上 下
159 / 187
暴露

しおりを挟む
「交渉はこれで成立したでしょ? だからアキラちゃん、そのボールもう捨てちゃってよお」

「それはいや! だってきっとこのボールが、オレたちとキャシーさんを引き合わせてくれたに違いないんだもん。オレの宝物なんだから、絶対に捨てないよ」

 そう言って大事そうにボールを抱き締めるアキラに、キャシーは唖然とする。

「アキラちゃん……それって何か、嬉しいような悲しいような……ふ、複雑すぎる」

 ただ天然なだけなのに、ここでのアキラは本当に最強で無敵だった。

「そもそも、キャシーさんはどうして自分の名前をそんなに恥ずかしがるの?」

「だって……どうみても『男』って名前じゃない? アキラちゃんみたいにどっちでも使えるような名前なら良かったのに」

「でも、親が一生懸命考えて付けてくれた名前でしょ? 火野さんたちだって、キャシーさんの本名を知った所で元が男だってことはすでに分かってるんだから、今更何が変わる訳でもないと思うけどな」

 その言葉を聞くと、キャシーは呆気にとられた顔になった。

 アキラがもの凄く正当なことを言っている……

 そしてユウトは、驚くと共にマズイと思った。
 せっかくキャシーの弱みを掴んだと思ったのに、アキラに説き伏せられてしまっては、先程の交渉は意味を成さなくなってしまう。
 と言うことは、自分はまたキャシーのおもちゃに逆戻りとなる。

「そ、そうね……そうよね。もう男だったってことは分かってるんだし、今更男の本名を晒すくらいどうってことないわよね。私ったら何を必死に隠そうとしてたのかしら。ありがとうアキラちゃん!」

 そう言うと、キャシーは踵を返して五つ子の元へと走って行ってしまった。
 そして部屋には、満足そうに微笑むアキラと、打ちひしがれたユウトが取り残された。

「あれ、ユウトどうしたの?」

「いや、何か……もうどうでもいいや」

 アキラといる限り自分はそういう運命なのだと、ユウトはもう諦めることにした。 


 ◇◆◇


 そんなみんなの協力もあり、その後はアキラの怪我も徐々に回復していったが……

 それでも心の傷は、度々アキラのことを容赦なく襲う。
 心身の苦痛からは、なかなか逃れられそうに無かった。

 せめて性転換の負担だけでも早く何とかしてやりたい……かと言って無理はさせられない。
 全てはアキラの状況次第の為、タイミングも難しいと言えば難しい。

 ユウトはカレンダーの、とある日にちに目を落とす。
 多少の無理をしてでもこの日に必ずアキラを連れ出そうと、ユウトはそう決めていた。

 果たしてアキラは気付くだろうか。

 その日は二人にとっての特別な日だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...