上 下
13 / 20

第13話 文化祭に向けて①

しおりを挟む
 二学期は大きなイベントが二つある。
 一つは体育祭。そして文化祭だ。

 体育祭は強豪である運動部に敵うわけがないので最初から諦めている。せいぜい全力は出し切るつもりではあるが。
 演劇部である僕たちにとって重要なのは文化祭の方。

 文化祭では体育館で劇を行うのが毎年恒例となっている。そこが演劇部の最大の活躍の場となるのだ。

 僕は二年生なので当然、昨年度も参加した。
 モブB役というとんでもなく味気ない役柄ではあったけれど。

「これより、脚本作成を行う部員を募る。希望者は前へ」

 二学期初めての演劇部の活動となる月曜日のこと。

 部室にて、顧問の先生が声を響かせる。
 直後、体育座りしていた生徒たちが一気に立ち上がる音が部室を揺らした。

 前に出たのは五人。
 部長、副部長、その他の三年生の先輩二人、そして僕。

 背後で綾小路が驚きの目で僕を見つめていた。

 せっかくの文化祭、綾小路の前でモブB役しかこなせないのはダサい。だが演技の練習をしても彼ほど上手くなれる可能性など見出せなかった。
 だから僕は考えたのだ。文化祭に少しでも貢献するなら脚本を担当すればいいのではないか、と。

 国語は得意な方だ。文才があるかは自分ではよくわからないが、どうにかなるだろう。

「……五名か。じゃあ、お前たちには各々来週の月曜までに脚本の初稿を書いてきてもらうことにしよう。ジャンルは現代ラブコメディー。その中で最も優れている物を採用する」

 監督の言葉に部長含む四人と共に頷いて、僕は席へ向かって踵を返した。
 さて、どんな脚本を書いてやろうか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――翌日、僕はひどく後悔していた。
 どうにかなるだろう、なんて曖昧な考えをするべきではなかった。

 脚本を書くと名乗り上げてから、帰宅すぐに自室の机に向かい、紙にアイデアを書き殴ってみた。
 しかしろくな話が浮かんでこない。テーマはラブコメ。ラブコメだ。恋愛ものは嫌いではないから、たくさんそういう話を観てきたが、いざ自分が考える側に立ってみると、どう構成していいものかわからないのである。

 ネットで書き方を調べ、それでもわからないので図書館に行ってみて、演劇の脚本というのを改めて学んではみたけれど、一朝一夕で書けるほど簡単ではないようだった。

 頭を悩ませている間に寝落ちしてしまって、朝を迎えていた。
 脚本の進捗は現在ゼロである。

「駿先輩、難しい顔して何してるの?」

「うるさい。今考えてるんだ」

「あー、脚本のこと。何か手伝えることなら言ってよ」

「別にいい」

 ぶっきらぼうな返答をして、ぷいと顔を背ける。
 いつも通り昼休みに綾小路に絡まれたが、いちいち相手をしてやる余裕がないのだ。

「ラブコメなんて単純に考えればいいんじゃない? 主人公と相手の出会いを描いてから関係を深めていって、事件が起こって、それからラストは想いを伝え合ったらエンド。劇の尺はそんなに長くないだろうし」

「……詳しいんだな」

「そう?」

 何が面白いのかくすくすと笑いながら、「楽しみにしてるよ」と綾小路が僕の背を押した。
 彼の手つきはあまりに優しくて、その応援に嘘偽りがないことが伝わってくる。

 だから僕は、無理でも脚本を仕上げなければならない。

 昼休み終わりのチャイムが鳴ったあと、午後の授業なんてほとんど聞いていなかった。考えるのは、新たなネタについてだけだ。

 綾小路が言っていた通りの展開で、しかしそこに一捻りを加えるのはどうだろう。尺はコンパクトに、しかし完成度と満足度は高くなるように。
 アイデアを練って練って固めていき、ようやっと筆を取り、そして――。



 数週間後。
 配役決めのオーディションが行われた。

 メインキャラの大半は演技力が高い部員――主に三年生たち。
 しかしその中で一際輝き、主枠の座を得たのは一年生の男子。すなわち、綾小路である。

「だって、オレのために駿先輩が用意してくれた役だからね」

 僕は採用されなかった。卒業目前で引退となる三年生に花を持たせる意味もあったのだろう。それを押し除けるほどの実力などあるはずもなかった。
 だが、キャラクター同士の関係性を評価され、採用された部長の脚本と一部合体することに。顧問の指導の下、大幅に加筆された原稿は、ストーリーはそのままに複数のキャラクターが差し替えられた。

 その中の一人が綾小路が演じることになる、劇の主人公なのである。
 軽薄な態度でありながら、ミステリアスな笑顔で惑わせるそのキャラは、綾小路をモデルとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

勘違いラブレター

ぽぽ
BL
穏やかな先輩×シスコン後輩 重度のシスコンである創は妹の想い人を知ってしまった。おまけに相手は部活の先輩。二人を引き離そうとしたが、何故か自分が先輩と付き合うことに? ━━━━━━━━━━━━━ 主人公ちょいヤバです。妹の事しか頭に無いですが、先輩も創の事しか頭に無いです。

霧のはし 虹のたもとで

萩尾雅縁
BL
大学受験に失敗した比良坂晃(ひらさかあきら)は、心機一転イギリスの大学へと留学する。 古ぼけた学生寮に嫌気のさした晃は、掲示板のメモからシェアハウスのルームメイトに応募するが……。 ひょんなことから始まった、晃・アルビー・マリーの共同生活。 美貌のアルビーに憧れる晃は、生活に無頓着な彼らに振り回されながらも奮闘する。 一つ屋根の下、徐々に明らかになる彼らの事情。 そして晃の真の目的は? 英国の四季を通じて織り成される、日常系心の旅路。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

処理中です...