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第12話 夏祭りの帰り道と、来たる新学期
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気づけば夏祭りは終わっていた。終わってしまった。
長時間我を忘れて花火に見入ってしまっていたのか、もうすっかり夜遅い時間だった。
「そろそろ帰ろっか」
もう少し色々回りたかった、と思わなくもなかったが、僕は充分過ぎるくらいに夏祭りを満喫させられてしまっていたから不満はなかった。
僕たちは二人、帰途を行く。
祭りの喧騒がまるで嘘のような静寂に包まれながら。
そんな中、綾小路がボソリと呟く。
「また来年も、再来年も、その先もずっと、駿先輩と花火が見たいな」
独り言にも思える声量だったが、どこか祈りが込められた声音に聞こえた。
「……そうか」
僕は頷かない。だって、『また来年』や『その先』なんてあるかどうかわからないから。
それに――。
「なあ。それは、告白ってことなのか」
問いかけの声がわずかに震えてしまう。
僕の思い過ぎなのかも知れない。
思い過ぎであって欲しかった。でも、そんなわけはなくて。
「もしそうだったら君はどうする? どうしたい?」
僕を見下ろし、覗き込んでくる綾小路の楽しげな声が降り注いだ。
挑戦的な態度を隠しもせず、それでいて、どうしようもなく熱を感じる。
「逸れないように」と絡められた指先にはやけに力が込められていた。絶対に離さない、とでも言いたげに。
逃げ出したい。でも逃げ出せない。
怖いのに、逃げ出すことも怖いという不思議な感情に襲われる。
足だけが勝手に動いて、自宅の前に到着する。だが、僕の頭は綾小路のことでいっぱいだ。ドアを開けることすら思いつかずに突っ立ったままになった。
「僕は」
綾小路のエメラルド色の瞳と見つめ合う。
鮮やかな輝きに吸い込まれそうになりながら、掠れる声で、どうにか言葉を紡いだ。
「僕は、お前と友達で居続けたいよ」
「つれない答えだね」
綾小路は小さく笑った。
が、綾小路が嬉しくて笑ったわけではないことがわかって、たまらなく苦しくなる。
でも、それでも。
たとえ軽い冗談であれ彼を喜ばせるためであれ、『僕も好きだ』なんて口にすることは僕には許されないのである。
「じゃあね、駿先輩」
手を振り、僕からそっと手を離す彼を、僕はただただ見つめることしかできない。
家の中に入ることを思い出したのは、すっかり綾小路の背中が見えなくなった頃だった。
楽しくて、懐かしくて、どこか切ない、夏祭りの夜はこうして幕を下ろした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夏祭りが終わってから三週間ほどは、特筆するようなことは何もない。
綾小路が何度か窓から入り込んできたので遊んでやったくらいだろうか。
夏祭りを経たものの、僕たちの関係は目に見えて良くなることも悪化することもなかった。
帰り道での会話は、お互いに祭りの空気に浮かされていたから。僕はそう割り切った。
あれはただの一夏の思い出だ。あれからも普通に友達を続けている。
お盆も特に関係なしに過ごし、遊び耽っている間に、外の空気はすっかり涼しくなっていく。
そして――八月下旬、二学期が始まった。
長時間我を忘れて花火に見入ってしまっていたのか、もうすっかり夜遅い時間だった。
「そろそろ帰ろっか」
もう少し色々回りたかった、と思わなくもなかったが、僕は充分過ぎるくらいに夏祭りを満喫させられてしまっていたから不満はなかった。
僕たちは二人、帰途を行く。
祭りの喧騒がまるで嘘のような静寂に包まれながら。
そんな中、綾小路がボソリと呟く。
「また来年も、再来年も、その先もずっと、駿先輩と花火が見たいな」
独り言にも思える声量だったが、どこか祈りが込められた声音に聞こえた。
「……そうか」
僕は頷かない。だって、『また来年』や『その先』なんてあるかどうかわからないから。
それに――。
「なあ。それは、告白ってことなのか」
問いかけの声がわずかに震えてしまう。
僕の思い過ぎなのかも知れない。
思い過ぎであって欲しかった。でも、そんなわけはなくて。
「もしそうだったら君はどうする? どうしたい?」
僕を見下ろし、覗き込んでくる綾小路の楽しげな声が降り注いだ。
挑戦的な態度を隠しもせず、それでいて、どうしようもなく熱を感じる。
「逸れないように」と絡められた指先にはやけに力が込められていた。絶対に離さない、とでも言いたげに。
逃げ出したい。でも逃げ出せない。
怖いのに、逃げ出すことも怖いという不思議な感情に襲われる。
足だけが勝手に動いて、自宅の前に到着する。だが、僕の頭は綾小路のことでいっぱいだ。ドアを開けることすら思いつかずに突っ立ったままになった。
「僕は」
綾小路のエメラルド色の瞳と見つめ合う。
鮮やかな輝きに吸い込まれそうになりながら、掠れる声で、どうにか言葉を紡いだ。
「僕は、お前と友達で居続けたいよ」
「つれない答えだね」
綾小路は小さく笑った。
が、綾小路が嬉しくて笑ったわけではないことがわかって、たまらなく苦しくなる。
でも、それでも。
たとえ軽い冗談であれ彼を喜ばせるためであれ、『僕も好きだ』なんて口にすることは僕には許されないのである。
「じゃあね、駿先輩」
手を振り、僕からそっと手を離す彼を、僕はただただ見つめることしかできない。
家の中に入ることを思い出したのは、すっかり綾小路の背中が見えなくなった頃だった。
楽しくて、懐かしくて、どこか切ない、夏祭りの夜はこうして幕を下ろした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夏祭りが終わってから三週間ほどは、特筆するようなことは何もない。
綾小路が何度か窓から入り込んできたので遊んでやったくらいだろうか。
夏祭りを経たものの、僕たちの関係は目に見えて良くなることも悪化することもなかった。
帰り道での会話は、お互いに祭りの空気に浮かされていたから。僕はそう割り切った。
あれはただの一夏の思い出だ。あれからも普通に友達を続けている。
お盆も特に関係なしに過ごし、遊び耽っている間に、外の空気はすっかり涼しくなっていく。
そして――八月下旬、二学期が始まった。
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