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異なる世界

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  ◇◆◇


 歌が聞こえる。

 これは、一面の桜吹雪とあの少女の夢。
 そう言えば、もう何年も見ていなかった。

 いつから? 今更何故……?
 そんな疑問を持ちながらその音源を辿り、ユウトは彼女を探した。


 少し行くと、満開の桜の巨樹に向かって歌を捧げる、少女の姿が見えた。
 長く艶やかな黒髪を靡かせながら、いつものように少女がこちらに気付く。

「ユウト」

 振り返った少女は、以前と同じくその美しい微笑みを投げ掛けてきた。

「約束……忘れないでね」

 台詞も同じ。
 彼女は何も変わらない。

 けれども小さかった少年は、今では少女と同じ年頃になっていた。
 身長は既に彼女のそれを裕に越えている。
 
「会いたかった……」

 今までの均衡は、ユウトのその台詞で破られた。
 とうとう見つけた、そう思った。

 いつもなら、少女に抱き締められて終わっていた夢。
 気が付くと、ユウトの方が彼女を抱きすくめていた。

 こんなにも近くにいるのに、彼女の顔ははっきりとしないまま。
 なのに、胸の奥から湧き上がって来るこの不思議な愛しさは何だろう。

 アキラに対する好意とは違う。
 自分はずっと、この夢の中の少女に恋をしていたのかもしれない。

「約束って何? 君は誰なんだ? こんなに会いたいのに、どうしても夢でしか会えないのか……?」

 噴き出す疑問が、次々言葉の波となってユウトの口を吐いて出る。
 すると、彼女は静かに微笑みながらこう答えた。

「これは桜の巨樹が見せる夢」

「桜……?」


 少女は優しく微笑みながら、ゆっくりと頷いた。 
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