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第2話 6回目の夢

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「・・・・・・・」

 自分は目が覚めた。というより、目が冴えたという感じだろうか。今まで寝ていたのかと疑うほど視界がはっきりとし、遠くで男女が会話している声が耳に入ってくる。

「~~さん。一人でトイレは危険っていったでしょ」

「すみません。皆さん忙しそうにしてたから・・・」

 自分には関係がない話だということがわかり、興味は失せた。次に身の回りの状況を確認する。

 天井は白色に小さい穴がぶつぶつと空いたよな模様だ。どこかで見たことがあるような模様だ。

 左を見る。ベッドの横には床頭台とテレビがあり、ご丁寧に、「テレビカードはエレベーター横で販売しています」という紙が立ててある。やっぱりそうだ。

「びょう・・・いん?」

 床頭台の手前に点滴スタンドが置いてあり、なにか透明な液体が入った袋がぶらさげてある。そして、そこから伸びたチューブは・・・・・・自分の腕にはついておらず、床に垂れ下がっている。

 右を見る。窓からは空が見え、窓にはガラスが入ってはいないのでは? と錯覚するほど透き通った青色をしていた。日差しが足元に差し込んでいることが、ベッドのぬくもりで察することが出来た。

「あっ、起きたなにーちゃん」

「!!」

 いきなり声をかけられ、驚いてしまった。声のするほうを見ると長身の男が一人部屋に入ってきた。

 緑をベースにした和服に茶色の帯をしたその男性、いかにもダンディという顔つきで髭も少し生えている。右手は懐の中に入れていた。いかにも病院の患者という恰好ではないことは確か。

「ほれっ」

 男性は水の入ったペットボトルを自分の方へ投げ、そのまま歩き、自分の向かいにある誰もいないベットに腰掛ける。

「あの・・・・・・」

「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、とりあえず水を飲みな。話はそっから」

「はあぁ」

 自分はとりあえず水を一口、とても冷たくておなかの中まで染み渡る感じがした。

 水を口にしたとたん、まるで自分が経験したかのような記憶がフラッシュバックする。

 老人、看護師、あの白衣の男、二足歩行のねずみの化け物。

 怖い、いったい自分がどういった状況にあるのかが全く分からない。手が震える。

 水を飲んでいる間頭の整理をしようと思ったが、落ち着かない。しかし、どう考えてもなぜここにいるのかということと、自分の名前については分からなかった。

「うぅ・・・・・・気分が悪い」

 手を口にやる。そうか僕はあの化け物に食われた。そしてこれは現実?

「すいません。これは現実ですか?」

 変な質問だろう。でもこの人が僕の古い友人だとすればきっと答えてくれるはずだろう。見舞いに和服を着てくる友人も変なものだと思うが。

「ごめんな、まだ夢のなかだ」

 通じた。

「あっあの、僕なんでここにいるのかも分からなくて、それで名前もわかんないし、あっあと化け物だったり異世界からいう人だったり、えっと、えっと・・・・・・」

 わからない人だけど、今の僕の話を理解してくれる人がいる。それだけでうれしくて涙ぐんでしまった。

「おうおう、まだ気をぬくのは早いよにーちゃん。落ち着け落ち着け」

 和服の男は、慌てたようすでベットから立ち、僕のところへ歩み寄る。

「俺はニワタリっていうんだ。あんたをこっから助けてやる。だから俺の話を聞いておくれよ」













「あっ起きたんですね!田中さん よかったー」



 前回の夢とほぼ同じタイミングで看護師が入ってくる。よくもあんな目に合わせてくれたなという怒りが顔にでないように気をつけつつ、いかにも何にも知らないっていう雰囲気を出す。点滴も、抜けたままだとばれるため、腕に針が刺さっているように見えるようテープで固定している。

