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おっさん引退勧告を受ける
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「ブラウンさん、突然ですが貴方には引退していただきます。拒否された場合はハンター資格を剥奪いたします」
依頼を終えてハンターギルドに帰ってきた俺に突きつけられたのは、突然の引退勧告と受付穣サリーの小馬鹿にしたような笑顔だった。
最近入ってきたこの娘のふざけた対応にも呆れ果てていたことだし、もう我慢の限界だ。
相手は折角ギルドマスターの留守を狙って仕掛けて来てくれたんだ。その誘いに乗ってやろうじゃないか。
「解った、良いだろう」
俺は重厚な紫檀製のカウンターにハンター証を置くと、受付嬢が手を伸ばす前に、素早く愛用の剣をハンター証に突き立てて、そのままカウンターもろとも鍔元まで差し込み、ハンター証を真っ二つにした。
「この剣を抜けるやつが居たらくれてやる、じゃあな」
俺の行動に呆然としている受付嬢や周りのハンター達を無視して、俺はハンターギルドを出て行った。
俺がさした剣は、鍛冶の神の祝福があり、メンテフリーな上に切れない物がないという剣士なら垂涎の代物だ。
その一方で、剣に認められなければ絶対に使用できない。おそらく誰がやってもあの場から一ミリたりとも動かすことは出来ないだろう。
剣の波動はそのまま床を破って地を抉り、地脈まで切り裂いて土地を枯れさせていくに違いない。
俺ももう年だ。ちょうど命のやり取りも疲れてきていた。貯めた金で山でも買ってノンビリ過ごすことにするか。
振り向いて見た確りとした豪奢な造りのハンターギルドの建物は少し寂しそうに見えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ブラウンが去った後のギルドでは、皆がしばし呆然としていた。
最初に動きを見せたのはとある女性ハンターだった。彼女は顔を赤くして、ブラウンと同じようにハンター証をカウンターに叩きつけた。
「ブラウンがいなくなった以上、私もやめるわ。こんな所に居られない。止めなかった他のやつらも同罪さ!
ブラウンは抜きに出てギルドに貢献してきただろう、なのに理由も無く・・・許さないからな」
そう言って女性ハンターが出て行くと、そこにハンター達が我も我もと後に続き、半数ほどが出て去ってしまった。その後も、依頼を終えて戻ってきた者達がこの事実を知ると、同じように半数が辞めて行った。
後日ある新聞社が、去っていった者達に辞めた理由を取材したところ、紙面に掲載された理由は以下の通りであった。
1 ハンターギルド最強のブラウンを追い出すギルドなど信用できない。
2 自分が世話になったブラウンを追い出すようなギルドに従う理由がない。
3 ハンターギルドでなくても、冒険者ギルドやナイトギルドに行けば仕事はある。
冒険者ギルドは、ハンターのようにモンスターを専門的に狩ることはしないが、いわゆる雑用ギルドでモンスター討伐依頼も多少あるため、ハンター達にとっては入りやすいギルドである。
ナイトギルドは商人の護衛、盗賊の討伐をメインとした捕縛権のある半公務員的なギルドであり、どのギルドより罰則のキツイギルドである。盗賊討伐が出来るハンターにとっては入りやすいギルドである。
こうして、ハンターギルドはブラウンの解雇現場を実際見ていなかったハンターを含めて、実に全体の半数以上のハンターを失うことになった。
一方、それとは異なる動きを見せるハンターもいた。ブラウンがカウンターに刺した剣を自分の物にしようと必死に引き抜こうとする者であった。
この剣はかつて、伝説とまで言われるエンシェントドラゴンの鱗を、バターのように切り裂いたことがある。それこそ必死に引き抜こうとしたが、誰がやってもビクともしない。
その人間の中に、ブラウンに引退勧告を突きつけた受付嬢の彼氏である剣士も居た。実は今回の解雇劇はこの男が、剣と最強の座が欲しくて受付嬢と起こした騒ぎだったのである。
