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怪しいものに悪戯しちゃいけないよ
しおりを挟む「俺が言うのもなんなんだけどさあ……怪しいものに悪戯しちゃいけないよ」
聖女の森。
聖なる力が色濃く残るその場所で、黒いモヤモヤとしたものがそう言いました。
視線はわたくしと、先ほどわたくしが真っ二つに割った邪悪な見た目の像とを行き来しています。
「……これから出て来たのが俺で運が良かったよ、君は」
綺麗に割れたそれを悲しげに見つめながら、そのモヤモヤが首……と言って良いのでしょうか、首と思わしき箇所をやれやれと振っています。
「聖女の結界張ってある場所にこんな禍々しいもの置いてあったら、危ないものと気づくべきだよ。それを君……割るなんて。触れた瞬間命奪われる呪いとか、世の中には全然あるからね。二度とこんなことしちゃいけないよ」
真っ黒い霧が濃く集まったかのようなモヤモヤは、表情こそはありませんが、声音から真剣に注意してくださっていることがわかります。
わたくしが「はい」と頷くと、彼は少しため息を吐き、悲しげな声で「今回は俺の家だったからいいけどさ……」と呟き、再び視線を割れた像に向けました。
「俺の家が真っ二つ……」
「本当に……申し訳ありません」
まさか魔王様を封印している像の内部がお屋敷になっているとは思わず、大変なことをしてしまいました。
黒いモヤモヤ……いえ、魔王様は大変しょんぼりしたご様子で「せっかく奮発して高いソーセージ入れたポトフ仕込んでたのにさあ……俺の貴重なショウエッセン……」と呟いています。
申し訳なくなって縮こまりながら、わたくしは頭を下げました。
「本当に申しわけありません……まさか封印先があなたさまのお家になっているとは露知らず、つい気分が高揚して乱暴に封印を叩き解いてしまいました。聖女エウレカの名にかけて、ショウエッセンとお家は必ずや補償させていただきますわ」
「……エウレカ?」
魔王様がゆら、と揺れてわたくしに目を向けます。
そのまっすぐな視線に射抜かれて、わたくしは胸に当てた手をぎゅっと握りながら答えました。
「ええ。わたくしは聖女エウレカの血をひく、カスティーヤ公爵家の次女。セルヴィと申します」
「……!」
その瞬間黒いモヤはごおおっと大きくなり、魔王様が心なしか威厳のある雰囲気をお出しになりました。
「聖女エウレカの血を引く者よ。我に何用だ」
唐突なキャラクターの変わりように、思わず目が丸くなりました。
それを恐怖と取ったのか、魔王様が心配そうにおろ……と揺れます。
「ここであったが百年目!……と言いたいところだが、く、口惜しいことよ。人間どもに苦しみを与える絶好の機会だというのに、聖剣によって力を奪われているゆえ、我には何もできぬ。仕方ない。力満ちるまで我はもう一度眠ってやる。おい聖女、もう一度封印を……」
「聖剣はここに。この宝石を割ればあなた様のお力は戻るでしょう」
「なんで!?」
魔王様のお体でも聖剣に触れるよう、聖力を消すため瘴気漂う沼の水に三日漬け込み、じゃぶじゃぶと洗った聖剣を差し出すと、魔王様は大変驚かれたご様子でぶるぶると揺れました。
「エウレカの子孫だよな!? なんで俺を!?」
「あなたさまのお力を借りて、ぎゃふんと言わせてやりたい人間がいるのです。どうかお力をお貸し頂きたく」
「ぎゃふん……!?」
魔王様が混乱したご様子でひゅん、と細長く伸びました。
「え、何……? 誰に何をされたのだ……?」
その質問に、脳裏に「セルヴィ。幼い頃より共に頑張ってきた君と共に、より良い国を作っていきたい」と切なさを押し殺した表情で綺麗事をのたまうアラン殿下の顔が浮かびました。
握りしめた手元の聖剣がギチギチと音を立てます。ぽつりと「怖」と呟く声も聞こえました。
「お相手は、わたくしの婚約者であるこの国の王太子、アラン殿下でございます。明日の卒業パーティーでこちらから婚約破棄を突きつけ、ぎゃふんと言わせてやりたいのですわ!」
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