「あっ・・・・・・はい。 あのここは?」

「ここは病院ですよー昨日運ばれてきたんですよ。田中さん。主治医から詳しい説明があるので、今から行きましょうか」

 田中さんか・・・・・・、これも僕の名前じゃないんだろうな。

「はい・・・・・・わかりました」










 数分前、ニワタリという男と作戦を話し合った。

「いいか、にーちゃんがこっから目を覚ます方法は簡単なんだが、君が先に目を覚ましちゃうと、あいつらを捕まえることはできねえし、君も見たと思うが、あの化け物が現実世界に溢れないように、ここで倒しておきたい」

「はぁ・・・・・・」

「だから、もう一人カシマって男がいるんだが、そいつが化け物やあいつらを退治するまでは、俺と安心安全な場所に隠れる。9時になると看護師の振りをした異世界人がやってくるで合ってるよな?さすがに、今バレちまうのはまずいから、看護師をだまして離れて、そこから俺と行動しよう。だが、前回の夢の内容を覚えていることを奴らに悟られないようにしたほうがいい。君も危うくなるし、俺たちが来ていることもばれかねないからな

「はい、わかりました」

「よし、じゃあそろそろあの女が来る頃だから、一旦俺は隠れるよ、その後はバレないようについていくからな」

 そういってニワタリは部屋から出ていく。

 そして、この部屋には僕一人だけになった。そういえば、向かいにいたおじいさんはどこにいったんだろう?














 看護師の後ろについて、病院を歩く。そしてエレベーターの中へ。

「あの、田中さん。なんか静かですけど、大丈夫ですか?困っていることがあったら言ってくださいね?」

「あっいえ・・・・・・考え事をしてまして」

 しまった。ばれてはいけないという思いが強く、口数が減っていてしまったか。そうだよな、前の夢であんなに質問していたということは、それ以前の夢でも同じことを聞いていたんだろうな。

 ここは、ひとつ芝居をしないと。

「ええっと、田中っていう名前がいまいち僕の名前だと感じれなくて・・・・・・」

「安心してください。あなたは田中さんであっていますよ。記憶が飛んじゃってるだけです。今は不安かもしれませんが、先生の話を聞けばもっと記憶がよくなりますよ!」

 そういって看護師は背中をたたく。なにが よくなりますよ! だ。

 チーン。エレベーターが着いた音がする。

「あのすいません」

「はい?」

「トイレに行ってもいいでしょうか?ずっと我慢してて・・・・・・」

 そういってもじもじと体をゆする。もちろん嘘だ。今までの夢でトイレに行くという行動はしてこなかったと思うが。

「えっええ? いっいいですけど。 早めにお願いします・・・・・・ね?」

 看護師は動揺しているが、行かせてくれるようだ。大丈夫。トイレまで入り込めば後は何とでもなる。夢ということが分かっている限り、トイレの窓を破って脱走することに罪悪感はないし、なんなら、ニワタリも男性トイレに隠れることができる。

「ありがとうございます!」

 ちょっと元気良すぎたかもしれないが、この看護師から離れられることに安堵し、エレベーターの扉が開いた瞬間に足を踏み出す。


 プスッ



「うっ・・・・・・嘘・・・・・・」

 そこにあの男がいた。扉が開いた瞬間、ぼさぼさの髪、鋭い右眼、そして伸びた右手には僕を刺した注射針。その中の液体は今僕の中に。

「先生! どうして!?」

 看護師はまだ、一般人の振りをしているよう・・・・・・だ。

「奴らに侵入された可能性が高い。クラリスついてこい」

 その言葉を最後に、僕はまた眠った。



























「うっうう・・・・・・」



 またあの部屋だ。つまり、僕はまだ死んでいないということ。また、手足を縛られ、椅子の上だ。

「手荒なまねをしてすまなかった。君と話がしたかったんだ」

 目の前にはやはりあの男。明らかに、前回の夢とは早い時間だ。もうばれてしまっているのか・・・・・・ニワタリ達のことも

「奴らは、どうやら慎重に私や仲間を殺そうとしているみたいだけど、かえって時間をかけ過ぎたようだね。明らかに行動パターンが違う。君もこころあたりあるんじゃない?」

 行動パターンが違う・・・・・・ニワタリ? いや、もう一人の方か?

