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第十五話
しおりを挟む宮廷魔導師長をしていた祖父の弟子だったのだというならば、彼の魔法の腕はそれなりのものなのだろうと推測してみた。
ここからどこかへと移動する転移魔法も、それほど扱いはむずかしくないのだろう。
ただ、王都のなかには魔法を感知する結界が張られていると、学院では教えられているから、そこが気になった。
「この馬車から移動した先‥‥‥知られていたりしないのかしら」
私には魔法の才能はないし、馬車にもそんな便利な機能はついていない。
あんな素晴らしい才覚があれば、忌まわしい殿下にもやり返せたのかと思うと、魔法使いたちが羨ましく見えてしまうから不思議だ。
第二王子にぶたれた鞭の後はそうそう簡単には消えるものじゃないし、場所によってはずっと消えない刻印となって私を苦しめるだろう。
まあ、これまで数年間の間につけられたものはもう、消え失せることはないから、諦めもつく。
と、いうよりも諦めなければいけないと自分に言い聞かせていた。
幸い、学院では子女たちは誰でもロングスカートを履き、手には長い絹製の手袋をして登校する。
肌を見せることはだらしがないとしつけられているからだ。
「社交界でドレスを着てデビュー‥‥‥は、できなくなっちゃったね」
あと一年で学院を卒業して、卒業式の夜会はそのまま社交界デビューの場だ。
いや、未来を考えるのはよそう。そう思った。
かぶりを振り、無駄な希望を頭から追い出した。
どうせ、明日か。
遅くても週末には一家揃って牢獄の中にいるだろう。
毎月第二日曜日に行われる死刑囚の断罪の場。
大広間で半ば市民の不満を解消させる目的で取り行われる、断頭台に送られる未来は見えている。
親孝行をしなければならないのに、親を巻き込み、弟や妹も巻き込んで‥‥‥私は最悪で最低な姉でしかない。
屋敷に辿り着くまでの間、私は心の中で家族に謝罪することと、女神様に情けをかけてください、と願う祈りを続けることしかできなかった。
屋敷の周囲をぐるりと取り囲む針葉樹の壁を行き過ぎると、門柱が見えてくる。
普段は家人がいるはずのないその開かれた門扉の前には、数人の男たちが剣だの槍だのを手にして待ち構えているのが見えた。
「お嬢様!」
と、壁の小窓が開き、御者が不安そうな声をかけてくる。
逃げるかどうするか、その二択をしなければならなかった。
「行きなさい。屋敷に戻るのよ」
「ですがっ‥‥‥」
「いいから。行きなさい」
「はい」
不安な声はそのままに、彼は不承不承そう言い、命令に従ってくれた。
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