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騎士団長クリストファーの決意

クリストファーの決意

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龍神族の手下の襲撃を受けた翌日ジークと女魔王は再び王と謁見をしていた。

昨日の襲撃事件は解決したものの、怪我人は数えきれない程出たし、町の被害も甚大だ。

そんな中で王もまともな会話ができようはずもなく、謁見は翌日に持ち越されたのだ。

昨日の謁見と同じく王の間に家臣達が参列している。

「勇者と魔王よ。この度はお主達になんとお礼を言えばいいか。やはりあなた達は我が国の救世主だった」

王は玉座から腰をあげ深々と頭を下げた。

「いえいえ。国王様、うちらは一宿一飯の恩義を返したまでです。礼には及びませんよ」

王は玉座に腰を降ろすと話を続けた。

「やはり龍神族の力は脅威じゃ。配下の者少数の襲撃だけでもこれだけの被害を被った。それを軽々と退けたお2人には是非この王国に腰を据えてほしいのじゃが…」

「国王様。昨日も申し上げたように、私達は1日も早く帰る方法を探したいのです。この謁見の後にでもこの王国を出ようと思っています」

ジークが国王の願いをきっぱりと断った。

「そうか…それは残念じゃ。しかしこの国の恩人の願いじゃ。無下にもできん。この地のことは、やはりこの地の者で解決せねばならんのじゃな。昨日の教訓を元に騎士団の訓練をもっと実践的で質の高いものに切り替えていくよう、騎士団長たちと話し合いをしてゆくつもりじゃ」

「それでは私達は失礼致します」

ジークと女魔王はそのまま王の間を出て行った。

騎士団長として先ほど国王が申された通り、私自身の更なる向上と、騎士団全員の向上、そして王国を護るための整備をもっと整えていかなければいけない。

しかし、昨日から何をしていてもあの2人の背中が頭から離れない。

もっとあの2人の背中を追いかけていきたい。

「国王様!!!」

考えるより先に私は大きな声をあげていた。

王国は目を丸くしきょとんとした表情で私をみる。

「クリストファーよ。どうした?」

もう後戻りできない。

「国王様。私もあの2人の旅に同行させてください」

私の言葉に家臣達がざわめいた。

「ならぬぞクリストファーよ。昨日の襲撃において騎士団の強化は急務なのはわかったであろう!?騎士団長のお主が抜けては締まりがなくなる」

「国王様のおっしゃることは最もでございます。私がとてつもない我儘を言っていることもわかっております。しかしながら、昨日の戦いにおいて私は微塵の役にも立てませんでした。今の私がいても王国の役に立てるとは思えません。この国を出て、世界を知り、あの2人の側で旅をし、あの2人の強さを学び、この国に成長した私の力を持ち帰ることこそ、王国にとって一番貢献が出来る形だと思うのです。氷の騎士団は私が戻ってくるまでチリアがしっかりと守ってくれるでしょう。王国の守護も、私よりも強いサランさんとレビンさんがいてくれれば問題はないと思います」

言った。
言ってしまった。
騎士団長にあるまじき発言だ。
今は王国にとって大事な時期。
そこでこんなことを言っては、王の怒りを買い、打ち首にされてもおかしくはない。
だけど、自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。
たとえどんな処罰が下ろうとも。

永遠とも感じられるしばらくの沈黙の後、王が口を開いた。

「クリストファーよ‥‥行くがよい」

その一言に家臣達はまたざわめいた。

「お主は小さい頃からこの国に全てを捧げてきてくれた。物心つき始めた頃から王宮の騎士団訓練場に忍びこんでは、こっそりと剣術を学び、成長していくお主をみて、ワシはお主を我が子のように思っていた。そんな小さい頃からお主をみてきたが、お主が我儘をいう所など私は1度として見たことがなかった。
いつもこの国のことを優先して、自分のことは後回しにしてきた。
そんなお主の初めての我儘じゃ。聞いてやりたいと思うのが親心というもの。存分に世界を回ってきなさい。
その代わり誰よりも強くなって帰ってきなさい。龍神族よりも、あの2人よりも」

王の言葉に自然と涙がこぼれた。
なんと心の広い方なのだ。
今まで騎士団長として誇りを持って働いてきたが、今以上にこの国王に仕えたことを誇らしく思ったことはない。

「はい。必ずやあの2人を越えてみせます」

家臣達から拍手が起こった。
私は今日のこのことを一生忘れることはないだろう。
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