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言い知れぬ不安

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 確かにアキラは自分に固執している傾向がある。
 けれどそれは、自分の兄と重ね併せているだけだろうと、ユウトは思っていたのだが。

「で、でも昔から俺に対してはあんな感じで、好意と言ってもどういったものかは……」

「アキラちゃんの場合、恋愛とはまた違うような気がするが……何じゃろうの。ユウトくんと違って分かり難いんじゃなあ」


(俺、そんなに分かり易いのか……)

 軽くショックを受けた。
 樫木教授……やはり生物学の権威と言われるだけの人物ではある、侮れない。


「しかし身体が女性になった事によって、感情にも何かしらの変化は現れてくる筈じゃ。『男』と『女』は全く別の生き物じゃからな。さて、ユウトくんはどうしたいんじゃ」

「え?」

「君が決定する事もできるぞ。アキラちゃんに話すも良し、このまま内緒にするも良しじゃ」

「い、いや! 俺が決めるとかって、そんなことは……」

 正直、言葉に詰まる。

 もし今アキラが『男』に戻ってしまえば、アキラに対して自分は以前のように接することができるかどうか。
 それが、どうにも自信がない。

 アキラはまだこのことを知らない。
 知ってしまえば『男』に戻りたいという感情が芽生えてくるのではないだろうか? 
 そうなったら、気付いたばかりの自分の気持ちは……この恋の行き場はどうなるのだろう。

(だからって、これはアキラ自身の問題だ。俺の一存で決めることじゃないだろ……)

 そんなことを考えていた矢先――


「ええええ~~~ッ!」


 突然、けたたましい声がキッチンからこだました。


 ダダダダダダ――――ッ


 忙しない足音が聞こえてきたかと思うと、子犬を抱えたアキラが大慌てで入ってきた。

「ど、どうしたアキラ?」

「ユウト、おじいちゃん、この子って女の子だったよね? 今抱き上げてみたら……」

 教授が子犬を覗き込んだ。

「なるほど……オスに戻っとるな」

「…………!」


 ユウトは自分の表情が凍り付くのを感じた。
 アキラがこれを見て何を思ったのか、気が気でならない焦燥感に襲われる。

「あと……」アキラが付け加えた。

「ご飯、できたんだけど」 
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