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承黒寺の乱

ヤオの最後

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ヤオは自分の負けを悟ったのか、ふと笑みを浮かべた。
先ほどまでの龍神族の狂気に取り憑かれた表情とはまるで違う。

「承黒寺の集よ。みんなはワシのようにはなるなよ!!」
ヤオが叫んだ。

「老師!!!」

四天王が倒れたヤオの元に駆けつけた。

「お主ら、まだワシを大僧正としてみてくれるのか…」

「どんなことがあろうとも、今まで老師から受けたご恩は本物です。私達にとって老師は親も同然です」

ジュウザが涙ながらに言った。

「すまんな…。そんなに思ってくれておるお主らを、わしは裏切った。
努力を忘れ、みなを裏切った者の末路はこんなんじゃ。お主らはこうはなるなよ…」

ヤオ老師も涙ながらに言った。

「老師!そんな最後の言葉みたいなのやめてください。怪我を治して、今回のことを反省して、また私達を導いてください」
ヨウゼンが言った。

「それは無理じゃの。
ワシは龍神族の力を得て、己の限界を超えた力を使ってきた。
それは体を必要以上に酷使してきた。
ワシの体は既にボロボロなのじゃ。
もう助かりはしない……。
龍神族なら治せるやもしれぬが…
しかしワシはもう龍神族の手下なんぞはやめる。
お主らなら龍神族の力なぞなくとも、ワシがおらずとも、ワシの目指した夢を叶えてくれると思えたからの」

「老師……」

「ヨウゼンよ。これから先はお主が大僧正となり、皆を導きなさい。
四天王では一番若いが、お主は他の四天王とは違う視点で拳法を学んできた。
隠れて身体能力強化以外の魔法を学んでいたことも知っておる。
今のリガン君とワシの戦いでわかったように、ワシら拳法家は接近戦でしか力を発揮できない。
その弱点を補い、お主がこれから新しい承黒寺拳法を作ってゆくのじゃ。」

「はい…。承知しました。
しかし、私にはどうすればいいのかが分かりません。魔法を学び、取り入れることは簡単です。
でも、それでは私達は魔法に頼り切ってしまい、拳法家としての誇りを忘れていってしまいそうで」

「そうじゃの……それならば」

ヤオは傷ついた体を無理やり起こし、立ち上がった。

しかしまともに立つこともままならない。

「四天王よ。ワシの体を支えてくれるか?」
その言葉に、四天王はヤオ老師の足と腰を抑え、倒れないように支えた。

「これはの、今さっきリガン君に負けて思いついた技じゃ。ワシら拳法がどうすれば中、遠距離攻撃に対応できるのかと。
龍神族の力に溺れていたワシでは思いつかなかった技じゃ。」

ヤオはゆっくりと息を吸い、それをまたゆっくりと吐き出した。

左手を前に出し、右の拳を引いた。
右正拳突きの構えだ。

「四天王よ!これがワシがお主に送る最後の技じゃ!!」

ヤオが正拳突きを放つと、エネルギーの塊のようなビームが飛び出し、遠方の巨岩にぶち当たった。
威力は凄まじく、巨岩は粉々に砕け散った。

「仙気功の応用じゃ。
今までは仙気功は相手の体内に送り、内部破壊を目的としていた。
その気をエネルギーとして凝縮し、放出するのじゃ。これをお主達で実戦で使えるレベルまで昇華させるのじゃ」

「老師……。やはりあなたは凄いお方です」
四天王はみな大粒の涙を流していた。

「ジークよ。お主には感謝しないといけないな。お主らのおかげで承黒寺は救われた。
ワシが龍神族の手下達と街に繰り出しておったら、承黒寺の評判は地に落ちていた。
しかし、ジークとマオさんがこの寺の中で止めてくれたことで、この不祥事はダンレンの街に知られることはない。
残された武僧達も今までと変わらずに生活をしてゆける。
そして何より、リガン君にワシを倒させた意味は大きい。
元々は最弱のモンスターでありながらも、ワシを倒す程に努力をしてきた。
ワシの弟子達はの、みんな心のどこかでワシを超えることが出来ないと思って、自身の成長に蓋をしてきていたように見える。
だが、今回の件で努力し、修練を積めば誰でも、どこまででも強くなれるのだと確信できたはずじゃ。
その為にわざわざリガン君とワシを戦わせたのじゃろう?」

「ふん。ただ疲れて休みたかっただけだよ。
リガンがダメなら次はクリスにやらせるつもりだった」

ジークは耳を小指でほじりながら答えた。

「ぶはは……。そう照れるな。
龍神族の畜生として一生を終えるつもりだったが、お主のおかげで本物の家族達に囲まれて最後を迎えることが出来た…。
本当に感謝しておる…。
龍神族より先にジーク、お主に出会いたかった……ぞ……」

そう言うとヤオ老師はゆっくりと目を閉じた。そして体の力は抜け、両手はダラリと垂れ下がった。

ヤオ老師は四天王に支えられ、立ったまま笑顔でその生涯を終えたのだった。
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