「まあ、君に聞いたところで、意味はないんだけども」

 そういって男は僕に近づいてくる。

「やめろ・・・・・・僕に近づくな!」

「そう、君が自分のことを僕と言い出しているのも誰かの介入を受けた可能性を表している」

「えっ!」

「実際に君はあの点滴を着けていなかった。君が目覚めるまでに点滴は腕につけられているよう指示をしたはずなのにだ。つまり、私たちと君以外に、この夢のなかで自由に動けるものがいるということだ。それに、点滴が君から記憶を奪う効果があることを知っているものだ。実に緊急事態だ」

 そういって男は僕の目の前に黒のカプセル状の薬をだす。

「これを飲めば、私が夢を改変する前、つまり、すべての記憶を思い出すことができます。そのあと、私が君を殺してすべて元通りになる。君は君の望む夢の中へ、私たちは夢から追い出され、侵略者から逃れることが出来きます」

 そういい、男は薬を持っている反対の手でナイフを取り出し、僕の右腕のロープを切る。

「強制はしない、私は拷問は得意ではないからね」

 そういって、男は薬を僕の右手へ。

「僕の望む、本当の夢?」

「飲むだけでいい。勝手に改変してしまい、申し訳ない。」

 わからないが、僕の望むの夢というものに、すごく魅了された。というより、ずっとこの瞬間を待ち望んでいたような。

 もう今の僕には、ニワタリ達の存在も、化け物を退治するということも意識の中にはなかった。

 そして、僕は、薬を飲んだ。水で流し込みたいという要求は、のどを通り過ぎる前に僕の意識と一緒に消えた。















 目の前に僕がいた。部屋の隅で僕は立っているが、目の前のベットにも僕がいる。

 病室のベットで頭側を上げているため、僕の顔色がいかに悪いのかを見ることが出来た。

 見ての通り、衰弱しきっており、手はがりがり。

 ネームプレートが壁に貼ってある。

「大崎 亮太」

 そうだこれだ。僕は亮太だ・・・・・・。

 横には僕の母だろうか。なにやら話をしている。

「今度から、違う病棟に行くんだって・・・・・・準備、しないとね」

「あぁ、そうかやっぱり治らないんだね」

 母は目に涙をこらえつつ、言う

「まだ、こんなにも会話ができるのにね」

「仕方ないよ。誰も悪くないんだって、看護師さんもいってたし、泣かないでよ。がんばるからさ」

「うっうう・・・・・・」

 母は泣く。 そうだ、この後に。

「すみません、亮太君の見舞いに来ました」

 そこに現れた女の子、ああぁ環奈だ・・・・・・。なんでこんな大切な人のことを忘れていたのか。

「あっごめんね環奈ちゃん。席外すね。あほほ・・・・・・」

 そういって鼻をすすりながら母は部屋から出ていく。

「ねえ、今度外出できる機会があったらね行きたい場所とかない? バイトの給料上がったんだ~」

「へぇ・・・・・・」

「友達がね~」

 僕は相づちを打っている。 見ている僕も馬鹿みたいに泣きながら相づちを打っている。

「環奈・・・・・・環奈・・・・・・ごめんなぁ」

 僕はこのあとの出来ことを知っている。

「いい加減にしてくれよ・・・・・・もううんざりだ」

「えっ?」

 おい、亮太しっかり彼女の話を聞け、いらいらするんじゃない、誰も悪くないといったのは自分じゃないか。やめろやめろ・・・・・・

「毎日毎日、なんで来てるの?もう死ぬんだよ。僕は、末期なんだ」

「・・・・・・」

 彼女の口が止まる。

「口が元気なうちに言っとくけど、もう君のことなんかどうでもよくなってるんだ。好きじゃないってことさ。自分のことでもう精一杯なんだ・・・・・・だからもう来ないでくれ」

「なんで・・・・・・意地でも来るよ、私亮太君のこと大好きだし・・・・・・」

「それが、僕にはつらいんだ! 分かれよ! 恋人ごっこにはうんざり!君もそうだろ!僕が死んだあとに付き合う相手とか決まってるんじゃねえの! いや、今すでにいるのかもな」

