれるのだとしたら‥‥‥どうすればいい?
答えはたった一つしかなかった。
「陛下に申し上げます」
「うむ」
「私に第二王子を、元婚約者を裁く権利を与えてくださるというお話ですが」
「……そなたは何を選ぶ」
「私は誰かに決められた何かを選ぶのではなく。自分で自分の幸せをつかみたいと思います」
「それはなんだ」
「……」
助けてくれ、と。
私のほうを見てロイデンは叫びたそうにしていた。
もはや助かるためならばどんなものにでもすがりつくような、そんな目をしていた。
ああ、可哀想な人。
哀れな子羊みたいに震えてしまって。
そして、思ってしまったのだ。
‥‥‥復讐するときは、いまだ、と。
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