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13・疲労
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ランディスは目をキラキラさせてわたしにアイラヴェントからの手紙を渡した。きっと恋文か何かだと思っているのだろう。
坊っちゃんの想像はひとつも合ってないと思うよ、うん。
「……では今読ませて頂きます」
わたしはもうランディスに突っ込む事を諦めて受け取った手紙を開いた。
ぶっきらぼうな字があのアイラヴェントそのままなのでつい笑みを浮かべてしまう。
手紙の内容としては、お兄さんにパーティーでクルーディスに会った事を伝えたら、何故か付き合ってると勘違いされた上、話も聞かずに兄として挨拶したいと手紙をすぐ送ってしまったのだそうだ。アイラヴェントの為に頑張ると張り切ってしまっていて自分では止められなかった。そっちで結構迷惑を掛けると思うので悪気はないから大目にみてやって欲しい、というものだった。
ふぅ、と息を吐いてランディスをみると何かを期待するような目をこちらに向けていた。
「あの、妹からは何と……」
「ランディス」
彼の言葉を途中で遮り少し強目に声を掛ける。
「まず、この手紙ですが本来であれば一番最初に渡すべきものですね。来訪時の手紙は先に渡せばその後の話も淀みなく進む事が多いです。自分の事ばかり考えているから大事な事も疎かになるのです」
「はっ……はい」
「そしてその手紙の内容は受け取った当人のもの。内容次第では話さない事もあります。相手が話す迄待ちなさい」
ランディスにひとつひとつ理解出来る様に話す。
「今もそうでしたが、あなたは思った事をすぐ口に出しますね。口を開く前に一度頭の中で整理してから話をする癖をつけた方がいいでしょう。考えなしの言葉はあなたの価値を下げる事に繋りますよ」
「……わかりました」
ランディスは全て心当たりがあるのでその言葉を重く受け止め俯いた。
「……この手紙はあなたの迂闊さで迷惑を掛ける事を謝罪する手紙です。優しい妹さんですね」
そう言うとその言葉にランディスはなんとも情けない顔でこちらを見上げる。
「なんと……」
「これから僕を師匠と呼びたいのであれば、今日言った事を忘れずに今後あなたの態度でみせて下さい」
「あ、ありがとうございます!師匠のお言葉胸に刻み付けます」
ランディスは涙を流して先程よりも更に深く、もうそのまま頭を床につけるんじゃないのと思う位に頭を下げた。
「師匠だけでなく妹にまで迷惑を掛けてしまいました。私はこれからもっと精進して師匠に認めてもらえる様に頑張りたいと思います!」
反省してるのはわかるんだけど大丈夫かしら?もう頭もいっぱいいっぱいなんじゃない?そんなランディス坊っちゃんにわたしが言えるのはこれしかないよ。
「……空回りしない様にして下さいね」
あ、そうだ。この間から気になっていた事があったんだ。
「そういえば、先日いただいたお手紙なんですが……」
「はいっ!あ、もしや何かおかしなところでもありましたでしょうか!?」
ランディスは真っ青になりわたしの言葉を待った。
「いや、そうではないのですが……ただランディスらしくないと思いまして……」
わたしがそう言うとランディスはほっとして顔色も少し良くなった。
「あれはですね、両親がもらった手紙を繋ぎ合わせて失礼の無いように文章を作ったものだったのですが……何か問題がありましたか?」
ランディスはおかしなところが無かった事に安堵してその真相を教えてくれたが、その言葉にわたしはがっくりと項垂れた。
あの手紙に感じていた恐ろしさを返せ!何だよそれ?半端に賢いのにとことんまで残念な坊っちゃんめ!
わたしはこの台風を何とか見送るとリビングのソファーに倒れこんだ。
見た目はあんなに出来る子っぽかったのになんなんだあれは!わたし頑張ったよね!クルーディス偉かった!自分で自分を誉めてあげるよ!
