平行世界の人肉塔

白い黒子

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平行世界へのエレベーター再び

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  日が落ち、家の明かりがつき始めた頃。僕と帽子を被った彼女は目的もなく、夜道を歩きながら話をしていた。

「あの・・・・・・君はいったい?」

「わたしはただの案内人よ。誰かが平行世界へ行くための手順を踏んだときに仕事をする。いわゆるプログラムみたなものよ」

「へぇ・・・・・・」

 彼女は淡々と質問に答える。

 彼女は僕の前をすたすたと歩き、僕は彼女に置いていかれないようについていく。エレベーターの中で出会った時はよく彼女を観察できていなかったが、今はよく分かる。身長は僕より低く、見た目もかなり幼い印象だ。年齢は・・・・・・聞かなくてもいいことだ。

「きっ君は、どうして僕が見えるの?もしかして、君のいう・・・・・・プログラムに僕はなっちゃったってこと?」

「ええ、かなりそれに近い存在よ。私の経験上、このままここにいれば、あなたは自然消滅するわ」

「自然消滅!?」

 彼女は振り返らずに話しを加える。

「今、あなたは世界の狭間にいるのよ。あなたにわかりやすくいうなら、ネットでサイトを開こうとしたけど読み込みが進まなくて、真っ白な画面にいるみたいな感じね」

「う~ん、わかったような・・・・・・わからないような」

「別に、わからなくてもいいわよ。どうせ、あなたは助かるんだから」

「えっ?」

 助かる?この状況から?

「いったい・・・・・・どうやって?」

「今からあなたを、あの世界に送るわ。だって、今のあなたじゃエレベーターのボタン押せないでしょ?あっちに取り残した体に戻って、またこの世界に戻ってくるっていう筋かきよ」

「ちょっ!ちょっと、待ってよ!またあの世界に行かないといけないの!?せっかく帰ってこれたのに!」

 僕は、足を止める。彼女も足を止め、振り返る。

「それじゃぁ、ここで消えていくのを待つだけよ。あなたは私と違って肉体がない。いずれ記憶が曖昧になって、消えるわ」

 帽子の下から鋭い眼光で、彼女は言う。

「でも・・・・・・また危険な目に」

「ええ、その通り。でも、あなたは頑張るわ。そして成功するの。この世界に帰ってくるわ」

「どうして、そんなことがわかるの?」

 彼女は再び前を向き、さっきよりはゆっくりとしたスピードで歩く。僕もまた歩き始める。犬を連れた男性が前から歩いてきたが、僕たち二人の様子はやっぱり見えていないようだ。

「私は、どの時間、どの場所にも同時に存在しているわ。今こうしている間も、明日のあなたと会う私、向こうの世界であなたを叱る私は今の私と繋がっている。まぁ、時間という概念に縛られているあなたたちには永遠に理解されないでしょうね。だから、この先あなたがどうなるのかも知っているわ」

「頭が、こんがらがってきたよ・・・・・・じゃあ、どうやって体を取り戻して、この世界に戻るのか方法を教えて欲しい」

「うーん。どうやら、未来の私はあなたに方法を伝えてなかったみたいだから、教えられないわ。でもヒントなら・・・・・・」

「ええっ!」

 僕は、彼女を追い越し、彼女の目の前に立ちふさがる。

「どうして?!方法を教えた方が確実じゃないか!なにもできないまま、フォルネウスに殺されるかもしれないのに!」

 彼女ははぁっと息をはき、帽子をくいっと上げ、つま先立ちで腰に両手を当て胸を張り、僕の顔にズイッと近づいて怒鳴る。

「あほね!あなたがこの世界に体と一緒に帰ってこれた要因の一つに、方法を伝えられなかったことが含まれているのよ!その未来が確定してるのに、それを変えてまで伝えるメリットは一切ないわ!」

「でも不安じゃないか!もし失敗したら?」

「だからヒントならあげるって言ってるじゃない!」

「あっ・・・・・・はい」

 彼女は、ふんっといい、浮かしていたかかとをおろす。

「とにかく、手遅れになるまえに、あなたをあっちの世界に連れて行くわ。ヒントはエレベーターに乗った時に話す。足を止めている時間がもったいないからさっさと歩くわよ」

 彼女は僕の横を勢いよく通り過ぎる。また僕は置いていかれないように彼女についていった。




 そして何度かお世話になった西山先輩のマンションに着く。このあたりで10階以上の建物かつ人通りが少ないという条件を満たすのはやはり、彼女からしてもここしかないのだろう。あの日、7日にここへきて、彼女に出会い、僕の悪夢が始まった。ネットカフェで寝たことも思い出した。日付のことも・・・・・・あっ。

「そうだ。質問なんだけど、なんで僕は、一度過去に戻ったの?7日の夜に出発して、着いたら2日の夜。約5日だ」

 上から降りてくるエレベーターを待つ間、前から持っていた疑問を彼女に問う。 

「肉体を持ったまま世界を移動するには多少の時間のズレを生むのよ。例えるならば、向こう岸めがけて流れのはやい川を泳いでいくようなものね。自分では真っすぐ進んでいるつもりでも、気づけば自分が目指していた場所からかなりズレたところにつくって感じね。どれぐらいズレるかは、その人の体形に影響するから予測は難しいわ」

