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決行

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 ◇◆◇


「アキラ、今から出掛けるからついて来て。くれぐれも静かにしろよ」

 ある日の早朝、アキラはユウトからこっそりとそう声を掛けられた。

 今日も悪夢を見た。
 すでに目は覚めているが、身体がだるい。

「う、うん、分かった……ちょっと待って」

 アキラは重い身体を無理矢理起こすと、できるだけ手早く出掛ける準備をした。

 とうとう来た……そう思うと心臓がどきどきする。
 アキラもこの誘いがどういうことなのか理解していた。

 ようやくアキラの傷も随分と癒えてきて、体力も回復してきていた。
 動くのに差程支障が無くなったのを見計らうと、ユウトは計画通りに行動を起こした。

 音がしないようドアをそっと開けると、息を殺してそろそろと廊下を歩く。
 寝室の並ぶ廊下から研究室まで出て来ると、ユウトは一気に息を吐いた。

「ふーっ……よし、ひとまずは第一関門突破ってとこか」

「あの、オレ今『男』なんだけど……このままでいいの?」

「いいんだ。できれば向こうに着くまでそのままでいてくれ」

 この計画の為には、それが必須条件だった。

「じゃあ、それまでは絶対オレに触れないでね。多分今日はそれだけですぐ『女』になっちゃうと思う」

「あ、ああ……分かった」

 ただでさえずっとユウトへの意識が止まらない。
 今触れられたら多分……マズい。

「あ、そう言えば! おじいちゃんたちに出掛けること言ってないよね」

「ばっ……!」

 突然そう言って戻ろうとするアキラの服を、ユウトは慌てて引っ張った。
 自分も危うく大声を出すところだ。

「ちょっと! 触らないでって言ったじゃん!」

「しいっ! あ、あのなぁ……何の為にこんなコソコソしてると思ってんだよ? そんなことしたら話がややこしくなるからやめろって!」

「え、でも。じゃあ、心配するといけないから書き置きだけしとくね。『ちょっとでかけてきます』っと」

「……はあああぁ。もう、勝手にしろよ」

 そんなことをしなくても、暗黙の了解というやつで教授たちには分かる筈なのだが。

 他のみんなはまだ寝静まっている。
 今回ばかりは邪魔されてたまるかと、ユウトはかなり慎重になっていた。 

 どうせ帰って来てからは散々からかわれるに決まっているのだから……
 今くらいは心穏やかでいたいユウトだった。
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