「そんなことない!」

 あぁ、最悪だ。何してるんだ僕。

 僕は二人の喧嘩をただ見ているだけだった。というかこれは過去に起こったこと、変わることは無い。

 数分後、彼女は泣きながら部屋を出ていった。

 ベット上にいる僕は咳をしながら泣いていた。まったく僕っていう人は・・・・・・。

 その後も僕の記憶は少しずつ戻っていき、ついに僕の運命が夢に囚われた日へ。

 完全な個室、向かいに居たじいさんも、大学のサークル友達の手紙でいっぱいだったにぎやかな机もない。もちろん、彼女もあの日以来来ていない。

 僕は一人だった。家族は夕ご飯を買いに外へ。

 何も聞こえない、ただ息を吸う音だけ。

 そこへ、黒い影が窓から這い寄ってくる。

 そのときの僕は、死神って本当にいるのだと思ったんだっけ。

 驚く力も、呼ぶ力もなかった。

 じっとしていると影がぼつぼつとしゃべる。

「コウカイシテイルコト ヤリタイコト ノゾメバ スベテ カナエラレル」

 影の声はスゥッと僕の中に入ってくる。

 僕が後悔していること、それは彼女ともっと過ごしたかったということ。

「ワカッタ ココニ チ ヲ」

 俺は細くなった指を、影が持っている黒い紙のようなものに近づける。















「そこまでだ!動くなよ!」



 僕は目を覚ます。今の声はニワタリだ。顔を上げるとニワタリが右手にリボルバーを持ち、あの男に向けている。

 あの男は両腕を挙げる。

「これは、これは。ニワタリさん・・・・・・でしたっけ」

「おうよ、まさかあんたが直接彼を捕まえに動いてくるとはな、予想外だったぜ」

「前回のこともありますからね・・・・・・警戒しますよ。それは」

 2人険悪なムードで話し合っている。

 ニワタリはこっちを見る。

「大丈夫か君、今こいつぶっ殺してそっちにいくからな」

「ふざけないでください、人間のあなたが私を殺したら、大問題ですよ。カシマとつるむあなたならご存じでしょう?」

「おい、おめえも人のこと言えねえじゃねえか! 病院にいる大勢の人を化け物に食わせてるだろ」

「ここは、現実ではありませんので問題ないです」

「こんのやろっ」

 ニワタリは銃を強く押し付け、男を床に押し倒す。

 そしてニワタリは男の足を銃で打ち抜く。

 バキューーン!

「いて」

 金属がうねる音。右足を打ち抜かれたというのに男の反応はとても薄かった。

 僕は思わず目をつぶる。

「そこを動くなよ」

 そういい、ニワタリは僕の所へ。

「亮太君いいんですか?」

 伏せている男は、足から血が出ているのにも関わらず、僕に話しかけた。

「彼らの目的は、この夢を壊すことです。つまり、あなたは目を覚ます。現実を見たでしょう。つらいでしょう? 今から戻ったとしてもいいことは何もないと思いますよ」

「うるさい、だまってな!」

 そういうと、ニワタリは懐に銃をしまい、左腕のロープをほどく。

「あなたが見ていた夢は、彼女と楽しく過ごす夢です。思い出したはずです。病気なんて関係ない、あなたが望む世界です。それでも現実に戻りますか?」

「えっ・・・・・・」

 僕は動揺する。あの夢は二度と見られない。そもそも、夢から覚めるとき、現実の僕はどうなっているんだ? 死んでいるのか?

