1 / 20
第1話 チャラ男風後輩との出会い①
しおりを挟む
「だって駿先輩……いや、君のことが好きだから」
「――えっ」
「確かに頼れる先輩は他にもいるよ? でも好きなのは君だけだ」
涼やかな風が吹き抜ける、校舎の屋上。
風に乗って耳に届いた言葉に、僕は情けない声を漏らしてしまった。
『君のことが好きだから』なんて台詞、まさか実際に耳にする機会が訪れようとは思ってもみなかった。
可愛い女の子が言ってくれたのであれば、たとえ突然告げられたとしても喜んでしまっていただろう。告白を受け入れるかどうかは別として。
ただ、相手は男だった。しかも友人でも何でもない、顔と名前くらいしか知らない後輩である。
とはいえ一方的な付き合いはあった。彼は僕にしきりに擦り寄ってきていたのだ。
「どうして僕なんだ? 他にももっと頼れる先輩がいるだろ」と理由を問うてみたところ、今の衝撃発言を浴びせられたのだから、理解不能どころではなかった。
屋上を囲むフェンスに背中を預ける彼は、天に恵まれたとしか思えない端正な顔立ちを悪戯っぽく笑みの形に歪めている。
さらさらと揺れる茶髪、おそらく校則違反のカラコンだろう鮮やかな緑の瞳。
モデルのようなすらりとした長身で線が細い、いかにもモテそうな優男だけれども、好きだなんて言われたところで僕にそういう趣味はない。
ないのだが。
頭一つ分も高いところから向けられる視線は、あまりにまっすぐで。
呆然とした僕は、どう反応を返していいものかまるでわからなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
彼と知り合ったのは、薄紅の桜が舞い散る春の日のこと。
僕の所属する演劇部に新入部員としてやって来たのだ。
この高校は運動部の強豪校である故に、文化系の部を希望する者はそう多くない。
入部者は毎年二、三人程度しかおらず、ただでさえ注目を浴びることになる。僕も一年前、新入部員だった頃は可愛がられたものである。
だが、彼は特別だった。
イケメン俳優が現れたんじゃないか……皆が一瞬本気でそう思ってしまい、部室がざわついた。飛び抜けて身長が高かったのも高校生に見えづらかった一因だろう。
そしてそんなイケメン俳優と見紛うほどの超絶美形である彼の周りには、同じ一年生と思われる女子たちが三人ほどべったりと侍りついている。彼女らを適当にあしらいながら部室に入ってきた彼は、へらりと笑って言った。
「ここの部活、入らせてもらうんで」
『入らせてもらってもいいですか?』でも『入部させていただきます』でもなく、決定事項だと言わんばかりの強気さ。新入部員にありがちのおずおずとした様子の欠片もない。
制服も派手に着崩しているし、いわゆるチャラ男というやつなのだろうと僕は一目で判断した。
そして――あまり関わりたくないな、と思った。
特に憧れもなく他に所属できる部活がなかった――厳しすぎる運動部に入りたくなかっただけとも言える――という理由だけで演劇部を選び、部活を続けている僕は、ドのつく陰キャだ。
グイグイくる陽キャたちはキラキラオーラが眩し過ぎて住む世界が違うと感じさせられてしまうから苦手だし、ましてや見せつけるように女子を侍らせるチャラ男の脳みそは理解できないのだ。
だからすぐに遠かって、それ以降のことはよく知らない。
後から小耳に挟んだのだが、彼は演劇部部長にひどく気に入られたらしい。他の新入部員となる生徒たちとは比べようもないくらい贔屓にしていたとか。
さもありなん、である。演劇部部長は美人のお嬢様で、箱入りで育てられたせいかかなりの面食いである。おそらくは圧倒的な顔の良さに惹かれたのだろう。
僕はその話を「ふーん」と大した興味もなく聞いていた。
まさか件の新入部員がしつこく纏わりついてくるなんて思いもしなかったからだ。
「――えっ」
「確かに頼れる先輩は他にもいるよ? でも好きなのは君だけだ」
涼やかな風が吹き抜ける、校舎の屋上。
風に乗って耳に届いた言葉に、僕は情けない声を漏らしてしまった。
