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もう1人の勇者?!

ウート族の村

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街に向かう途中に私達はシグルドのことを沢山聞いた。
年齢は23歳。身長は157センチ。体重は教えてくれなかったが細身だ。
金髪を三つ編みにしていて一見地味に見えるが、よく見るとかなりの美人だ。
旅を始めたのはつい最近のことで、まだ一緒に旅をする仲間はいないということだった。

大戦士ムーアの故郷が出身地で、ムーアの家系の者は1200年前から代々、いつ龍神族が復活してもいいように、幼少期から剣と魔法の厳しい修行をうけるのだという。

確かに先ほどの野盗を追い払った剣さばきはなかなかのものだった。
しかしあれは本気ではなかった。
クリスは勇者としての彼女の実力に興味が湧いていた。

「着いたわ!」
街の入り口に着くとシグルドがはしゃいだ。
旅を始めてからは野宿ばかりで、久々に街で休めると大喜びしていた。

宿を探して私達はしばらく街を歩いてまわった。
街というよりは集落に近い。
人数も多く、敷地も広いが、文明はあまり発達していないように感じた。

「この街はずいぶんと大きい人たちが多いのね」
マオさんが私に聞いた。

「この街はウート族という巨人族の街なんです。巨人といっても神話などに出てくるようなとてつもなく大きな種族ではなく、平均身長は2メートル50センチほどですけどね」

クリスはジークとマオに分かりやすいよう説明した。

「へぇー」

「ウート族は1200年前の大戦では人間の連合軍に加勢していて、かなり大きな戦力として重宝されていたようです」

「たしかに見るだけで、かなり戦力になりそうなのが分かるわね。みんな筋肉ムキムキじゃない。女性も…」
シグルドは呆気に取られたような表情で言った。

「ウート族では、より強靭な筋肉が美とされていて、男性も女性もかなり筋トレをするようですよ」

「そんな筋トレ漬けの毎日とか、地獄だな……」
ジークがぼそりと言った。

なんとか宿が見つかり、私達は部屋に入った。
シグルドとマオさんが同じ部屋で、ジークと私とリガンが同じ部屋だ。

ベッドはウート族用に作られているのか、1つ1つがとてつもなく大きかった。
ジークは大喜びしてベッドに飛び込みゴロゴロしていた。

「ジークはシグルドのことどう思いますか?」

「ん?どうした?あいつに惚れたか?」

「ち、ち、違いますよ!
純粋に勇者としてどう思うかってきいたんです!」

「はははは。冗談だよ!
まだあったばかりだから何もわかんないよ。ただ勇者を名乗るだけあって、実力はかなりありそうだな」

「やっぱりそうなんですね。
それにしてもファルファーのこと、大戦士ムーアのこと。なんか訳がわからなくなってきましたね」

「んー?1200年前のことなんかどうでもいいさ。俺は俺。シグルドはシグルドだ。
誰の子孫だとか、昔に何があったかなんて関係ないさ」

ジークの考え方は楽でいいな。
クリスは羨ましく思えた。

しばらく休むと、日が沈み始めた。
私達は夕食を取ろうと、街に出た。
街を一周回ってみた。畑が多く様々な作物がなっている。ウート族は『大地の民』とも呼ばれていて、大地を神と崇拝しており、大地の恵みたる野菜を肉よりも重宝している。
それ故にウート族は農家をしている人が多いという。
この日はウート族の郷土料理が出てくるお店にした。
色とりどりの新鮮な野菜がたっぷりのコース料理。
味はとても美味しいが、量が多すぎて私達は全員限界以上に食べさせられた。

夕食の帰り道、5人で歩いていると1人のおじさんが同じウート族の男に一方的に殴られている場面に遭遇した。

「これはいけないわ!止めないと!」
シグルドはすぐに駆け出し、殴っている男を止めた。

話を聞くと、殴られていたおじさんは多額の借金をしており、数年経ったにも関わらず1銭も返していないことが原因だった。
それでも暴力はいけないと、シグルドが諭しその場は収まった。

更に歩いていると、今度は地面に四つん這いになり何かを探している人が遠くに見えた。
シグルドはすぐにその場に駆けつけ、一緒に探し物をしてあげていた。

シグルドさんは困っている人を放っておけない性格なのだろう。
探し物も見つかり、シグルドが戻ってきた。

「正義の味方はご多忙なんだな」
ジークが皮肉交じりに言った。

「私は勇者なのよ。困っている人を助けるのは当然だわ」

「そんなことしてたら、人生何年あっても足りないし、自分の好きなことできないぞ?」

「生憎、私の好きなことはこうやって人を助けていくことなの。
ジークこそ、そんなにダラダラしてたら何もないまま年を取るわよ?」

「何もないってことは平和ってことだ。
それは願ったりかなったりだな」

この2人はどうにも馬が合わないようだ。
なにやら険悪な雰囲気が漂い始めた。

とはいえシグルドの行いも決して悪いことだとは思えない。
その日はそんな空気を抱えたまま、私達は宿へと戻った。
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