「お疲れ様でございます」
シュラフは疲れたわたしに新しいお茶を淹れてくれる。もう身体を起こす気にもならなくて、だらしない体勢のまま一口飲んだ。
「どっと疲れた……」
「お察しします。」
「もう!他人事だと思って!」
シュラフは軽くそう言うけどさ。こんなの洒落にもならない。
なんで急に人の事師匠扱いしてんのよ。中身は兎も角年下の子に師匠はないでしょ!しかもあの坊っちゃんは色々迂闊過ぎて突っ込むのも疲れるわ。あんなんで貴族社会でやっていけるの?
このままだとすぐ何処かの貴族に家ごと潰されちゃいそう。もう少し思慮深さを持ってくれたらいいのだけれど。
悶々と悩んでいたら視線を感じ、顔を上げるとシュラフがこちらに笑顔を向けていた。
「何か言いたい事あるんなら優し目に言ってよ。僕もう気力体力ないんだからね」
「では『お師匠様』は今後ランディス様とはどういうお付き合いをなさっていこうと思ってますか?」
「……全然優しくない。」
なんだよ『お師匠様』って!嫌がらせかっ!ここで笑顔でそんな事を言うシュラフって絶対Sだよね。哀しいかなこんな扱い慣れてしまってるけれど。
ランディスに関しては本音を言うと関わり合いたくないんだけれど、向こうにはアイラヴェントがいる。彼女と接点を持ちたいのならばどうしたって関わらなければいけない人物だった。
「うー。シュラフもランディスもめんどう……」
「クルーディス様本音漏れてますよ」
「シュラフしかいないしいーじゃん……」
もう考えるのも面倒になってきてそのまま寝てしまいそうになる。疲れもピークだし、段々うとうとしてきたし。このまま寝たら気持ち良く夢の国に行けそう……。
「さぁ!寝る前にお手紙のお返事を書いて下さいませクルーディス様」
「うわっ!」
耳元で柏手の如くパン!と大きな音を立てられわたしは驚いてソファーから転げ落ちてしまった。
「ひどい!腰打った!もっと優しい起こし方あるはずだよね!?」
「優しいではないですか。目も覚めましたでしょう?」
そう言われればそうかもしれないけど何だか腑に落ちない。シュラフには一生敵わない気がするなぁ。
後回しにしたかったアイラヴェントへの手紙を、シュラフがいつの間にか用意していた便箋にしたためる事にした。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
坊っちゃんの想像はひとつも合ってないと思うよ、うん。
「……では今読ませて頂きます」
わたしはもうランディスに突っ込む事を諦めて受け取った手紙を開いた。
ぶっきらぼうな字があのアイラヴェントそのままなのでつい笑みを浮かべてしまう。
手紙の内容としては、お兄さんにパーティーでクルーディスに会った事を伝えたら、何故か付き合ってると勘違いされた上、話も聞かずに兄として挨拶したいと手紙をすぐ送ってしまったのだそうだ。アイラヴェントの為に頑張ると張り切ってしまっていて自分では止められなかった。そっちで結構迷惑を掛けると思うので悪気はないから大目にみてやって欲しい、というものだった。
ふぅ、と息を吐いてランディスをみると何かを期待するような目をこちらに向けていた。
「あの、妹からは何と……」
「ランディス」
彼の言葉を途中で遮り少し強目に声を掛ける。
「まず、この手紙ですが本来であれば一番最初に渡すべきものですね。来訪時の手紙は先に渡せばその後の話も淀みなく進む事が多いです。自分の事ばかり考えているから大事な事も疎かになるのです」
「はっ……はい」
「そしてその手紙の内容は受け取った当人のもの。内容次第では話さない事もあります。相手が話す迄待ちなさい」
ランディスにひとつひとつ理解出来る様に話す。
「今もそうでしたが、あなたは思った事をすぐ口に出しますね。口を開く前に一度頭の中で整理してから話をする癖をつけた方がいいでしょう。考えなしの言葉はあなたの価値を下げる事に繋りますよ」
「……わかりました」
ランディスは全て心当たりがあるのでその言葉を重く受け止め俯いた。
「……この手紙はあなたの迂闊さで迷惑を掛ける事を謝罪する手紙です。優しい妹さんですね」
そう言うとその言葉にランディスはなんとも情けない顔でこちらを見上げる。
「なんと……」