「あいつの言うことなんて聞くなよ・・・・・・なっ!!」

 ニワタリは足のロープをほどくのを急に中断し、距離をとる。

「てめえ・・・・・・」

「彼の意思を尊重しましょう、ニワタリさん。簡単です。足のロープをほどくと、起爆するようになっています。亮太君が夢を見続けたい場合はそうしてください」

「夢を見続ける・・・・・・」

「くっ!」

 ニワタリは銃を取り出し、白銀に光る弾を込めようとする。

「いいんですか? 化け物は倒せたんですか?」

「おまえ、とことんいやなやつだな」

「よくいわれます」

 ニワタリも動けない様子。

 つまり僕が今後の運命を決める。僕が望む永遠の夢・・・・・・。だけど。

 どんな夢を見ていたのかを僕はもう一度振り返る。

 2人で一緒に海へ、山へ、遊園地へ。そして家族といっしょにご飯を食べ、結婚して。子どもが出来て、働いて、年をとって、結婚記念日を子どもに祝ってもらって、退職して・・・・・・これだけじゃない。何十回分もの人生を送り、何万通りの選択を繰り返した。



 だけど、彼女は本物ではないのだ。僕の作り上げた理想の彼女、世界、人生。ははっ、思い返すほどに、僕はただ現実から逃げ続けているだけなんだと思い知らされる。



 これは、僕の心の弱さが原因で起きたこと。だから・・・・・・



「すみません。僕にはもう夢はいりません。だって・・・・・・本物じゃないんだ。彼女と過ごす日々は楽しいけれど、繰り返すほど、僕は情けなくなるんだ・・・・・・。この僕の弱さが、悪いように利用された。だからもう・・・・・・終わりにします。現実の僕の余命が数日であろうと死んでいようと構いません」

 僕は二人の顔をみる、ニワタリは安堵し、あの男は精の抜けたような顔をしている。

「やっぱり、人間はわからないことが多いですね・・・・・・自分にとって都合のよいことばかりを求める生き物ではないのですねぇ・・・・・・やっぱりこの世界の住民は研究しがいがあります」

 そういってあの男はポケットから、起爆装置を取り出す。

「!」

「やめろ!」

 僕とニワタリは息をのんだ。

「ではみなさん。またどこかで」

 カチッ

 男が装置を握った瞬間、僕の足元の爆弾ではなく彼の頭がパーンと破裂した。

 あたりに血が飛び散る。

「くそっ!」

 ニワタリは、悔しがるしぐさをする。

 あの男は、死んだのか?

「ニワタリさん、あの人は・・・・・・?」

「さあな、頭ごと破裂したのは今回が初めてだけど、奴のことだ・・・・・・ただ死んだとは考えられない」

 もうあの男はもうピクリとも動かず、死体があるだけだ。

 ピロピロピロピロ~

 突然、ニワタリの懐からメロディーが流れる。

「んっ?」

 そう言い、右手にもった銃を懐にしまい、代わりに懐から右手で取り出したのは携帯電話。

 ガラケーだ。

 カチッと画面を開き、応答する。

「はい、もしもし。ん?そうか、倒せたのか。すまない。クラウはここで死んだよ。逃げられただけど、亮太君は無事だ」

 電話の内容からするに、もう一人の仲間が電話の相手だと考えられる。

「おう、わかった」

 そういい、ニワタリは電話を切り、懐へ携帯をしまう。そのまま懐から右手で銃を取り僕の方を向く。

「亮太君には感謝しないとね。夢から覚める選択をしてくれたんだ。ありがとう」

「とんでもないです。僕の弱さがこんな事件を起こしたのなら、むしろあなた方に感謝しないと」

「へへっそうかい」

 そういってニワタリは、リボルバーのシリンダーにさっき取り出していた白銀に光る弾を込めた。

「君を現実に戻す方法なんだけど、君の頭にこの弾を打ち込む必要があるんだ。この弾で打ち抜かれた人は夢のループから離脱することができる」

 そういって、カチカチとシリンダーを回し、カチリとハンマーを倒す。

「心の準備はいいかい?」

「えぇ、化け物に食われるのと比べたら・・・・・・全然平気です」

 そういって僕は背筋を伸ばす。

 楽しい夢だった。彼女との長い日々。もうこんな可能性もあったんだと思えるだけで十分だ。異世界人のせいで、大変なこともあったけど。

「ニワタリさん、ありがとうございました」

「おうよ」

 そういって、ニワタリはトリガーを引く。

 パキーーーンと耳がつぶれるほどの高い音と、眼がつぶれるぐらいの光。そして弾丸は僕の頭の中を通る。

 そして・・・・・・そして・・・・・・。

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