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極東編
ミネルバとトシロウ
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星の美しい満月の夜、ススキが咲き乱れる平原で、激しい息遣いのミネルバと対峙する老齢の男性は静かにその場にたたずんでいた。
ミネルバがこの男の噂を聞いたのは一週間前。静かなる最強、そんな噂を聞いたのは極東の村を旅していた時だった。
剣を極め無手を極めた静かなる最強、ミネルバは立ち会いたくなり訪ねてみた。
男は極東ならではの家で、ノンビリと大きな湯飲みで緑茶を飲んでいた。
穏やかな空気、言い表すならその一言に尽きる。
ミネルバは剣を抜くと、一気にから竹割りの様に縦に剣を振りぬいた。
しかし、気がつくと畳の上に転がっていた。
「ふぉふぉふぉ、恐ろしい殺気と剣筋であった・・・怖い怖い」
老人は何事も無かったかのように羊羹を爪楊枝で切り分け突き刺すと、ミネルバの方へ突き出してきた。
「まぁ甘いものでも食って落ち着きなされ」
渋々羊羹を受け取ると近くに腰をおろす。
「あれはなんなんだ?全く解らなかった」
「なぁに、あんたは物凄い剛剣だったから力の方向を少しずらしただけだよ」
その日からミネルバのこの老人から一本取ろうとする日々が始まった。
老人はトシロウと言って、ブラウンと違う意味で最強だと感じていたが少し違和感があった。
こうして1ヶ月が過ぎた頃、ミネルバの無手のレベルもかなり上がり、トシロウと違って剛であったのはミネルバらしかった。
それでも一本取れないことに苛立ちを覚えていた。
「ふぉふぉふぉふぉ、むきになれば更に負けこむぞ」
「おのれ!赤龍剛掌波!」
投げ飛ばされつつもミネルバはこの一ヶ月で開眼した奥義の一つを放つ。
赤いオーラの塊は強烈な破壊の力を持ってトシロウに迫った。
「ほい」
軽く手を振るうと、オーラの塊は方向を変え、空のかなたに飛んで行った。
「く!!ふぬお」
その隙を突くように正面から拳を無数に叩きつけるが、それも全ていなされる。
「ほほほほ、怖いの」
距離を取ったミネルバにトシロウは穏やかに微笑みかける。
「ちぃ、あれを全部いなすとか化け物だろう」
悔しそうなミネルバに、トシロウは顎に手を当てて
「まぁ、お主とは相性がなぁ。ほれ、柔よく剛を制すと言うじゃろう?」
「なら私は剛よく柔を断つを実践してみせるさ!」
その日も遅くまでミネルバはトシロウに挑戦し続けるが一本とることは無かった。
「あの爺さん強すぎだろう!」
トシロウの屋敷の庭で自分の形を見直して明日の準備をしていると、村の方から爆発音が聞こえてきた。
ミネルバは弾かれたように屋敷を飛び出す。
ミネルバの後から来たトシロウは、更に上の速度で追い抜いていってしまった。
「あの爺さんまだ本気じゃ無かったって事か!」
ミネルバが村に着いた時には村の家々は焼け焦げ、大半のモヒカン兵が何処かしらの関節を外され転がっていた。
しかし、不思議と村人の遺体は無い。不審に思いつつ村の奥に進んでいくと、囚われた村人を囲むモヒカンの兵士達、そして勝ち誇ったような眼帯の男は、トシロウを棍棒で殴りつけているところだった。
「ち、卑怯なやつめ・・・」
ミネルバは気配を殺し、村人を囲むモヒカン兵の側まで行くと一気に制圧した。
トシロウに終ったと合図しようとして目を向けると、トシロウの側頭部に棍棒が叩きつけられた。
「爺!」
しかし、トシロウは倒れる事無く、ポカンとした顔をしていた。
眼帯も驚いた顔をして自分の得物を見ていた。
つられてミネルバが武器を見ると棍棒が昆布に変わっていた。
「な、んだこれは・・・」
眼帯はナワナワと振るえ、昆布を地面に叩きつける。
「なにってお土産だ」
眼帯の後ろにはブラウンが立っていた。
目を見開いてブラウンを見上げる眼帯の右頬をパンとビンタすると、空中で3回転して地面に倒れた。
「爺さん大丈夫か?」
ブラウンが手を差し伸べると、トシロウは後ろに飛びのき距離を取る。
ブラウンを隙無く見つめるトシロウは、汗をポタポタとたらしながらブラウンの様子を伺う。
「お主・・・ブラウンだな・・・普通にしていても恐ろしい」
ミネルバは初めてトシロウが本気で構える姿を始めて見た。
「なんだ?」
事情が飲み込めないブラウンは少し困ったような顔をして頬を掻いた。
「剣士トシロウ・・・最強殿に挑戦させて頂きたい」
「良いぞ」
ブラウンは拳を軽く構える。
それを確認するとトシロウは物凄い速度でブラウンに迫るが、触れもしていないのにトシロウが投げ飛ばされた。
「ま、まさかここまで差が有るとは・・・」
トシロウは地面に膝をつくとガックリとうな垂れた。
――――――――――――
たぬまるです。