「これから僕を師匠と呼びたいのであれば、今日言った事を忘れずに今後あなたの態度でみせて下さい」
「あ、ありがとうございます!師匠のお言葉胸に刻み付けます」
ランディスは涙を流して先程よりも更に深く、もうそのまま頭を床につけるんじゃないのと思う位に頭を下げた。
「師匠だけでなく妹にまで迷惑を掛けてしまいました。私はこれからもっと精進して師匠に認めてもらえる様に頑張りたいと思います!」
反省してるのはわかるんだけど大丈夫かしら?もう頭もいっぱいいっぱいなんじゃない?そんなランディス坊っちゃんにわたしが言えるのはこれしかないよ。
「……空回りしない様にして下さいね」
あ、そうだ。この間から気になっていた事があったんだ。
「そういえば、先日いただいたお手紙なんですが……」
「はいっ!あ、もしや何かおかしなところでもありましたでしょうか!?」
ランディスは真っ青になりわたしの言葉を待った。
「いや、そうではないのですが……ただランディスらしくないと思いまして……」
わたしがそう言うとランディスはほっとして顔色も少し良くなった。
「あれはですね、両親がもらった手紙を繋ぎ合わせて失礼の無いように文章を作ったものだったのですが……何か問題がありましたか?」
ランディスはおかしなところが無かった事に安堵してその真相を教えてくれたが、その言葉にわたしはがっくりと項垂れた。
あの手紙に感じていた恐ろしさを返せ!何だよそれ?半端に賢いのにとことんまで残念な坊っちゃんめ!
わたしはこの台風を何とか見送るとリビングのソファーに倒れこんだ。
見た目はあんなに出来る子っぽかったのになんなんだあれは!わたし頑張ったよね!クルーディス偉かった!自分で自分を誉めてあげるよ!
「お疲れ様でございます」
シュラフは疲れたわたしに新しいお茶を淹れてくれる。もう身体を起こす気にもならなくて、だらしない体勢のまま一口飲んだ。
「どっと疲れた……」
「お察しします。」
「もう!他人事だと思って!」
シュラフは軽くそう言うけどさ。こんなの洒落にもならない。
なんで急に人の事師匠扱いしてんのよ。中身は兎も角年下の子に師匠はないでしょ!しかもあの坊っちゃんは色々迂闊過ぎて突っ込むのも疲れるわ。あんなんで貴族社会でやっていけるの?
このままだとすぐ何処かの貴族に家ごと潰されちゃいそう。もう少し思慮深さを持ってくれたらいいのだけれど。
悶々と悩んでいたら視線を感じ、顔を上げるとシュラフがこちらに笑顔を向けていた。
「何か言いたい事あるんなら優し目に言ってよ。僕もう気力体力ないんだからね」
「では『お師匠様』は今後ランディス様とはどういうお付き合いをなさっていこうと思ってますか?」
「……全然優しくない。」
なんだよ『お師匠様』って!嫌がらせかっ!ここで笑顔でそんな事を言うシュラフって絶対Sだよね。哀しいかなこんな扱い慣れてしまってるけれど。
ランディスに関しては本音を言うと関わり合いたくないんだけれど、向こうにはアイラヴェントがいる。彼女と接点を持ちたいのならばどうしたって関わらなければいけない人物だった。
「うー。シュラフもランディスもめんどう……」
「クルーディス様本音漏れてますよ」
「シュラフしかいないしいーじゃん……」
もう考えるのも面倒になってきてそのまま寝てしまいそうになる。疲れもピークだし、段々うとうとしてきたし。このまま寝たら気持ち良く夢の国に行けそう……。
「さぁ!寝る前にお手紙のお返事を書いて下さいませクルーディス様」
「うわっ!」
耳元で柏手の如くパン!と大きな音を立てられわたしは驚いてソファーから転げ落ちてしまった。
「ひどい!腰打った!もっと優しい起こし方あるはずだよね!?」
「優しいではないですか。目も覚めましたでしょう?」
そう言われればそうかもしれないけど何だか腑に落ちない。シュラフには一生敵わない気がするなぁ。
後回しにしたかったアイラヴェントへの手紙を、シュラフがいつの間にか用意していた便箋にしたためる事にした。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
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