その事を知ったらほとんどの者が身の程知らずだと笑うだろう、しかもそれで最強の男を失ってしまったギルドはいい笑いものだ。
ブラウンの予想を超えて、剣の力で守られたカウンターの机は正に伝説の剣が刺さった岩のようになっていたのだ。そして机を壊そうとする者が居たことで地震が多発して、皆恐怖を覚え、剣に近づくものは徐々に居なくなって行った。
そして、去ることもせず、剣に群がることもなかった残りの者達は、不安を覚えながらもいつも通りを装っていた。いわゆる、事なかれ主義、風見鶏の者達である。
確かに現状、ギルドマスターが出張で居ない状態で判断も付かないし、ひょっとしたら、マスターがブラウンに頭を下げて連れ戻す可能性もあったからだ。
実はこの国のSSS級クラスの依頼は八割ブラウンがこなしていたし、何よりハンターギルドのSSS級はブラウンを含めて三人しかいない。
ギルドとしては気のせいであって欲しいが、最初に出て行った女性はそのSSS級だったような気がする。
その後SSS級全員脱退を確認しているが、ギルド自体は未確認としてそれを認めていない。
つまり、現実逃避である。
受付嬢はとても簡単に考えていた。このギルドは他のギルドよりも力が強く、ハンターギルドから追放されると、他のギルドでも登録が出来ず、モンスターの素材の買取もされない。
多くの引退したハンターは、買い取り価格が下がっても生活のために狩猟して素材を売りに来るし、ギルドマスター命令で元ギルド員は緊急依頼を受ける事が出来る。
しかもハンター以外した事の無い40過ぎのおじさんである。少し言いくるめて今まで通りの依頼を緊急依頼としてさせておけば問題が無いと思っていたし、独り身のおじさんだ貯蓄も無いから結局買い取り価格が安くても素材も売りに来るだろうと踏んでいたのだ。
しかし、現実は違った。ブラウンは引退後の手続きもせず、完全にギルドと縁を切る形で出て行ってしまった。
そして彼が欲しいと言っていた剣は、目の前に突き立てられてハンター達が醜い奪い合いをしている。
受付嬢はその中に彼の姿を見つけて、急激に何かが冷めていくのを感じていた。と同時に、後ろからの強烈な殺気に冷や汗が止まらない。この殺気は間違いなく先輩受付嬢のシェリーの物に違いない。
目が泳ぎ、喉が乾く。声も震えて出ない程の重圧がサリーにのしかかる。
お嬢様育ちのサリーには、ハンターの相手をこなしてきたシェリーの殺気を浴びる時間は正に地獄のようであった。
「サリー、今回の件、奥でジックリと話を聞きたいわ、この騒ぎの責任をどう取るのか、とかね」
サリーは、先輩である受付嬢からそう指摘される。
確かに受付の職員には現場をもっとも把握しているという理由から、C級までの昇格権限と引退をすすめる事は許されている。だが、今回はさすがにやりすぎた。
越権行為であるだけでなく、これだけの騒ぎになってしまったのだ。
しかもギルドマスターの兄の娘として大切に育てられすぎた故に、自分の考えが全て通ると考えていたが…現実は違いすぎた。
「え、あの先輩、私……」
「ちゃんと聞きますからね、因みにSSS級最強が出て行ってしまったの、解ってるわね?」
サリーは自分の中の何かが壊れていくのを、ハッキリと理解してしまった。
先輩にガッチリと肩をつかまれ、犯罪者用の取調室に連れて行かれるサリーの目は虚ろになっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ギルドマスターが出張先の王都から早馬でギルドに帰ってきたのは、ブラウンの騒動があった翌日のことだった。そして到着後まもなく、ギルドマスターは部下からの報告により、ハンター最強と呼ばれた男の引退と、彼の行方が解らなくなっている事を知ったのである。
「シェリー、この報告書は本当なのか……」
「はい、あまりのことに私たち職員も気が動転してしまい、対応が遅れてしまいました。それも災いして、最悪の結果に……」
