上 下
108 / 187
引き裂かれる二人

しおりを挟む
「どうやっても手に入れるんだってさ。前にあんなこっぴどく振られたってのに、しつこいよねー」

「妹って、さっきのあの人? そんな……」

 全てはユウトの言っていた通りだったのに……嫉妬に負けて素直になれなかった自分を心から恨んだ。

「もう今頃は妹にとっ捕まってるって。ね、彼のことは諦めなよ。こっちはこっちで楽しくやればイイじゃん」

「いやだ、一緒に行くなんて言ってない!」

「あはは! ざーんねん……君には断る権利なんて無いんだよ? ここにはさ、だぁれも君を助けてくれる人なんていやしないんだから」

 冷たくそう言って、強引にアキラの腕を引っ張ろうとする。

「や……痛い、放して……! ユウト……ユウト――ッ!!」

 思わずアキラは、ユウトの名前を叫んでいた。

「おいおい~だからぁ、彼氏を呼んでもムダなんだって……」

 キョウがそう言いかけた時。
 小さな影が飛び出して、キョウの腕に思い切り噛み付いた。

「いっで――っ! 何だコイツ!」

 キョウは腕からそれを振り払い、地面に叩き付けた。

「キャウ!」

 悲鳴を上げたのはチビだった。

「チビ!」

 束縛から自由になったアキラが、慌てて駆け寄る。
 チビはすぐに起き上がり、キョウに向かって小さく唸り声を上げている。

「この……クソ犬が!」

 キョウは後ろへ大きく足を振り上げて、チビを蹴り上げようとした。

「ダメッ、やめて!」


 ドゴ……ッ!


 そんな鈍い音がして、間に割って入ったアキラの腹にキョウの蹴りが勢いよく入った。

「……あ……っ……」

 呼吸ができず、声が出ない。
 蹴られた勢いで転がったまま動けなくなった。

「クンクン……」

 傍に来たチビが、心配そうに声を上げる。

「チ、チビ……早く、逃げて……」

 やっとの思いで声を絞り出すと、アキラはそのまま意識を手放した。

「あー、びっくりした。ま、いっか。結果オーライってことで」

 キョウはアキラをひょいと肩に担ぎ上げた。

「一応これ持って来てたけどいらなかったなー。あれ? なんだ、どのみちバッテリー切れか」

 そう言ってポイ、と持っていたスタンガンを適当に投げ捨てる。

 チビはしばらくアキラを気に掛けるようにおろおろとしていたが、そのスタンガンを懸命に拾い上げると、元来た道を急いで引き返して行った。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...