3 / 25
第三話
しおりを挟む
ここで学院の大広間にいる生徒全員に、恥さらし大会を開催している両名を紹介しておきたいと思う。
男の名は、ロイデン。
このクルーセン王国の第二王子、二十四歳。
枯れ草色の髪と、黒い瞳を持つ、長身で自分の騎士団を率いている、剣の名手。
女には甘く、同性には鉄のように冷たくて、国民の間では嫌われていることを、彼は知らない。
無論、婚約者である私にも甘いか、というとそうではなく。
くる日もくる日も、王族になるからには、妻になるからには、と手ずからマナーを教えてくれる。
その際は、細くて丈夫で柔らかくもしなる、柳の枝の鞭を忘れない。
おかげ様で、ドレスで見えない私のからだには、いつも鞭のあとが絶えない。
女なら、どんなことをしても、暴力を振るっても許されると勘違いしている男。
そして、次期国王候補に名乗りをあげている男。
つまり、殿下というわけだ。
女のほうはよく知らない。
彼がいきなり紹介してきたから、名前だけは知っている。
ミザリーというのだ。
多分、年のころは私と同じか、少し下になるのかもしれない。
銀色の混じりけが一切ないシルバーブロンド。杏型の多少つり上がった目は猫を思わせる容貌で、瞳の色は深いグリーン。
高く通った鼻梁と、薄い唇はどこか高値の花を思わせるのだろう。
なるほど、殿下がひと目見て気に入りそうなタイプだと分かりそうな女だった。
どうやら男に上手く取り入る術を心得ているらしい。
いまも殿下の胸元にひしっと寄り添って、「あの御方、目月が怖いです」とか、ひそひそと悪口を継げているのが耳に入ってきた。
「はあ? なんですって!」
「ひいっ、殿下!」
「あーよしよし。怖がることはないのだ、可愛い奴め」
聞こえるような悪口を言うのが悪いのだ。
そう思いつつ、にらみつけてやると、ロイデン様にしかられた。
彼の暴力には太刀打ちできない。
それは無意識の中にまで、すりこまれてしまっていた。
でも、女として負ける気はさらさら、ない。
「アイナ、なんだ、その目つきは! それでも、僕の婚約者か? なんて情けない、野良犬のような目つきをする女だな、お前は!」
「……申し訳ございません、ロイデン」
「ロイデン様を呼び捨てにするなんて、なんて恥知らずな女なの?」
と、今度は、ミザリーが調子良く、彼の言葉尻に乗りかかり私を罵倒し始めた。
彼女のあざけりは男に甘えながら、こちらを貶めるやり方で、聞いているだけで腹立たしい。
殿下には物申せなくても、泥棒猫‥‥‥もとい、平民なんかに恐れを抱く必要性は感じなかった。
私は、声高に叫ぶミザリーに、諭すように言った。
「まだ婚約もなにも、成してしていない平民のあなたが、殿下の名を呼び捨てにすることの方が、余程、恥知らずだと知りなさい。この学院の生徒ならばさらに恥を知るべきです」
「まあ、失礼な人ね。ロイデン様は、ロイデンと呼んでいいと、すでに許可を頂いております。あなたは王太子妃補としてそんなに頑張ってきた、みたいな物言いと態度をするけれど。それはまるで、身分を嵩にきてわたしを弱い者いじめしているのと同じように感じますわ」
「なんですって‥‥‥。他人の婚約者を奪おうとしている泥棒猫が、なんて言い方を!」
そう叫んだら、与えられたのは―ー殿下の裏拳だった。
男の名は、ロイデン。
このクルーセン王国の第二王子、二十四歳。
枯れ草色の髪と、黒い瞳を持つ、長身で自分の騎士団を率いている、剣の名手。
女には甘く、同性には鉄のように冷たくて、国民の間では嫌われていることを、彼は知らない。
無論、婚約者である私にも甘いか、というとそうではなく。
くる日もくる日も、王族になるからには、妻になるからには、と手ずからマナーを教えてくれる。
その際は、細くて丈夫で柔らかくもしなる、柳の枝の鞭を忘れない。
おかげ様で、ドレスで見えない私のからだには、いつも鞭のあとが絶えない。
女なら、どんなことをしても、暴力を振るっても許されると勘違いしている男。
そして、次期国王候補に名乗りをあげている男。
つまり、殿下というわけだ。
女のほうはよく知らない。
彼がいきなり紹介してきたから、名前だけは知っている。
ミザリーというのだ。
多分、年のころは私と同じか、少し下になるのかもしれない。
銀色の混じりけが一切ないシルバーブロンド。杏型の多少つり上がった目は猫を思わせる容貌で、瞳の色は深いグリーン。
高く通った鼻梁と、薄い唇はどこか高値の花を思わせるのだろう。
なるほど、殿下がひと目見て気に入りそうなタイプだと分かりそうな女だった。
どうやら男に上手く取り入る術を心得ているらしい。
いまも殿下の胸元にひしっと寄り添って、「あの御方、目月が怖いです」とか、ひそひそと悪口を継げているのが耳に入ってきた。
「はあ? なんですって!」
「ひいっ、殿下!」
「あーよしよし。怖がることはないのだ、可愛い奴め」
聞こえるような悪口を言うのが悪いのだ。
そう思いつつ、にらみつけてやると、ロイデン様にしかられた。
彼の暴力には太刀打ちできない。
それは無意識の中にまで、すりこまれてしまっていた。
でも、女として負ける気はさらさら、ない。
「アイナ、なんだ、その目つきは! それでも、僕の婚約者か? なんて情けない、野良犬のような目つきをする女だな、お前は!」
「……申し訳ございません、ロイデン」
「ロイデン様を呼び捨てにするなんて、なんて恥知らずな女なの?」
と、今度は、ミザリーが調子良く、彼の言葉尻に乗りかかり私を罵倒し始めた。
彼女のあざけりは男に甘えながら、こちらを貶めるやり方で、聞いているだけで腹立たしい。
