わたしの可愛い悪役令嬢

くん

文字の大きさ
上 下
13 / 78

13・疲労

しおりを挟む
 ランディスは目をキラキラさせてわたしにアイラヴェントからの手紙を渡した。きっと恋文か何かだと思っているのだろう。
 坊っちゃんの想像はひとつも合ってないと思うよ、うん。


「……では今読ませて頂きます」


 わたしはもうランディスに突っ込む事を諦めて受け取った手紙を開いた。
 ぶっきらぼうな字があのアイラヴェントそのままなのでつい笑みを浮かべてしまう。


 手紙の内容としては、お兄さんにパーティーでクルーディスに会った事を伝えたら、何故か付き合ってると勘違いされた上、話も聞かずに兄として挨拶したいと手紙をすぐ送ってしまったのだそうだ。アイラヴェントの為に頑張ると張り切ってしまっていて自分では止められなかった。そっちで結構迷惑を掛けると思うので悪気はないから大目にみてやって欲しい、というものだった。



 ふぅ、と息を吐いてランディスをみると何かを期待するような目をこちらに向けていた。
「あの、妹からは何と……」
「ランディス」
 彼の言葉を途中で遮り少し強目に声を掛ける。
「まず、この手紙ですが本来であれば一番最初に渡すべきものですね。来訪時の手紙は先に渡せばその後の話も淀みなく進む事が多いです。自分の事ばかり考えているから大事な事も疎かになるのです」
「はっ……はい」
「そしてその手紙の内容は受け取った当人のもの。内容次第では話さない事もあります。相手が話す迄待ちなさい」
 ランディスにひとつひとつ理解出来る様に話す。
「今もそうでしたが、あなたは思った事をすぐ口に出しますね。口を開く前に一度頭の中で整理してから話をする癖をつけた方がいいでしょう。考えなしの言葉はあなたの価値を下げる事に繋りますよ」
「……わかりました」
 ランディスは全て心当たりがあるのでその言葉を重く受け止め俯いた。
「……この手紙はあなたの迂闊さで迷惑を掛ける事を謝罪する手紙です。優しい妹さんですね」
 そう言うとその言葉にランディスはなんとも情けない顔でこちらを見上げる。
「なんと……」
「これから僕を師匠と呼びたいのであれば、今日言った事を忘れずに今後あなたの態度でみせて下さい」
「あ、ありがとうございます!師匠のお言葉胸に刻み付けます」
 ランディスは涙を流して先程よりも更に深く、もうそのまま頭を床につけるんじゃないのと思う位に頭を下げた。
「師匠だけでなく妹にまで迷惑を掛けてしまいました。私はこれからもっと精進して師匠に認めてもらえる様に頑張りたいと思います!」
 反省してるのはわかるんだけど大丈夫かしら?もう頭もいっぱいいっぱいなんじゃない?そんなランディス坊っちゃんにわたしが言えるのはこれしかないよ。
「……空回りしない様にして下さいね」



 あ、そうだ。この間から気になっていた事があったんだ。
「そういえば、先日いただいたお手紙なんですが……」
「はいっ!あ、もしや何かおかしなところでもありましたでしょうか!?」
 ランディスは真っ青になりわたしの言葉を待った。
「いや、そうではないのですが……ただランディスらしくないと思いまして……」
 わたしがそう言うとランディスはほっとして顔色も少し良くなった。
「あれはですね、両親がもらった手紙を繋ぎ合わせて失礼の無いように文章を作ったものだったのですが……何か問題がありましたか?」
 ランディスはおかしなところが無かった事に安堵してその真相を教えてくれたが、その言葉にわたしはがっくりと項垂れた。
 あの手紙に感じていた恐ろしさを返せ!何だよそれ?半端に賢いのにとことんまで残念な坊っちゃんめ!





 わたしはこの台風を何とか見送るとリビングのソファーに倒れこんだ。


 見た目はあんなに出来る子っぽかったのになんなんだあれは!わたし頑張ったよね!クルーディス偉かった!自分で自分を誉めてあげるよ!


「お疲れ様でございます」
 シュラフは疲れたわたしに新しいお茶を淹れてくれる。もう身体を起こす気にもならなくて、だらしない体勢のまま一口飲んだ。
「どっと疲れた……」
「お察しします。」
「もう!他人事だと思って!」
 シュラフは軽くそう言うけどさ。こんなの洒落にもならない。
 なんで急に人の事師匠扱いしてんのよ。中身は兎も角年下の子に師匠はないでしょ!しかもあの坊っちゃんは色々迂闊過ぎて突っ込むのも疲れるわ。あんなんで貴族社会でやっていけるの?
 このままだとすぐ何処かの貴族に家ごと潰されちゃいそう。もう少し思慮深さを持ってくれたらいいのだけれど。
 悶々と悩んでいたら視線を感じ、顔を上げるとシュラフがこちらに笑顔を向けていた。


「何か言いたい事あるんなら優し目に言ってよ。僕もう気力体力ないんだからね」
「では『お師匠様』は今後ランディス様とはどういうお付き合いをなさっていこうと思ってますか?」
「……全然優しくない。」
 なんだよ『お師匠様』って!嫌がらせかっ!ここで笑顔でそんな事を言うシュラフって絶対Sだよね。哀しいかなこんな扱い慣れてしまってるけれど。

 ランディスに関しては本音を言うと関わり合いたくないんだけれど、向こうにはアイラヴェントがいる。彼女と接点を持ちたいのならばどうしたって関わらなければいけない人物だった。
「うー。シュラフもランディスもめんどう……」
「クルーディス様本音漏れてますよ」
「シュラフしかいないしいーじゃん……」
 もう考えるのも面倒になってきてそのまま寝てしまいそうになる。疲れもピークだし、段々うとうとしてきたし。このまま寝たら気持ち良く夢の国に行けそう……。

「さぁ!寝る前にお手紙のお返事を書いて下さいませクルーディス様」
「うわっ!」
 耳元で柏手の如くパン!と大きな音を立てられわたしは驚いてソファーから転げ落ちてしまった。
「ひどい!腰打った!もっと優しい起こし方あるはずだよね!?」
「優しいではないですか。目も覚めましたでしょう?」
 そう言われればそうかもしれないけど何だか腑に落ちない。シュラフには一生敵わない気がするなぁ。


 後回しにしたかったアイラヴェントへの手紙を、シュラフがいつの間にか用意していた便箋にしたためる事にした。







◆ ◆ ◆

読んでいただきましてありがとうございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...