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第一章 

第二十六話 魔猟師資格

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 魔猟師資格を得るための研修は一通り終わり、当日の筆記試験や実技試験を突破した人数は、参加した四十数名のうち、半数を超える二十名ちょっとだった。

 実に半分の確率で、魔猟師の資格は手に入ることになる。
 必要なのはある程度の実力もそうだが、やはりお金だ。

 資格を得るためだけに、総額で銀貨五枚を支払わなければならない。
 これはエリオットのような社会に出てまだ一年にも満たない若者にとっては、半年分の稼ぎの総額に近い。

 アニスにとっては、それは微々たる額だ。
 しかし、エリオットにとってはそうではない。

 彼が自分で支払うと言い、騎士団見習い時代に貯めた貯蓄の一部を切り崩してまで、この資格に挑むにはそれ相応の覚悟が必要になる。

「単純に良質な魔石を手に入れる、だけじゃないのかしら?」

 と、アニスは朱色の四角い革ケースに納められた認定証を目の前に掲げて、それをじーっと見た。
 隣ではエリオットも同じようにして、ケースの端を睨んでいる。

 太陽の光にかざすと、このケースはそれを透かすようにして、うっすらと銀色の紋章を浮かび上がらせると説明されたからだ。

 この紋章が魔猟師の資格であり、常にこの認定証を携行していないと、魔猟に出向くことは許されない。
 紛失した際には銀貨一枚の再発行手数料取られるし、ペナルティとしていくつかのポイントが減らされることになる。

 魔猟師の資格はEからSまであり、アニスやエリオットは最低ランクのEから始めることになる。
 魔猟師協会からの依頼を受けて狩りに赴いたり、各地で施行している魔猟師募集イベントなどの運営に携われば、経験値。
 俗にいうポイントが配布される。

 これを貯めることにより、国によって許可された魔猟地で、自分のランクにあった狩りをすることが、可能となる。
 魔猟といえば、その辺りにいるモンスターとか異常な自然災害を魔法によって駆逐すれば、それで解決と考える人も多い。

 だがしかし、王国の国土の大半は魔猟禁漁区である。
 しばらく前に聖戦が集結し、魔族との間に平和協定が結ばれた。

 その中には稀少な魔獣を天然記念物として保護すること、という条約の一文があるのだ。
 魔獣はそれまで人に害悪を成す邪悪な存在だったものが、今では一部を除いて保護されるべきものとなってしまった。

 もちろん法律でそう決まったからといって、魔獣そのものが人に対して害を成すないわけではない。
 それは獣でも同じ事なのだが、魔族においてはほんの少し毛色が違う。

 魔族では強い者が正義なのだ。
 弱肉強食の世界ではなく、より統制と統率の取れた、最も強い者が命じる言葉に、魔族である限り誰も逆らうことができないのである。

「そして少し前まで、腕利きだと呼ばれていた魔猟師たちは廃業。今となっては密輸業者に転落するか、条約の結ばれていない海外で活躍するしかない……ね。私たちももう少し早い時代に生まれていれば」
「いやーそれはどうですかね? お嬢様の能力はまた別として、俺なんかはたいして魔法の才能があるわけでもない。逆にいまの方が良かった気がします」
「そう。それなら気が合うわね」
「えっと、アニス? それはどういう意味ですか?」
「私、魔猟が嫌いなの」
「ああ、そういう」

 魔物を狩ることが嫌いだと言う彼女に、相棒になってくれと頼んだことがもしかしたら、ものすごく失礼なことをしてしまったのかもしれない。
 エリオットはそんな想像をするが、アニスはまんざらでもないらしい。

「魔猟は嫌い。でもそれは大勢で一匹を囲んで戦う時であって」
「え?」
「一対一で戦うのならば、これほど素晴らしい戦いもないと思うの」

 アニスは狩りが大好きだ。
 彼女の隠された戦闘的な一面を見てしまい、エリオットは頬に汗をかく。

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