何故モヒカンや眼帯が来たのかを次回書いて行こうと思っています。
色々な複線にも挑戦していきます。
これからもよろしくお願いいたします
ミネルバがこの男の噂を聞いたのは一週間前。静かなる最強、そんな噂を聞いたのは極東の村を旅していた時だった。
剣を極め無手を極めた静かなる最強、ミネルバは立ち会いたくなり訪ねてみた。
男は極東ならではの家で、ノンビリと大きな湯飲みで緑茶を飲んでいた。
穏やかな空気、言い表すならその一言に尽きる。
ミネルバは剣を抜くと、一気にから竹割りの様に縦に剣を振りぬいた。
しかし、気がつくと畳の上に転がっていた。
「ふぉふぉふぉ、恐ろしい殺気と剣筋であった・・・怖い怖い」
老人は何事も無かったかのように羊羹を爪楊枝で切り分け突き刺すと、ミネルバの方へ突き出してきた。
「まぁ甘いものでも食って落ち着きなされ」
渋々羊羹を受け取ると近くに腰をおろす。
「あれはなんなんだ?全く解らなかった」
「なぁに、あんたは物凄い剛剣だったから力の方向を少しずらしただけだよ」
その日からミネルバのこの老人から一本取ろうとする日々が始まった。
老人はトシロウと言って、ブラウンと違う意味で最強だと感じていたが少し違和感があった。
こうして1ヶ月が過ぎた頃、ミネルバの無手のレベルもかなり上がり、トシロウと違って剛であったのはミネルバらしかった。
それでも一本取れないことに苛立ちを覚えていた。
「ふぉふぉふぉふぉ、むきになれば更に負けこむぞ」
「おのれ!赤龍剛掌波!」
投げ飛ばされつつもミネルバはこの一ヶ月で開眼した奥義の一つを放つ。
赤いオーラの塊は強烈な破壊の力を持ってトシロウに迫った。
「ほい」
軽く手を振るうと、オーラの塊は方向を変え、空のかなたに飛んで行った。
「く!!ふぬお」
その隙を突くように正面から拳を無数に叩きつけるが、それも全ていなされる。
「ほほほほ、怖いの」
距離を取ったミネルバにトシロウは穏やかに微笑みかける。
「ちぃ、あれを全部いなすとか化け物だろう」
悔しそうなミネルバに、トシロウは顎に手を当てて
「まぁ、お主とは相性がなぁ。ほれ、柔よく剛を制すと言うじゃろう?」
「なら私は剛よく柔を断つを実践してみせるさ!」
その日も遅くまでミネルバはトシロウに挑戦し続けるが一本とることは無かった。
「あの爺さん強すぎだろう!」
トシロウの屋敷の庭で自分の形を見直して明日の準備をしていると、村の方から爆発音が聞こえてきた。
ミネルバは弾かれたように屋敷を飛び出す。
ミネルバの後から来たトシロウは、更に上の速度で追い抜いていってしまった。
「あの爺さんまだ本気じゃ無かったって事か!」
ミネルバが村に着いた時には村の家々は焼け焦げ、大半のモヒカン兵が何処かしらの関節を外され転がっていた。
しかし、不思議と村人の遺体は無い。不審に思いつつ村の奥に進んでいくと、囚われた村人を囲むモヒカンの兵士達、そして勝ち誇ったような眼帯の男は、トシロウを棍棒で殴りつけているところだった。
「ち、卑怯なやつめ・・・」
ミネルバは気配を殺し、村人を囲むモヒカン兵の側まで行くと一気に制圧した。
トシロウに終ったと合図しようとして目を向けると、トシロウの側頭部に棍棒が叩きつけられた。
「爺!」
しかし、トシロウは倒れる事無く、ポカンとした顔をしていた。
眼帯も驚いた顔をして自分の得物を見ていた。
つられてミネルバが武器を見ると棍棒が昆布に変わっていた。
「な、んだこれは・・・」
眼帯はナワナワと振るえ、昆布を地面に叩きつける。
「なにってお土産だ」
眼帯の後ろにはブラウンが立っていた。
目を見開いてブラウンを見上げる眼帯の右頬をパンとビンタすると、空中で3回転して地面に倒れた。
「爺さん大丈夫か?」
ブラウンが手を差し伸べると、トシロウは後ろに飛びのき距離を取る。
ブラウンを隙無く見つめるトシロウは、汗をポタポタとたらしながらブラウンの様子を伺う。
「お主・・・ブラウンだな・・・普通にしていても恐ろしい」
ミネルバは初めてトシロウが本気で構える姿を始めて見た。
「なんだ?」
事情が飲み込めないブラウンは少し困ったような顔をして頬を掻いた。
「剣士トシロウ・・・最強殿に挑戦させて頂きたい」
「良いぞ」
ブラウンは拳を軽く構える。
それを確認するとトシロウは物凄い速度でブラウンに迫るが、触れもしていないのにトシロウが投げ飛ばされた。
「ま、まさかここまで差が有るとは・・・」
トシロウは地面に膝をつくとガックリとうな垂れた。
――――――――――――
たぬまるです。
何故モヒカンや眼帯が来たのかを次回書いて行こうと思っています。
色々な複線にも挑戦していきます。
これからもよろしくお願いいたします
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