8 / 10
勇者は笑顔を模る。
3
しおりを挟む
俺が二十四歳になった頃。
魔王が復活したとの一報が入って、俺は正式に勇者になって。それから、俺たち三人の旅は始まった。
魔王が復活したとあれば当然『勇者御一行』にのしかかるプレッシャーはより重たいものになっていたが、三人だけでいる時間はそんなものを忘れていられると……他の二人が思ってくれているのかは分からないが、少なくとも俺は思っている。
俺たちは互いを名前で呼ぶ。
誰が言い出したわけでもなく、自然に名乗りあって、自然に名前で呼び合って。
そうして互いに敬うことも気を遣うこともなく、対等な立場として語り合った。
……きっと本当は、どちらも当たり前で普通のことだ。でもその普通のことが俺にとっては、酷く心地のいいもので。
この二人と出会えて、俺は初めて『勇者』で良かったと思えた。
そんな日々が二年程続いた頃、俺の命を狙う暗殺者《アサシン》が現れた。
強い魔獣に追われながらもその瞳に一切の恐れを見せないその少年を見て一目で刺客であることを察したが、それにしても彼には違和感があった。
武器を隠しているにしても実力があるにしても、魔獣に追われ続けることは恐怖を伴う筈なのだ。
なのに彼は怯えない。
それどころか俺たち三人に囲まれても、捕縛されても、その目には全く恐怖の色は滲まない。
自殺志願者のような目をして、なのに彼は「生きたい」という。
未来に、そして自身に何の希望も期待も抱いていないのに、彼はただ生きるために生きるのだと。全てを諦めた目で、誰かから言われた『いつか来る幸せ』を信じているのだと言う。
不自然で、ちぐはぐで、なのに彼はまっすぐ立っている。
それがぐちゃぐちゃの内面を隠して綺麗なフリをする自分よりよほど綺麗に見えたから、ここで死んでほしくなくて。そんな自分勝手なエゴに勇者の皮を被せて差し出した手を握った手のひらは、やはり小さかった。
魔王が復活したとの一報が入って、俺は正式に勇者になって。それから、俺たち三人の旅は始まった。
魔王が復活したとあれば当然『勇者御一行』にのしかかるプレッシャーはより重たいものになっていたが、三人だけでいる時間はそんなものを忘れていられると……他の二人が思ってくれているのかは分からないが、少なくとも俺は思っている。
俺たちは互いを名前で呼ぶ。
誰が言い出したわけでもなく、自然に名乗りあって、自然に名前で呼び合って。
そうして互いに敬うことも気を遣うこともなく、対等な立場として語り合った。
……きっと本当は、どちらも当たり前で普通のことだ。でもその普通のことが俺にとっては、酷く心地のいいもので。
この二人と出会えて、俺は初めて『勇者』で良かったと思えた。
そんな日々が二年程続いた頃、俺の命を狙う暗殺者《アサシン》が現れた。
強い魔獣に追われながらもその瞳に一切の恐れを見せないその少年を見て一目で刺客であることを察したが、それにしても彼には違和感があった。
武器を隠しているにしても実力があるにしても、魔獣に追われ続けることは恐怖を伴う筈なのだ。
なのに彼は怯えない。
それどころか俺たち三人に囲まれても、捕縛されても、その目には全く恐怖の色は滲まない。
自殺志願者のような目をして、なのに彼は「生きたい」という。
未来に、そして自身に何の希望も期待も抱いていないのに、彼はただ生きるために生きるのだと。全てを諦めた目で、誰かから言われた『いつか来る幸せ』を信じているのだと言う。
不自然で、ちぐはぐで、なのに彼はまっすぐ立っている。
それがぐちゃぐちゃの内面を隠して綺麗なフリをする自分よりよほど綺麗に見えたから、ここで死んでほしくなくて。そんな自分勝手なエゴに勇者の皮を被せて差し出した手を握った手のひらは、やはり小さかった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
アラフォー、勇者様溺愛旅~時々魔王も添えて~
草薙 紗々
ファンタジー
魔神に創造神を人質にとられ、敗北した勇者達は、魔神の奴隷として重労働させられる日々を送っていた…。
そんな彼らを救ったのは、青き星『地球』から『創造』の『力』をたずさえてやってきたアラフォー女子、創龍 晶。
窮地を救われた勇者達だったが、魔神に負けたことで世間からいわれようもない非難をあびる。
この物語は、チート能力を持ったアラフォー女子が、勇者を徹底的に守り、優しくし、甘やかす…。
そんな物語である…。
小説家になろう様でも連載中です。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる