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7.神を喰らう影

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奈緒が黒い霧に包まれ、月詠 鏡夜に連れ去られた後、店内には異様な静寂が訪れていた。桐島は動けない自分に苛立ちながら、奈緒が消えた場所を見つめていた。
「奈緒…くそっ…!」
激しい悔しさに拳を握りしめた瞬間、彼の視線が床に落ちていた一枚の地図に留まった。
「なんだ…?」
桐島はその地図を拾い上げた。古びた紙には、何やら呪術的な模様と共に、奈緒が連れ去られた場所を示すような記号が描かれていた。月詠 鏡夜が意図的に残したのか、それとも…?
その時、桐島のスマホに着信を告げる音楽が流れた。桐島はすぐさまスマホを手に取った。着信の主は、静だ。
「静さん、すみません…奈緒が…」
「桐島さん、あなたのせいじゃないわ。山神様からはだいたいの事は聞いて把握しているから、それと奈緒の居場所はおおよその予想はついているから安心して。後はこちらで対処するから桐島さんはこの件から手を引きなさい。」
静の声には鋭い緊張感が宿っていた。
「手を引けって…、何を」「いいですね。」
静は一方的にそう告げ、無機質な機械音だけになった。
桐島さんはその場で立ち尽くし、手元の地図を握りしめた。


一方、奈緒は暗い部屋の中で目を覚ました。彼女の手足は縛られており、身動きが取れない。周囲には何もなく、ただ不気味な静寂が漂っていた。
「目が覚めたかしら、奈緒ちゃん?」
その声と共に、暗闇の中から月詠 鏡夜が姿を現した。妖艶な笑みを浮かべ、彼はゆっくりと奈緒に近づいてきた。
「あなた…何が目的なの?」
奈緒は厳しい声で問い詰めた。
鏡夜は微笑みながら、奈緒の髪を軽く撫でるような仕草をした。
「そんなに怖い顔しなぁいで。私たちの目的はね、山神様なのよ。あなたのご先祖、不知火家が守ってきた神。あの存在は、私たちにとってとても重要なの。」
「山神様…?」
奈緒は驚きつつ、鏡夜の言葉を飲み込んだ。
「そうよ、奈緒ちゃん。山神様は莫大な力を持っているわ。それを手に入れれば、私たちはさらに強大な力を得られるのよ。だから」
鏡夜の話を遮るように部屋の奥から刺すような冷気が流れてきた。鏡夜は肩をすくめ、手を軽く振ると、部屋の奥から二つの影がゆっくりと姿を現した。
「こちらは水無月 冥司(みなづき めいじ)様。この計画のく・ろ・ま・く。そして、そっちにいるのが夢幻 璃音(むげんりおん)ちゃん。彼女も、私たちの仲間。」
鏡夜は楽しげに二人を紹介した。
水無月 冥司は冷酷な眼差しで奈緒を見下ろした。彼の存在感は圧倒的だった。長身で痩身、黒い装束に包まれたその姿は、威圧感に満ちていた。
「こいつが、不知火家の孫か…?」
冥司は忌々しそうに奈緒を睨みつけた。その視線は、奈緒に対する憎悪に満ちていた。
「貴様、不知火家の者など、今すぐにでも始末してやりたいくらいだ。お前たちはずっと、私たち水無月家の進むべき道を阻んできた…その山神様の力でな。」
奈緒は冥司の言葉に戦慄を覚えた。彼の敵意はただの妬みや憎しみではなく、根深い怨念のようなものが渦巻いていた。
「山神様は、私たち水無月家のものだ。あの方の寵愛を受けているだけに飽き足らず、その力を押さえつけるなど…。」
冥司は目を光らせながら語ると、傍らにいた夢幻 璃音が口を開いた。彼女は幼い少女の姿だが、その瞳には狂気じみた光が宿っていた。
「冥司様ぁ、奈緒ちゃんってとぉおっても可愛いですね。りおんのおもちゃにしたいなぁ。すぐに壊れちゃいそうだけど…ふふふ。」
璃音は異様なほど楽しげに笑い、奈緒を見つめた。
「不知火家は長い間、山神様から私たちを退け押さえつけてきた…だが、もう終わりだ。不知火家の血筋も、山神様も、すべて私が手に入れる!」
冥司は狂気じみた声で宣言した。奈緒はその言葉に背筋が凍る思いを感じた。
「お前の存在は、私たち水無月家の新たな時代への糧になる。」
奈緒は冥司の言葉に動揺しつつも、強く言い返した。
「何を勝手なこと…!」
冥司は冷ややかに笑いながら、ゆっくりと奈緒に近づいた。
「その気丈な態度、いかにして崩れるか見物だな。」

その頃、桐島は、地図に記された場所へと急いでいた。その場所は不知火大社の近くに位置する廃神社だった。
「月詠鏡夜…ふざけたことをしやがって!。」
怒りをにじませる桐島の左目が赤く光る。
「貴様、静の忠告を忘れたのか。」
「忠告だぁ?そんなこと、知ったことか!俺はなバカが付くほどのお節介野郎なんだよ!それにこんな胸くそわりぃことを平然とする奴をのさばらせておけるかっ!」
桐島は拳を強く握りしめ、車をさらに加速させた。
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