『君のことが好きだから』なんて台詞、まさか実際に耳にする機会が訪れようとは思ってもみなかった。
可愛い女の子が言ってくれたのであれば、たとえ突然告げられたとしても喜んでしまっていただろう。告白を受け入れるかどうかは別として。
ただ、相手は男だった。しかも友人でも何でもない、顔と名前くらいしか知らない後輩である。
とはいえ一方的な付き合いはあった。彼は僕にしきりに擦り寄ってきていたのだ。
「どうして僕なんだ? 他にももっと頼れる先輩がいるだろ」と理由を問うてみたところ、今の衝撃発言を浴びせられたのだから、理解不能どころではなかった。
屋上を囲むフェンスに背中を預ける彼は、天に恵まれたとしか思えない端正な顔立ちを悪戯っぽく笑みの形に歪めている。
さらさらと揺れる茶髪、おそらく校則違反のカラコンだろう鮮やかな緑の瞳。
モデルのようなすらりとした長身で線が細い、いかにもモテそうな優男だけれども、好きだなんて言われたところで僕にそういう趣味はない。
ないのだが。
頭一つ分も高いところから向けられる視線は、あまりにまっすぐで。
呆然とした僕は、どう反応を返していいものかまるでわからなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
彼と知り合ったのは、薄紅の桜が舞い散る春の日のこと。
僕の所属する演劇部に新入部員としてやって来たのだ。
この高校は運動部の強豪校である故に、文化系の部を希望する者はそう多くない。
入部者は毎年二、三人程度しかおらず、ただでさえ注目を浴びることになる。僕も一年前、新入部員だった頃は可愛がられたものである。
だが、彼は特別だった。
イケメン俳優が現れたんじゃないか……皆が一瞬本気でそう思ってしまい、部室がざわついた。飛び抜けて身長が高かったのも高校生に見えづらかった一因だろう。
そしてそんなイケメン俳優と見紛うほどの超絶美形である彼の周りには、同じ一年生と思われる女子たちが三人ほどべったりと侍りついている。彼女らを適当にあしらいながら部室に入ってきた彼は、へらりと笑って言った。
「ここの部活、入らせてもらうんで」
『入らせてもらってもいいですか?』でも『入部させていただきます』でもなく、決定事項だと言わんばかりの強気さ。新入部員にありがちのおずおずとした様子の欠片もない。
制服も派手に着崩しているし、いわゆるチャラ男というやつなのだろうと僕は一目で判断した。
そして――あまり関わりたくないな、と思った。
特に憧れもなく他に所属できる部活がなかった――厳しすぎる運動部に入りたくなかっただけとも言える――という理由だけで演劇部を選び、部活を続けている僕は、ドのつく陰キャだ。
グイグイくる陽キャたちはキラキラオーラが眩し過ぎて住む世界が違うと感じさせられてしまうから苦手だし、ましてや見せつけるように女子を侍らせるチャラ男の脳みそは理解できないのだ。
だからすぐに遠かって、それ以降のことはよく知らない。
後から小耳に挟んだのだが、彼は演劇部部長にひどく気に入られたらしい。他の新入部員となる生徒たちとは比べようもないくらい贔屓にしていたとか。
さもありなん、である。演劇部部長は美人のお嬢様で、箱入りで育てられたせいかかなりの面食いである。おそらくは圧倒的な顔の良さに惹かれたのだろう。
僕はその話を「ふーん」と大した興味もなく聞いていた。
まさか件の新入部員がしつこく纏わりついてくるなんて思いもしなかったからだ。
13
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
勘違いラブレター
ぽぽ
BL
穏やかな先輩×シスコン後輩
重度のシスコンである創は妹の想い人を知ってしまった。おまけに相手は部活の先輩。二人を引き離そうとしたが、何故か自分が先輩と付き合うことに?
━━━━━━━━━━━━━
主人公ちょいヤバです。妹の事しか頭に無いですが、先輩も創の事しか頭に無いです。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる