10 / 20
第10話 チャラ男風後輩とのドキドキ夏祭り①
しおりを挟む
――ねぇ、花火、綺麗だね。
――うん。
どおん、どおん、と花火の音がする。
それはどこか遠くから聞こえているような、近くから響いているような、不思議な感覚だった。
花火の衝撃に体を揺すられながら、僕と、僕を手を繋いでいる小さな少女が語らう。
――ここの花火を一緒に見た好きな人同士は、ずーっと仲良しでいられるってジンクスがあるんだって。素敵だと思わない?
――へぇ~、そんなおまじないみたいなの信じてるんだ。意外。
――ロマンチックだからね。ワタシもそういうのに憧れるお年頃なんだよ。
――それ、自分で言う?
――別に悪いことじゃないもん! ところで、なんだけど……シュンはワタシのこと、好きでしょ。
――…………好きだよ。
――じゃあ、ワタシたち、大きくなったらさ。
少女はキラキラと目を輝かせながら、小さく囁くように何かを言って。
そこで、目が覚めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
蝉の声がうるさい。じりじりとした夏真っ盛り特有の暑さが肌を焼き、不快感にベッドの上で悶えた。
起きて早々だが気分は最悪である。
夏は嫌いだ。でも、夏祭りはもっと嫌いだ。
厭な夢を見た。忘れたくても忘れられなくて、切なさに胸が締め付けられるような思いがする、そんな夢。
今日が夏祭りの日の朝だからだろうか。
「ごめんな」
裏切り続けている彼女に、届くわけもないのに小さく謝罪する。それでも許されることではないだろうけれど。
僕が綾小路と知り合うずっと前、友人だった少女がいた。
けれど彼女とはただの友達ではなくなっていき、夏祭りの時に、約束をしたのだ。
約束をしていたのに。
少女の声も表情も、今となっては朧げになってしまった。
「……そんなことは、今はいい」
問題は今日のことだ。
夏の定番スポットである海も川も山にすら近づきたくない。それが、よりによって夏祭りに行くだなんて。しかも相手が綾小路だなんて、目を背けたくなるような現実だ。
メッセージを送って何度も何度も「別の場所に行かないか」と言ってみた。でも、「絶対楽しいから」と押し切られて、当日に至ってしまった。
僕の気も知らないで。
そもそも、男二人だけで夏祭りに行こうだなんて変じゃないだろうか。さすがに偏見だろうか。
例え可愛い女の子に誘われたとしても断っていただろう。なのにどうして綾小路なんかと行かなければならないのか。
そんな風にぐるぐる思い悩むうち、朝が終わり、昼が過ぎて、刻々とその時が迫ってくる。――そして。
ピンポーン。
高らかに鳴るドアチャイム。
今日の綾小路は正面から来たようだ。
綾小路のように窓から出入りするなどという芸当は僕にはできないので、逃げ場はない。覚悟を決めるしかなかった。
Tシャツの裾を直し、恐る恐るドアを開ける。
扉の向こうにはバッチリ着物を着込んだ上で、いつも通りの茶髪と緑のカラコンというチャラ男風を崩さない綾小路が立っていた。
「それじゃ行こっか……って、駿先輩、なんでTシャツ?」
「着物なんて買ってないし、わざわざ着る必要もないかと思って。というかお前の着物が可愛過ぎて僕は怖い」
「お祭りってのは雰囲気が大事でしょ。着物くらい用意してくれてると思ったのに、駿先輩のおめかし姿を見られなくて残念だなぁ。まあいいけど」
「お前が気合い入れ過ぎなんだよ」
花柄の着物は、一見すると女物と見間違えてしまいそうなほど鮮やかな彩りをしている。ただ、袖の部分や肩幅を見るに、ちゃんと男物を着ているのだとは思うが。
これほど着物姿が様になっている男を他に見たことがない。こんな男にナンパされてしまったら、女の子はひょいひょいついて行ってしまうのではなかろうか。
「ふふっ、もしかして先輩、オレに見惚れちゃってる?」
「見惚れてなんかないに決まってるだろ。誰が見惚れるか馬鹿」
「冗談だよ。……さぁ、早く行こう」
夏祭り、楽しみだね。
そう言ってにっこり笑いかけながら、僕の肩を抱き寄せる綾小路。
されるがままになって、七年ぶりの夏祭りへと繰り出すことになった。
抗えなかったのは「仕方ないな」という諦めと、彼の力が強過ぎたせいだ。
じっとりとした汗混じりの体温を感じて不覚にもドキドキしてしまったからとか、そういうのではない。決して。
――うん。
どおん、どおん、と花火の音がする。
それはどこか遠くから聞こえているような、近くから響いているような、不思議な感覚だった。
花火の衝撃に体を揺すられながら、僕と、僕を手を繋いでいる小さな少女が語らう。
――ここの花火を一緒に見た好きな人同士は、ずーっと仲良しでいられるってジンクスがあるんだって。素敵だと思わない?
