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第1話 チャラ男風後輩との出会い①

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「だって駿先輩……いや、君のことが好きだから」

「――えっ」

「確かに頼れる先輩は他にもいるよ? でも好きなのは君だけだ」

 涼やかな風が吹き抜ける、校舎の屋上。
 風に乗って耳に届いた言葉に、僕は情けない声を漏らしてしまった。

 『君のことが好きだから』なんて台詞、まさか実際に耳にする機会が訪れようとは思ってもみなかった。
 可愛い女の子が言ってくれたのであれば、たとえ突然告げられたとしても喜んでしまっていただろう。告白を受け入れるかどうかは別として。
 ただ、相手は男だった。しかも友人でも何でもない、顔と名前くらいしか知らない後輩である。

 とはいえ一方的な付き合いはあった。彼は僕にしきりに擦り寄ってきていたのだ。
 「どうして僕なんだ? 他にももっと頼れる先輩がいるだろ」と理由を問うてみたところ、今の衝撃発言を浴びせられたのだから、理解不能どころではなかった。

 屋上を囲むフェンスに背中を預ける彼は、天に恵まれたとしか思えない端正な顔立ちを悪戯っぽく笑みの形に歪めている。

 さらさらと揺れる茶髪、おそらく校則違反のカラコンだろう鮮やかな緑の瞳。
 モデルのようなすらりとした長身で線が細い、いかにもモテそうな優男だけれども、好きだなんて言われたところで僕にそういう・・・・趣味はない。
 ないのだが。

 頭一つ分も高いところから向けられる視線は、あまりにまっすぐで。
 呆然とした僕は、どう反応を返していいものかまるでわからなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 彼と知り合ったのは、薄紅の桜が舞い散る春の日のこと。
 僕の所属する演劇部に新入部員としてやって来たのだ。

 この高校は運動部の強豪校である故に、文化系の部を希望する者はそう多くない。
 入部者は毎年二、三人程度しかおらず、ただでさえ注目を浴びることになる。僕も一年前、新入部員だった頃は可愛がられたものである。
 だが、彼は特別だった。

 イケメン俳優が現れたんじゃないか……皆が一瞬本気でそう思ってしまい、部室がざわついた。飛び抜けて身長が高かったのも高校生に見えづらかった一因だろう。
 そしてそんなイケメン俳優と見紛うほどの超絶美形である彼の周りには、同じ一年生と思われる女子たちが三人ほどべったりと侍りついている。彼女らを適当にあしらいながら部室に入ってきた彼は、へらりと笑って言った。

「ここの部活、入らせてもらうんで」

 『入らせてもらってもいいですか?』でも『入部させていただきます』でもなく、決定事項だと言わんばかりの強気さ。新入部員にありがちのおずおずとした様子の欠片もない。
 制服も派手に着崩しているし、いわゆるチャラ男というやつなのだろうと僕は一目で判断した。

 そして――あまり関わりたくないな、と思った。

 特に憧れもなく他に所属できる部活がなかった――厳しすぎる運動部に入りたくなかっただけとも言える――という理由だけで演劇部を選び、部活を続けている僕は、ドのつく陰キャだ。

 グイグイくる陽キャたちはキラキラオーラが眩し過ぎて住む世界が違うと感じさせられてしまうから苦手だし、ましてや見せつけるように女子を侍らせるチャラ男の脳みそは理解できないのだ。

 だからすぐに遠かって、それ以降のことはよく知らない。

 後から小耳に挟んだのだが、彼は演劇部部長にひどく気に入られたらしい。他の新入部員となる生徒たちとは比べようもないくらい贔屓にしていたとか。
 さもありなん、である。演劇部部長は美人のお嬢様で、箱入りで育てられたせいかかなりの面食いである。おそらくは圧倒的な顔の良さに惹かれたのだろう。

 僕はその話を「ふーん」と大した興味もなく聞いていた。

 まさか件の新入部員がしつこく纏わりついてくるなんて思いもしなかったからだ。
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