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「大丈夫だよ、オレ負けないから。えと、『シマウマ』……だっけ?」

「それを言うなら『トラウマ』だろが――」

 更に頭を抱えてユウトが突っ込んだ。

「あ、あれ、そうだった? でも『ウマ』は合ってたよね?」

「言っとくけど、トラウマは動物のトラでもウマでもないからな」

「そ、それくらいは分かってるよ!」

 他愛のないやり取りが楽しい。
 そんなアキラの優しさが、ユウトにはたまらなく愛おしかった。

「はは、良かった。お前やっぱり馬鹿だったんだな」

「ちょっと、何だよ良かったって! はいはい、どうせオレは……」

 言いかけたところでアキラは口を閉ざした。

 気付くと、ユウトの顔がすぐ目の前まで来ていて、そのまま自分の唇をゆっくりと塞いでいく。

「っ……ふ」

 小さく息が漏れる。
 もっとユウトを感じたい――アキラはそう思って目を閉じた。

 かたん、と椅子の動く音がする。
 枕元でベッドの軋む音が聞こえると、静かに唇が離れていった。
 目を開けると、ユウトはアキラの両脇に手を付いて、上から見下す様な体勢になっていた。

「なあ、ずっと聞きたいことがあったんだ。お前が俺を助けてくれたこと、覚えてるか?」

「え……オレが? いつ? ど、どうやって」

 やっぱり覚えていないか……と、少し残念な気持ちになる。
 いつもとは別人のようなアキラの姿を思い出しながら、ユウトは話して聞かせた。

「すっげー張り手であの女吹っ飛ばしたの。お前、怒らせるとホントは怖いんだな」

「張り手……って、何それ!? ホ、ホントにそんなことした? 全然覚えてないよ?」
 
「俺も驚いたよ。その後、ドスの効いた凄い声で、また凄いこと言ってくれたんだけど」

「す、凄いこと……な、なに? 何か怖いんだけど……」

 不安気なアキラに、ユウトはニヤリとして一番聞かせたかったことを口にした。

「こう言ったんだよ。『オレのユウトに手を出すな』って――」

「な……っ、はあああ!?」
 
 ただでさえ赤かったアキラの顔が、更にみるみる真っ赤になっていく。 
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