「なるほど・・・・・・」

 今のたとえは僕にも分かりやすかった。

「普段の時間を前に進むと表現するならば、あなたは5日分後ろにズレるみたいね」

 彼女は珍しく僕の顔を見ながらそのセリフを言った。

「じゃあ、今の僕がエレベーターの時に比べて時間のズレが少なく移動できたのは、肉体を持ってこなかったからか。でも・・・・・・どうして僕は精神だけ帰って来たんだろう?」

「あなた、『飽きた』という方法を試したでしょ?あれは、他の世界に自分を認識してもらう行為なの。望む世界を書いていれば、その望む条件に合った世界に行き来できるようになるっていう仕組みよ。簡単に言えば、自分の体と他の世界に穴をあける感じね。だけど、行くには軽い気持ちではなく、本当に心から信じなければ、ワープすることはできないわ。だから、あなたはこっちから金髪・・・・・・エルフのいる世界には行けなかった」

「あっ、知ってるんだ、めっちゃ恥ずかし・・・・・・」

「逆に、心からその世界に行きたいという思いさえあれば、穴が開いている間、だれでもその穴を通ることはできるわ。条件は無意識状態であることと、移動先に自分と同じ肉体、または存在がないことね。あなたはこの世界に帰ってくることが出来たけど、残念ながら、あなたの存在はこの世界にまだあるし、精神がはいるスペースもなかった。だからあなたの精神だけがこっちにきた」

 チーン。エレベーターが1階につく。
 
「あくまで考察だわ、私にだってわからないこともある」

 二人はエレベーターに乗り込み、4階のボタンを押した。彼女はかなり手馴れている様子で、4階へ出発したのを確認すると、すぐに2階のボタンを押した。なるほど、それなら時間の短縮になっていいかもしれない、今度真似しよう。二度とする機会は来ないと思うが。

 4階につく。そして同じようにボタンを押し、数分後2階につく。

 運よく人はいない。

「さて、あなたにヒントをあげないとね」

「お願いするよ」

「よく聞いてね」

 彼女はカチッと6階のボタンを押し、出発したのを見たあと2階のボタンを押した。

「まず、フォルネウスは悪魔。そして鏡。全部あなたが行ったことよ」

「えっ?」

 チーン。6階につく。

「あっ!」

 目の前に、懐かしい顔があった。バイト先で店長と良くもめるけど、根はとても純粋で、愉快な僕の先輩だった。

「あと、あなたがこの世界に戻ってくるためにも、彼は重要よ」

「西山先輩が?」

 西山先輩が遠い昔に話していたことを思い出す。エレベーターに悪戯をしていたのは僕自身だったんだ。

 先輩は、キツネに化かされたような顔をしながら、え~と言いながら乗り込んでくる。先輩は僕の目の前まで進み、ボタンのパネルを押すためにクルリと回転する。

 あれ?っと呟き、ボタンが2階に点灯しているのを不気味そうに眺める。

「ふふっ、この人、行先の取り消し方法を知らないのね。不気味がって次の階で降りるわ」

「それって・・・・・・」

「ええ。数秒後の私がそれを見ているもの」

 その言葉通り、先輩は次の階で降りていってしまった。

「さぁ、続けましょ」

 そういって彼女は次の階のボタンを押す。

「本当は、あなたが最初にここへ来た時。実際にはあなたを平行世界に行かせないこともできたのよ。ううん、その時だけじゃない。もっと早くにあなたを見つけて、無理やり連れて帰ることも出来たの。あの悪魔たちに狙われている時だって。だけど、私は既に決められた運命を真っ当するだけ、運命が終点がハッピーエンドなら、私は心を鬼にするわ」

 二人を乗せた鉄籠はグゥンと上昇し始める。

「本当にごめんね。だけど、これはあなたの運命、誰かから任された使命だったのよ。そして、その行いはきっと誰かの為になる。未来がわからないって最高ね。きっと何をやっても楽しいのでしょうね・・・・・・。えっと、話が逸れたわ。残念だけど、私から言えるのはこれだけ、これ以上何か言えば運命が変わっちゃうから」

「うーん。まだ、何をしたらいいのかわからないけど・・・・・・運命、使命か」

 5階につき、扉が開く。もちろん誰も乗ってこないが、既に彼女はここにいる。ずっと僕を見守っていてくれた彼女が。

   そして、最後の操作。1階を押したのにも関わらず、エレベーターはガタンと揺れてから、勢いよく10階へ上り始める。

「10階の扉が開いた瞬間、あの悪趣味な塔がある世界に繋がるわ。あなたの精神は空っぽのあなたの肉体に戻るわ。頑張ってね・・・・・」

「わかった。本当にありがとう。えっと、名前聞いてなかったね」

「私はただのプログラムよ?名前なんてないわ。好きに呼んで」

「えぇ・・・・・・」

 正直なところ、あの世界へ再び行くのは気が引ける。だけど、これが僕の運命、誰かに任された使命と言われればそれに答えなければならない。未来がどうなるか分からないというのは恐怖を生み出す。だけど、それ故に楽しみもある。

 チーン。10階につく。

「えっと、案内人さん。行ってきます」

「行ってらっしゃーい」

 僕の行いはきっと誰かの為になる。それがわかるのはすぐかもしれないし、僕が死んでからかも知れない。僕がやったことで、なにが変わるかは想像出来ないけど、自分がやった行い、愚行に対してけじめをつけに行かなければ。

 
 エレベーターの扉は、僕の思いに反して、軽々と開き始めた。
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