「で? サリーと……ジェイク?だったか? あいつらはどうしている?」
「はい、二人の共謀と解った時点で地下牢に拘束しています」
ギルドマスターは目を閉じ、コメカミを揉み解すように指で押さえると、大きくため息を吐いた。
「ブラウンの行方を捜すと共に、他の脱退したSSS級ハンターの説得に動く。二人は国家反逆罪で国王の判断を仰ぐ」
サリーもジェイクも処刑されても仕方のない大罪を犯した。とはいえ、サリーの処分については自分の兄が動くだろうとギルドマスターは考えていた。
それは兄である辺境伯はサリーを目の中に入れても痛くないほど可愛がっていたし、ギルドマスターも初恋をこじらせて未だに忘れられない今は亡き義姉に瓜二つのサリーにどうしても甘くなってしまっていたため自分も後で減刑を求める書類を書くのだから兄も必ず行動に移すのはある意味決定事項だといえた。
それからというもの、ギルドマスターは、各ギルドに依頼してブラウンの行方を捜してもらいつつ、自身は出ていったSSS級ハンターに会いにいき、復帰をお願いして回った。
この街ステットのハンターギルドは世界最大規模だ。そのギルマスである自分が頭を下げながら復帰を乞うというのは屈辱というほかなかった。だが、ギルドの看板たるSSS級の復帰は絶対だったために耐え続けたのである。
しかしながら、ブラウンの行方はようとして知れず、他のSSS級にも復帰は固辞され、ハンターギルドの依頼達成数はみるみる激減していく一方だった。
ちなみに、本件の主犯であるジェイクは処刑となり、サリーには無給奉仕15年の刑が言い渡された。ギルドマスターの予想通り、サリーは処刑を免れたものの、刑期が終わるまで拘束の首輪を付けられ、職場でも針のむしろで過ごすことになる……。
いずれにしても、二人が安易に引き起こしたこの事件により、ハンターギルドは力も勢力も失墜し、挙げ句SSS級依頼は焦げ付き、王国の領土がモンスターに徐々に奪われて行った。
そして結果として、これまでSSS級依頼を一人でこなしていたブラウンの異常な実力がより際立つことになったのだった。
―――――――――――――――――――
たぬまるです
最強の男の改稿を始めました、これからもよろしくお願いします
依頼を終えてハンターギルドに帰ってきた俺に突きつけられたのは、突然の引退勧告と受付穣サリーの小馬鹿にしたような笑顔だった。
最近入ってきたこの娘のふざけた対応にも呆れ果てていたことだし、もう我慢の限界だ。
相手は折角ギルドマスターの留守を狙って仕掛けて来てくれたんだ。その誘いに乗ってやろうじゃないか。
「解った、良いだろう」
俺は重厚な紫檀製のカウンターにハンター証を置くと、受付嬢が手を伸ばす前に、素早く愛用の剣をハンター証に突き立てて、そのままカウンターもろとも鍔元まで差し込み、ハンター証を真っ二つにした。
「この剣を抜けるやつが居たらくれてやる、じゃあな」
俺の行動に呆然としている受付嬢や周りのハンター達を無視して、俺はハンターギルドを出て行った。
俺がさした剣は、鍛冶の神の祝福があり、メンテフリーな上に切れない物がないという剣士なら垂涎の代物だ。
その一方で、剣に認められなければ絶対に使用できない。おそらく誰がやってもあの場から一ミリたりとも動かすことは出来ないだろう。
剣の波動はそのまま床を破って地を抉り、地脈まで切り裂いて土地を枯れさせていくに違いない。
俺ももう年だ。ちょうど命のやり取りも疲れてきていた。貯めた金で山でも買ってノンビリ過ごすことにするか。
振り向いて見た確りとした豪奢な造りのハンターギルドの建物は少し寂しそうに見えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ブラウンが去った後のギルドでは、皆がしばし呆然としていた。
最初に動きを見せたのはとある女性ハンターだった。彼女は顔を赤くして、ブラウンと同じようにハンター証をカウンターに叩きつけた。
「ブラウンがいなくなった以上、私もやめるわ。こんな所に居られない。止めなかった他のやつらも同罪さ!
