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修復
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「……おにいちゃんもそう言ったよ。そう言って、帰って来なかった……」
「え……?」
一瞬、ユウトには何のことだか分からなかったが。
(あ、もしかしてこいつ……)
アキラが自分に固執していた原因がようやく分かった。
自分の大切な人間に置き去りにされる孤独――
それがアキラのトラウマだった。
(そういうことか。俺の行動を兄貴の境遇と重ね合わせていた訳だ。そういえば名前も俺と同じだったっけ)
アキラの性格上、ここまで来たらもう引き下がらないだろう。
何が何でもついて来るに違いない。
だが、問題はもう一つあった。作った原因は自分なのだが。
「はあ――……もう、こうなったら連れて行くしかないけど……」
深い溜息をつきながらぼそりと言う。
「ホント!?」
それを聞いたアキラの顔がぱっと明るくなった。
「でもお前、この先はまた俺と二人きりになるんだぞ。俺のことは……その、まだ怖いだろうし……そんなんで一緒にいられるのか? それに、昨日も『だいきらい』って言われたばかりで……」
全ては自分の自業自得なんだけど……そう心の中で付け足す。
「だ、大丈夫。チビもいるから三人だよ」
子犬も人数に入るのか――とユウトは言いそうになったが。
まあ、それでアキラの気が休まるのならば。
「それに、あの時はそういう心境になったって仕方がないっていうか……で、でも本気では言ってないよ。十年以上も一緒にいて、ユウトのことそんな簡単に嫌いになれる訳がない」
そう言うと、さっきは払い退けたユウトの手を、突然ぎゅっと掴んできた。
「え!?」と、ユウトの方が驚いて、思わず手を引っ込めそうになる。
「だ、大丈夫かお前、何か無理してない?」
「大丈夫だってば、もう!」
そう言うなり、アキラはユウトの顔を少し乱暴に自分の方へと引き寄せた。
「……!」
一瞬の出来事だった。
それはほんの少し、唇が触れただけの軽いキス。
(え? え? な、何だ今の――)
瞬きを忘れる程に、思わず放心状態となる。
初めてのアキラからのキスというあまりにも急な展開に、ユウトは何が起きたのかいまいち理解できずにいた。
「こ、これで信じてくれた?」
アキラが確認するように、ユウトの顔を覗き込んでくる。
その顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっていた。
「え……?」
一瞬、ユウトには何のことだか分からなかったが。
(あ、もしかしてこいつ……)
アキラが自分に固執していた原因がようやく分かった。
自分の大切な人間に置き去りにされる孤独――
それがアキラのトラウマだった。
(そういうことか。俺の行動を兄貴の境遇と重ね合わせていた訳だ。そういえば名前も俺と同じだったっけ)
アキラの性格上、ここまで来たらもう引き下がらないだろう。
何が何でもついて来るに違いない。
だが、問題はもう一つあった。作った原因は自分なのだが。
「はあ――……もう、こうなったら連れて行くしかないけど……」
深い溜息をつきながらぼそりと言う。
「ホント!?」
それを聞いたアキラの顔がぱっと明るくなった。
「でもお前、この先はまた俺と二人きりになるんだぞ。俺のことは……その、まだ怖いだろうし……そんなんで一緒にいられるのか? それに、昨日も『だいきらい』って言われたばかりで……」
全ては自分の自業自得なんだけど……そう心の中で付け足す。
「だ、大丈夫。チビもいるから三人だよ」
子犬も人数に入るのか――とユウトは言いそうになったが。
まあ、それでアキラの気が休まるのならば。
「それに、あの時はそういう心境になったって仕方がないっていうか……で、でも本気では言ってないよ。十年以上も一緒にいて、ユウトのことそんな簡単に嫌いになれる訳がない」
そう言うと、さっきは払い退けたユウトの手を、突然ぎゅっと掴んできた。
「え!?」と、ユウトの方が驚いて、思わず手を引っ込めそうになる。
「だ、大丈夫かお前、何か無理してない?」
「大丈夫だってば、もう!」
そう言うなり、アキラはユウトの顔を少し乱暴に自分の方へと引き寄せた。
「……!」
一瞬の出来事だった。
それはほんの少し、唇が触れただけの軽いキス。
(え? え? な、何だ今の――)
瞬きを忘れる程に、思わず放心状態となる。
初めてのアキラからのキスというあまりにも急な展開に、ユウトは何が起きたのかいまいち理解できずにいた。
「こ、これで信じてくれた?」
アキラが確認するように、ユウトの顔を覗き込んでくる。
その顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっていた。
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