殿下には物申せなくても、泥棒猫‥‥‥もとい、平民なんかに恐れを抱く必要性は感じなかった。
私は、声高に叫ぶミザリーに、諭すように言った。
「まだ婚約もなにも、成してしていない平民のあなたが、殿下の名を呼び捨てにすることの方が、余程、恥知らずだと知りなさい。この学院の生徒ならばさらに恥を知るべきです」
「まあ、失礼な人ね。ロイデン様は、ロイデンと呼んでいいと、すでに許可を頂いております。あなたは王太子妃補としてそんなに頑張ってきた、みたいな物言いと態度をするけれど。それはまるで、身分を嵩にきてわたしを弱い者いじめしているのと同じように感じますわ」
「なんですって‥‥‥。他人の婚約者を奪おうとしている泥棒猫が、なんて言い方を!」
そう叫んだら、与えられたのは―ー殿下の裏拳だった。
33
お気に入りに追加
2,431
あなたにおすすめの小説
婚約者と妹に毒を盛られて殺されましたが、お忘れですか?精霊の申し子である私の身に何か起これば無事に生き残れるわけないので、ざまぁないですね。
無名 -ムメイ-
恋愛
リハビリがてら書きます。
1話で完結します。
注意:低クオリティです。
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
我儘な妹のせいで虐げられ続けてた公爵令嬢の私は我慢することをやめることにしました
パンドラ
恋愛
ブチッ! それは堪忍袋の緒が切れる音だった。
今日は一つ歳下の妹であるアイシャの十五歳の誕生日。その日に私は婚約者であるジャスタ様からこう告げられた。
「ハンナ、君との婚約は破棄させてもらう」
と……
決まっている。これもアイシャが関わっているのだろう。アイシャは私から色んなモノを奪っていく。ジャスタ様もアイシャが奪ったのは明白だった。
我儘しまくりのアイシャのことを、私は今まで我慢し続けてたけど、ジャスタ様まで奪われてはもう我慢出来ない! アイシャばっかり可愛がる父上と母上……果てはこの国がどうなろうと私が知ったことではないわ!
全てを捨てて出て行ってしまいましょう!
婚約は破棄なんですよね?
もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
彼女を選んだのはあなたです
風見ゆうみ
恋愛
聖女の証が現れた伯爵令嬢のリリアナは聖女の行動を管理する教会本部に足を運び、そこでリリアナ以外の聖女2人と聖騎士達と出会う。
公爵令息であり聖騎士でもあるフェナンと強制的に婚約させられたり、新しい学園生活に戸惑いながらも、新しい生活に慣れてきた頃、フェナンが既婚者である他の聖女と関係を持っている場面を見てしまう。
「火遊びだ」と謝ってきたフェナンだったが、最終的に開き直った彼に婚約破棄を言い渡されたその日から、リリアナの聖女の力が一気に高まっていく。
伝承のせいで不吉の聖女だと呼ばれる様になったリリアナは、今まで優しかった周りの人間から嫌がらせを受ける様になるのだが、それと共に他の聖女や聖騎士の力が弱まっていき…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっていますのでご了承下さい。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
妹よりも劣っていると指摘され、ついでに婚約破棄までされた私は修行の旅に出ます
キョウキョウ
恋愛
回復魔法を得意としている、姉妹の貴族令嬢が居た。
姉のマリアンヌと、妹のルイーゼ。
マクシミリアン王子は、姉のマリアンヌと婚約関係を結んでおり、妹のルイーゼとも面識があった。
ある日、妹のルイーゼが回復魔法で怪我人を治療している場面に遭遇したマクシミリアン王子。それを見て、姉のマリアンヌよりも能力が高いと思った彼は、今の婚約関係を破棄しようと思い立った。
優秀な妹の方が、婚約者に相応しいと考えたから。自分のパートナーは優秀な人物であるべきだと、そう思っていた。
マクシミリアン王子は、大きな勘違いをしていた。見た目が派手な魔法を扱っていたから、ルイーゼの事を優秀な魔法使いだと思い込んでいたのだ。それに比べて、マリアンヌの魔法は地味だった。
しかし実際は、マリアンヌの回復魔法のほうが効果が高い。それは、見た目では分からない実力。回復魔法についての知識がなければ、分からないこと。ルイーゼよりもマリアンヌに任せたほうが確実で、完璧に治る。
だが、それを知らないマクシミリアン王子は、マリアンヌではなくルイーゼを選んだ。
婚約を破棄されたマリアンヌは、もっと魔法の腕を磨くため修行の旅に出ることにした。国を離れて、まだ見ぬ世界へ飛び込んでいく。
マリアンヌが居なくなってから、マクシミリアン王子は後悔することになる。その事実に気付くのは、マリアンヌが居なくなってしばらく経ってから。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
傲慢令嬢にはなにも出来ませんわ!
豆狸
恋愛
「ガルシア侯爵令嬢サンドラ! 私、王太子フラカソは君との婚約を破棄する! たとえ王太子妃になったとしても君のような傲慢令嬢にはなにも出来ないだろうからなっ!」
私は殿下にお辞儀をして、卒業パーティの会場から立ち去りました。
人生に一度の機会なのにもったいない?
いえいえ。実は私、三度目の人生なんですの。死ぬたびに時間を撒き戻しているのですわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる