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第三話

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 ここで学院の大広間にいる生徒全員に、恥さらし大会を開催している両名を紹介しておきたいと思う。

 男の名は、ロイデン。
 このクルーセン王国の第二王子、二十四歳。
 枯れ草色の髪と、黒い瞳を持つ、長身で自分の騎士団を率いている、剣の名手。
 女には甘く、同性には鉄のように冷たくて、国民の間では嫌われていることを、彼は知らない。
 無論、婚約者である私にも甘いか、というとそうではなく。
 くる日もくる日も、王族になるからには、妻になるからには、と手ずからマナーを教えてくれる。

 その際は、細くて丈夫で柔らかくもしなる、柳の枝の鞭を忘れない。
 おかげ様で、ドレスで見えない私のからだには、いつも鞭のあとが絶えない。
 女なら、どんなことをしても、暴力を振るっても許されると勘違いしている男。
 そして、次期国王候補に名乗りをあげている男。
 つまり、殿下というわけだ。

 女のほうはよく知らない。
 彼がいきなり紹介してきたから、名前だけは知っている。
 ミザリーというのだ。
 多分、年のころは私と同じか、少し下になるのかもしれない。
 銀色の混じりけが一切ないシルバーブロンド。杏型の多少つり上がった目は猫を思わせる容貌で、瞳の色は深いグリーン。

 高く通った鼻梁と、薄い唇はどこか高値の花を思わせるのだろう。
 なるほど、殿下がひと目見て気に入りそうなタイプだと分かりそうな女だった。
 どうやら男に上手く取り入る術を心得ているらしい。
 いまも殿下の胸元にひしっと寄り添って、「あの御方、目月が怖いです」とか、ひそひそと悪口を継げているのが耳に入ってきた。

「はあ? なんですって!」
「ひいっ、殿下!」
「あーよしよし。怖がることはないのだ、可愛い奴め」

 聞こえるような悪口を言うのが悪いのだ。
 そう思いつつ、にらみつけてやると、ロイデン様にしかられた。
 彼の暴力には太刀打ちできない。
 それは無意識の中にまで、すりこまれてしまっていた。
 でも、女として負ける気はさらさら、ない。
 
「アイナ、なんだ、その目つきは! それでも、僕の婚約者か? なんて情けない、野良犬のような目つきをする女だな、お前は!」
「……申し訳ございません、ロイデン」
「ロイデン様を呼び捨てにするなんて、なんて恥知らずな女なの?」

 と、今度は、ミザリーが調子良く、彼の言葉尻に乗りかかり私を罵倒し始めた。
 彼女のあざけりは男に甘えながら、こちらを貶めるやり方で、聞いているだけで腹立たしい。
 殿下には物申せなくても、泥棒猫‥‥‥もとい、平民なんかに恐れを抱く必要性は感じなかった。
 私は、声高に叫ぶミザリーに、諭すように言った。

「まだ婚約もなにも、成してしていない平民のあなたが、殿下の名を呼び捨てにすることの方が、余程、恥知らずだと知りなさい。この学院の生徒ならばさらに恥を知るべきです」
「まあ、失礼な人ね。ロイデン様は、ロイデンと呼んでいいと、すでに許可を頂いております。あなたは王太子妃補としてそんなに頑張ってきた、みたいな物言いと態度をするけれど。それはまるで、身分を嵩にきてわたしを弱い者いじめしているのと同じように感じますわ」
「なんですって‥‥‥。他人の婚約者を奪おうとしている泥棒猫が、なんて言い方を!」

 そう叫んだら、与えられたのは―ー殿下の裏拳だった。


 
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