――へぇ~、そんなおまじないみたいなの信じてるんだ。意外。
――ロマンチックだからね。ワタシもそういうのに憧れるお年頃なんだよ。
――それ、自分で言う?
――別に悪いことじゃないもん! ところで、なんだけど……シュンはワタシのこと、好きでしょ。
――…………好きだよ。
――じゃあ、ワタシたち、大きくなったらさ。
少女はキラキラと目を輝かせながら、小さく囁くように何かを言って。
そこで、目が覚めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
蝉の声がうるさい。じりじりとした夏真っ盛り特有の暑さが肌を焼き、不快感にベッドの上で悶えた。
起きて早々だが気分は最悪である。
夏は嫌いだ。でも、夏祭りはもっと嫌いだ。
厭な夢を見た。忘れたくても忘れられなくて、切なさに胸が締め付けられるような思いがする、そんな夢。
今日が夏祭りの日の朝だからだろうか。
「ごめんな」
裏切り続けている彼女に、届くわけもないのに小さく謝罪する。それでも許されることではないだろうけれど。
僕が綾小路と知り合うずっと前、友人だった少女がいた。
けれど彼女とはただの友達ではなくなっていき、夏祭りの時に、約束をしたのだ。
約束をしていたのに。
少女の声も表情も、今となっては朧げになってしまった。
「……そんなことは、今はいい」
問題は今日のことだ。
夏の定番スポットである海も川も山にすら近づきたくない。それが、よりによって夏祭りに行くだなんて。しかも相手が綾小路だなんて、目を背けたくなるような現実だ。
メッセージを送って何度も何度も「別の場所に行かないか」と言ってみた。でも、「絶対楽しいから」と押し切られて、当日に至ってしまった。
僕の気も知らないで。
そもそも、男二人だけで夏祭りに行こうだなんて変じゃないだろうか。さすがに偏見だろうか。
例え可愛い女の子に誘われたとしても断っていただろう。なのにどうして綾小路なんかと行かなければならないのか。
そんな風にぐるぐる思い悩むうち、朝が終わり、昼が過ぎて、刻々とその時が迫ってくる。――そして。
ピンポーン。
高らかに鳴るドアチャイム。
今日の綾小路は正面から来たようだ。
綾小路のように窓から出入りするなどという芸当は僕にはできないので、逃げ場はない。覚悟を決めるしかなかった。
Tシャツの裾を直し、恐る恐るドアを開ける。
扉の向こうにはバッチリ着物を着込んだ上で、いつも通りの茶髪と緑のカラコンというチャラ男風を崩さない綾小路が立っていた。
「それじゃ行こっか……って、駿先輩、なんでTシャツ?」
「着物なんて買ってないし、わざわざ着る必要もないかと思って。というかお前の着物が可愛過ぎて僕は怖い」
「お祭りってのは雰囲気が大事でしょ。着物くらい用意してくれてると思ったのに、駿先輩のおめかし姿を見られなくて残念だなぁ。まあいいけど」
「お前が気合い入れ過ぎなんだよ」
花柄の着物は、一見すると女物と見間違えてしまいそうなほど鮮やかな彩りをしている。ただ、袖の部分や肩幅を見るに、ちゃんと男物を着ているのだとは思うが。
これほど着物姿が様になっている男を他に見たことがない。こんな男にナンパされてしまったら、女の子はひょいひょいついて行ってしまうのではなかろうか。
「ふふっ、もしかして先輩、オレに見惚れちゃってる?」
「見惚れてなんかないに決まってるだろ。誰が見惚れるか馬鹿」
「冗談だよ。……さぁ、早く行こう」
夏祭り、楽しみだね。
そう言ってにっこり笑いかけながら、僕の肩を抱き寄せる綾小路。
されるがままになって、七年ぶりの夏祭りへと繰り出すことになった。
抗えなかったのは「仕方ないな」という諦めと、彼の力が強過ぎたせいだ。
じっとりとした汗混じりの体温を感じて不覚にもドキドキしてしまったからとか、そういうのではない。決して。
11
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる