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トワイザラン〜トゥラン山

トワイザランの変貌

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私達はルクスとアーブルグの村
『ルクスブルグ』と新しく名付けられた村を後にした。

それから数日の旅で、私達はようやくトワイザラン王国の領地へとたどり着いた。

懐かしい風景だ。
トワイザラン王国はとても巨大な領地を持っていて、その領地内には多くの町や村が存在している。
領地内の人口は約2億人とも言われている。
私達の王国の騎士団達は王宮の護衛だけでなく、各地に点在する領地内の町や村にモンスターが現れたり、事件が起こった時に遠征をして、国民を護る役割も持っていた。

領地内に入ってから2日。
私達はトワイザラン王国の城下町に到着した。
今日はみんなで、私の家に泊まって、明日に王宮に挨拶に行き、祈りの間を見せてもらおうということになった。

「クリス!お前の家すごいな!お金持ちだったのか!?部屋は何個もあるし、庭は何百人も入れそうなぐらい広いし、執事やメイドさんまでいるぞ!!」
リガンが驚いている。

「ははは。
一応この王国の騎士団の騎士団長をしてますからね。お給料はそれなりに貰ってましたよ」

「1人で住んでるのか?」
リガンが続けて聞いてきた。

「えぇ。父は昔に王宮の魔法研究の事故で亡くなってますし、母は病気で2年前に亡くなり、今は私と使用人達だけで生活をしています」

「そうだったのね。
まぁ今日は久々の故郷ですし、うちらは家で休ませてもらうけど、もし懐かしい友達とかと会ったりしたければ、好きに行動していいからね?」
マオさんが言った。

私はマオさんの言葉に甘え、久々に騎士団学校の同級生達と飲みに行った。

騎士団学校時代の話
あの頃に語った夢の話
今のみんなの現状
トワイザランの最近の動向

そんな話をしているとすぐに夜も更けていった。
友達と別れてほろ酔いで、ひんやりした夜風を受けながら家に帰っていた。
最近はずっと、修行と戦いの連続だった。
たまにはこうやって、故郷でのんびりするのはとても心が休まる。

きっと、ジークやマオさんも早く故郷に帰ってゆっくりと休みたいのだろうな。
そう思った。



翌日、私達は11時に王宮に行く予定だった。
しかし私は久々に騎士団達の訓練の状況を見たく、9時に王宮の訓練所に足を運んだ。

その訓練の光景を見て、私は驚愕した。
なんだこれは……!
騎士達は実戦形式の木刀の稽古をしていたのだが、騎士達全員が信じられない程レベルアップしている。
一般兵ですら、かつてトワイザランにいた頃の私にはまだ届かないまでも、かなりの急成長をしている。

「がははは。どーだ 久々のトワイザランは?」

この下品な声は。
後ろを振り向くと土の騎士団のレビンが立っていた。
「どうだ!?かなりみんな強くなっているだろう?
前回の龍神族の手下の襲撃で何も出来なかったことを恥じて、全員が危機感を持って訓練をしているんだ」

「凄い!!
だけど この短期間でこんなにも強くなれるものなんですか」

私もジーク達の旅に同行し、かなりの修行を積んで急成長してきた。
しかし騎士団の団員達は私を遥かに上回る速度で成長していた。

「クリストファー。久々に手合わせしないか?」
レビンが言った。

願ってもない機会だ。
私がこの旅でどれだけ強くなったか。
もうレビンすら追い越したということを証明するんだ。

試合が始まり、私はすぐにレビンに木刀を振るった。それをレビンは躱して後ろに回り込みクリスに斬りかかるが、クリスは背後に木刀を回して防いだ。

「何!?」
背後からの攻撃を完璧に防がれレビンが驚いている。
ジークさん達の修行の成果だ。
背後に回られても気配で感じ取れる。

その後は私が激しく攻め込み、レビンは防戦一方となった。

勝てる!!!

そう確信を持った時、レビンがニヤリと笑った。

「クリストファー。かなり強くなったな。
だが所詮その程度じゃ、今の俺には勝てないぜ」
レビンはそういうと、今までよりも速く 強く剣を打ち込んできた。
スピードもパワーも打ち込むたびにどんどんとあがってゆく。

「くっ。そんな……ばかな」

ついに私はレビンの連撃についていけなくなり、木刀で何度も激しく打ち込まれ、膝をついた。

なんでレビンがこんなにも強くなってる。
私だってあんなに修行をしてきたのに…
何故 差が開いている!

あんなに厳しい修行を……
厳しい……
今までの修行を振り返る…。

が、よくよく考えたら殆どがぼーっとしている修行だった…。
やはりここに残った方が良かったのか?
クリスは一瞬後悔した。


「おぉーおー。クリス。派手にやられたなぁ」
訓練所の入り口を見るとジークが立っていた。

「おー!ジーク!久しぶりじゃねぇか!」
レビンはジークの元に駆け寄った。

「おっさん随分と強くなったじゃん」

「ふっ。まぁな」

「なぁ、おっさん。1つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「まさかトワイザランは龍神族と手を組んだのか??」

そのジークの発した言葉に訓練所全体が一瞬でピンと張りつめた空気になり静まった。

「ぐははははは」
レビンの下卑た笑い声が静寂を破る。

「まさかそんな訳はないさ。
そんなことを聞いてくるとは、私達の力に気づいたようだな?」

「ジーク。どういうことですか?」
私は訳が分からずに聞いた。

「こいつらは確かに強くなったが、自分達の力で強くなったわけじゃない。
龍神族が手下を強化してるのと同じ方法で騎士団全員を強化してるんだ」

龍神族と同じ方法!
そういうことだったのか!?
だから全員がこんなにもパワーアップを。

「がはははは。さすが勇者様だ。よく気づいたな。
前の龍神族の手下の襲撃を受けた際に、王宮魔道士達が龍神族の手下達に施されていた魔法を解析してな。俺たちも王宮からの魔力供給を受けて強化できる仕組みを作り上げたのだ!」

「そういうことか。てっきり龍神族の支配を受け入れたのかと思ったぞ」
ジークはニカリと笑った。

「俺たちは龍神族などに屈しはしないさ。
これだけの戦力があれば、いくら龍神族が攻めて来ようが全て蹴散らしてくれるわ」

「それは良かったな。
クリス。早いとこ祈りの間を見せてもらいにいこう」
ジークは不自然な程会話を早く切り上げて、私を連れて外に出た。

「ジークどうしたんですか?」

「この国なんかキナ臭ぇーんだ。
早いとこ用事済ませたら、とっとと出発するぞ」

「どういうことですか?」

「ただの直感だから詳しくは説明出来ないけど、何か腑に落ちないことが多い。この国何かある気がする」
珍しくジークは真剣な表情をしていた。

この時のジークの嫌な予感が将来、最悪の形で表面化するとは、この時は思ってもいなかった。
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