ブラウンは抜きに出てギルドに貢献してきただろう、なのに理由も無く・・・許さないからな」
そう言って女性ハンターが出て行くと、そこにハンター達が我も我もと後に続き、半数ほどが出て去ってしまった。その後も、依頼を終えて戻ってきた者達がこの事実を知ると、同じように半数が辞めて行った。
後日ある新聞社が、去っていった者達に辞めた理由を取材したところ、紙面に掲載された理由は以下の通りであった。
1 ハンターギルド最強のブラウンを追い出すギルドなど信用できない。
2 自分が世話になったブラウンを追い出すようなギルドに従う理由がない。
3 ハンターギルドでなくても、冒険者ギルドやナイトギルドに行けば仕事はある。
冒険者ギルドは、ハンターのようにモンスターを専門的に狩ることはしないが、いわゆる雑用ギルドでモンスター討伐依頼も多少あるため、ハンター達にとっては入りやすいギルドである。
ナイトギルドは商人の護衛、盗賊の討伐をメインとした捕縛権のある半公務員的なギルドであり、どのギルドより罰則のキツイギルドである。盗賊討伐が出来るハンターにとっては入りやすいギルドである。
こうして、ハンターギルドはブラウンの解雇現場を実際見ていなかったハンターを含めて、実に全体の半数以上のハンターを失うことになった。
一方、それとは異なる動きを見せるハンターもいた。ブラウンがカウンターに刺した剣を自分の物にしようと必死に引き抜こうとする者であった。
この剣はかつて、伝説とまで言われるエンシェントドラゴンの鱗を、バターのように切り裂いたことがある。それこそ必死に引き抜こうとしたが、誰がやってもビクともしない。
その人間の中に、ブラウンに引退勧告を突きつけた受付嬢の彼氏である剣士も居た。実は今回の解雇劇はこの男が、剣と最強の座が欲しくて受付嬢と起こした騒ぎだったのである。
その事を知ったらほとんどの者が身の程知らずだと笑うだろう、しかもそれで最強の男を失ってしまったギルドはいい笑いものだ。
ブラウンの予想を超えて、剣の力で守られたカウンターの机は正に伝説の剣が刺さった岩のようになっていたのだ。そして机を壊そうとする者が居たことで地震が多発して、皆恐怖を覚え、剣に近づくものは徐々に居なくなって行った。
そして、去ることもせず、剣に群がることもなかった残りの者達は、不安を覚えながらもいつも通りを装っていた。いわゆる、事なかれ主義、風見鶏の者達である。
確かに現状、ギルドマスターが出張で居ない状態で判断も付かないし、ひょっとしたら、マスターがブラウンに頭を下げて連れ戻す可能性もあったからだ。
実はこの国のSSS級クラスの依頼は八割ブラウンがこなしていたし、何よりハンターギルドのSSS級はブラウンを含めて三人しかいない。
ギルドとしては気のせいであって欲しいが、最初に出て行った女性はそのSSS級だったような気がする。
その後SSS級全員脱退を確認しているが、ギルド自体は未確認としてそれを認めていない。
つまり、現実逃避である。
受付嬢はとても簡単に考えていた。このギルドは他のギルドよりも力が強く、ハンターギルドから追放されると、他のギルドでも登録が出来ず、モンスターの素材の買取もされない。
多くの引退したハンターは、買い取り価格が下がっても生活のために狩猟して素材を売りに来るし、ギルドマスター命令で元ギルド員は緊急依頼を受ける事が出来る。
しかもハンター以外した事の無い40過ぎのおじさんである。少し言いくるめて今まで通りの依頼を緊急依頼としてさせておけば問題が無いと思っていたし、独り身のおじさんだ貯蓄も無いから結局買い取り価格が安くても素材も売りに来るだろうと踏んでいたのだ。
しかし、現実は違った。ブラウンは引退後の手続きもせず、完全にギルドと縁を切る形で出て行ってしまった。
そして彼が欲しいと言っていた剣は、目の前に突き立てられてハンター達が醜い奪い合いをしている。
受付嬢はその中に彼の姿を見つけて、急激に何かが冷めていくのを感じていた。と同時に、後ろからの強烈な殺気に冷や汗が止まらない。この殺気は間違いなく先輩受付嬢のシェリーの物に違いない。
