上 下
98 / 187
修復

しおりを挟む
「……おにいちゃんもそう言ったよ。そう言って、帰って来なかった……」

「え……?」

 一瞬、ユウトには何のことだか分からなかったが。

(あ、もしかしてこいつ……)

 アキラが自分に固執していた原因がようやく分かった。

 自分の大切な人間に置き去りにされる孤独――
 それがアキラのトラウマだった。

(そういうことか。俺の行動を兄貴の境遇と重ね合わせていた訳だ。そういえば名前も俺と同じだったっけ)

 アキラの性格上、ここまで来たらもう引き下がらないだろう。
 何が何でもついて来るに違いない。
 
 だが、問題はもう一つあった。作った原因は自分なのだが。

「はあ――……もう、こうなったら連れて行くしかないけど……」

 深い溜息をつきながらぼそりと言う。

「ホント!?」

 それを聞いたアキラの顔がぱっと明るくなった。

「でもお前、この先はまた俺と二人きりになるんだぞ。俺のことは……その、まだ怖いだろうし……そんなんで一緒にいられるのか? それに、昨日も『だいきらい』って言われたばかりで……」

 全ては自分の自業自得なんだけど……そう心の中で付け足す。

「だ、大丈夫。チビもいるから三人だよ」

 子犬も人数に入るのか――とユウトは言いそうになったが。
 まあ、それでアキラの気が休まるのならば。

「それに、あの時はそういう心境になったって仕方がないっていうか……で、でも本気では言ってないよ。十年以上も一緒にいて、ユウトのことそんな簡単に嫌いになれる訳がない」

 そう言うと、さっきは払い退けたユウトの手を、突然ぎゅっと掴んできた。
「え!?」と、ユウトの方が驚いて、思わず手を引っ込めそうになる。

「だ、大丈夫かお前、何か無理してない?」

「大丈夫だってば、もう!」

 そう言うなり、アキラはユウトの顔を少し乱暴に自分の方へと引き寄せた。
 
「……!」

 一瞬の出来事だった。
 それはほんの少し、唇が触れただけの軽いキス。

(え? え? な、何だ今の――)

 瞬きを忘れる程に、思わず放心状態となる。
 初めてのアキラからのキスというあまりにも急な展開に、ユウトは何が起きたのかいまいち理解できずにいた。

「こ、これで信じてくれた?」

 アキラが確認するように、ユウトの顔を覗き込んでくる。
 その顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。

天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」 甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。 「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」 ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。 「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」 この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。 そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。 いつもこうなのだ。 いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。 私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ? 喜んで、身を引かせていただきます! 短編予定です。 設定緩いかもしれません。お許しください。 感想欄、返す自信が無く閉じています

えと…婚約破棄?承りました。妹とのご婚約誠におめでとうございます。お二人が幸せになられますこと、心よりお祈りいたしております

暖夢 由
恋愛
「マリア・スターン!ここに貴様との婚約は破棄し、妹ナディアとの婚約を宣言する。 身体が弱いナディアをいじめ抜き、その健康さを自慢するような行動!私はこのような恥ずべき行為を見逃せない!姉としても人としても腐っている!よって婚約破棄は貴様のせいだ!しかし妹と婚約することで慰謝料の請求は許してやる!妹に感謝するんだな!!ふんっっ!」 …………… 「お姉様?お姉様が羨ましいわ。健康な身体があって、勉強にだって励む時間が十分にある。お友達だっていて、婚約者までいる。 私はお姉様とは違って、子どもの頃から元気に遊びまわることなんてできなかったし、そのおかげで友達も作ることができなかったわ。それに勉強をしようとすると苦しくなってしまうから十分にすることができなかった。 お姉様、お姉様には十分過ぎるほど幸せがあるんだから婚約者のスティーブ様は私に頂戴」 身体が弱いという妹。 ほとんど話したことがない婚約者。 お二人が幸せになられますこと、心よりお祈りいたしております。 2021年8月27日 HOTランキング1位 人気ランキング1位 にランクインさせて頂きました。 いつも応援ありがとうございます!!

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

もうあなたを離さない

梅雨の人
恋愛
幸せ真っただ中の夫婦に突如訪れた異変。 ある日夫がレズリーという女を屋敷に連れてきたことから、決定的にその幸せは崩れていく。 夫は本当に心変わりしたのか、それとも…。 幸せ夫婦を襲った悲劇とやり直しの物語。

【完結】僕の恋人が、僕の友人と、蕩けそうな笑顔でダンスを踊るから

冬馬亮
恋愛
パーシヴァルは、今夜こそ、恋人のケイトリンにプロポーズをしようと密かに決意していた。 ダンスをしながら、プロポーズのタイミングを考えていたものの、踊り終えたところでパーシヴァルに、隣国に留学していた親友のダニエルが声をかけてくる。 パーシヴァルはダニエルにケイトリンを紹介。流れで2人はダンスを踊ることになるのだが・・・ パーシヴァルは見てしまった。 愛する人の耳元で思わせぶりに何かを囁くダニエルと、可愛らしく頬を染め、蕩ける笑顔でダニエルを見上げるケイトリンを。 ※なろうさんでも掲載しています。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央
恋愛
 アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。  自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。  だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。  しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。  結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。  炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥  2021年9月2日。  完結しました。  応援、ありがとうございます。  他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...