目が泳ぎ、喉が乾く。声も震えて出ない程の重圧がサリーにのしかかる。
お嬢様育ちのサリーには、ハンターの相手をこなしてきたシェリーの殺気を浴びる時間は正に地獄のようであった。
「サリー、今回の件、奥でジックリと話を聞きたいわ、この騒ぎの責任をどう取るのか、とかね」
サリーは、先輩である受付嬢からそう指摘される。
確かに受付の職員には現場をもっとも把握しているという理由から、C級までの昇格権限と引退をすすめる事は許されている。だが、今回はさすがにやりすぎた。
越権行為であるだけでなく、これだけの騒ぎになってしまったのだ。
しかもギルドマスターの兄の娘として大切に育てられすぎた故に、自分の考えが全て通ると考えていたが…現実は違いすぎた。
「え、あの先輩、私……」
「ちゃんと聞きますからね、因みにSSS級最強が出て行ってしまったの、解ってるわね?」
サリーは自分の中の何かが壊れていくのを、ハッキリと理解してしまった。
先輩にガッチリと肩をつかまれ、犯罪者用の取調室に連れて行かれるサリーの目は虚ろになっていた。
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ギルドマスターが出張先の王都から早馬でギルドに帰ってきたのは、ブラウンの騒動があった翌日のことだった。そして到着後まもなく、ギルドマスターは部下からの報告により、ハンター最強と呼ばれた男の引退と、彼の行方が解らなくなっている事を知ったのである。
「シェリー、この報告書は本当なのか……」
「はい、あまりのことに私たち職員も気が動転してしまい、対応が遅れてしまいました。それも災いして、最悪の結果に……」
「で? サリーと……ジェイク?だったか? あいつらはどうしている?」
「はい、二人の共謀と解った時点で地下牢に拘束しています」
ギルドマスターは目を閉じ、コメカミを揉み解すように指で押さえると、大きくため息を吐いた。
「ブラウンの行方を捜すと共に、他の脱退したSSS級ハンターの説得に動く。二人は国家反逆罪で国王の判断を仰ぐ」
サリーもジェイクも処刑されても仕方のない大罪を犯した。とはいえ、サリーの処分については自分の兄が動くだろうとギルドマスターは考えていた。
それは兄である辺境伯はサリーを目の中に入れても痛くないほど可愛がっていたし、ギルドマスターも初恋をこじらせて未だに忘れられない今は亡き義姉に瓜二つのサリーにどうしても甘くなってしまっていたため自分も後で減刑を求める書類を書くのだから兄も必ず行動に移すのはある意味決定事項だといえた。
それからというもの、ギルドマスターは、各ギルドに依頼してブラウンの行方を捜してもらいつつ、自身は出ていったSSS級ハンターに会いにいき、復帰をお願いして回った。
この街ステットのハンターギルドは世界最大規模だ。そのギルマスである自分が頭を下げながら復帰を乞うというのは屈辱というほかなかった。だが、ギルドの看板たるSSS級の復帰は絶対だったために耐え続けたのである。
しかしながら、ブラウンの行方はようとして知れず、他のSSS級にも復帰は固辞され、ハンターギルドの依頼達成数はみるみる激減していく一方だった。
ちなみに、本件の主犯であるジェイクは処刑となり、サリーには無給奉仕15年の刑が言い渡された。ギルドマスターの予想通り、サリーは処刑を免れたものの、刑期が終わるまで拘束の首輪を付けられ、職場でも針のむしろで過ごすことになる……。
いずれにしても、二人が安易に引き起こしたこの事件により、ハンターギルドは力も勢力も失墜し、挙げ句SSS級依頼は焦げ付き、王国の領土がモンスターに徐々に奪われて行った。
そして結果として、これまでSSS級依頼を一人でこなしていたブラウンの異常な実力がより際立つことになったのだった。
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