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第二十六話 夏休み、ライセット公爵家への帰省
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たった数ヶ月離れていただけなのに、なんだかずいぶんと懐かしく思えた。
夏休みが始まって数日。
馬車でひたすら北に進むことしばらく、ライセット公爵領へと戻ってきた。
屋敷の前に馬車が停まると、その音を聞きつけたのか中からずらりとメイドや執事たちが現れ、深々と頭を下げられる。
「「「おかえりなさいませ、アイリーン様」」」
「ただいま。ああ、ようやく戻って来られたって感じね!」
重たいドレス姿のままでくるくると回り、メイドたちの間をすり抜けて邸内へ走り込む。
アイリーンは公爵領に入ってからというものずいぶんとご機嫌だ。
学園からの開放感、帰省できたことの喜びが大きいだろう。
でもそれともう一つ、理由があるらしかった。
二階へ駆け上がって真っ先に向かったのは自室。
……ではなく、その隣の部屋だった。
「ヒューゴ、入るわよ!」
中からの答えも待たずに扉を開ける。
それと同時に部屋の中にいた人物が顔を上げ、青の瞳でこちらを睨んだ。
「――誰かと思えば姉上ですか。相変わらず騒々しい」
彼はアイリーンの弟、公爵令息ヒューゴ・ライセット。
アイリーンとはどうにもソリが合わず、同じ屋敷にいながら必要以上は言葉を交わしたことのない相手だった。
ファブリス王子ほどではないものの、十一歳になった彼はなかなか将来有望な容姿をしている。
性格はアイリーンとは真逆でおとなしく、まさに幼い紳士という感じなのだとか。
……姉に対しては呆れを隠していないようだが。
「何よ。せっかく帰ってきてあげたんだから喜びなさい」
「誰も頼んでいません。ですがよく何事もなくお帰りになれましたねと言っておきます。王子殿下のおかげでしょうか」
「なんだか釈然としない口ぶり……! でも特別に許してあげる。そんなことより」
弟からの嫌味もろくに効かず、にぃっと自信満々に微笑むアイリーン。
そして彼女はずっと言いたくて仕方なかっただろう言葉を叫んだ。
「わたくし、学園で首席になったのよ!」
「嘘を吐いても意味ないですよ」
「まあっ、わたくしの言葉を疑うのね!? 本当なのよ。ファブリス殿下と一緒の点数だったんだから!!」
アイリーンとしては面白くなかっただろう。せっかく自慢しても真面目に取り合ってもらえないのだ。とうとう怒った彼女が突きつけたのは――。
「ほら、見るがいいわ。筆記試験の結果よ!」
その途端ヒューゴが目を見開いた。
それからすぐに血相を変えて部屋を飛び出して行く。
「馬鹿ねぇ。ここまでしないとわたくしを信じないなんて」
アイリーンは少し不満そうに呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヒューゴが慌てて両親を呼んできたらしく、ライセット一家は食堂に集っていた。
時間は昼過ぎだが「口寂しいから何か食べたいわ」とワガママを言ったおかげでテーブルの上には軽食が並べられている。
「本当に本当に本物なのだろうな、この筆記試験の紙は」
「偽造じゃないでしょうね」
(うわあ、ずいぶんな評価ね。でも確かに入学前のアイリーンからは想像もつかないのはすごくわかる。私とファブリス王子とアイリーン自身の並々ならぬ努力があったからこそだもの)
本質的な部分では微塵も変わっていないせいで嘘だとしか思えないのだろうが、事実としてアイリーンは成績優秀者になったのだ。
「本物に決まってるじゃない。勉強もそうだけど、友達だってできたのよ、わたくし」
そう言えばますます家族全員から驚かれる。
アイリーンはここぞとばかりに意気揚々と学園での出来事を語り出した。
勉強のこと以外にも、周囲との交流を深めたこと、ファブリス王子のことなどなど。
軽食をつまみながら、おそらく小一時間ほど話していただろうか。
それを聞き終えたライセット公爵夫妻はなんとも感慨深そうな表情をしていた。
「よくやった。本当によくやったな。これでようやく王子殿下と並び立つほどであればお前を安心して嫁に出せる」
「勉学で王家と同格だと周囲に知らしめた、それはとても良いことです。アイリーン、頑張りましたね」
珍しく――それこそ数年ぶりに褒められたかも知れない。アイリーンはさぞ誇らしかっただろう。
何年同居していようが私にとっては実質他人。それでもずっと心配と迷惑をかけてばかりだったので、様々な朗報を持ち帰れて良かったと思った。
「でもやっぱり姉上、淑女らしさの欠片もないままみたいじゃないですか。ダメダメなのは一緒なんじゃ……」
「ふん、うるさいわねヒューゴ。今はわたくしの方が賢いのをお忘れかしら?」
「調子に乗ってられるのも今のうちです。勉強もきっと姉上をもう一度追い抜かしてみせますよ」
挑発し合い、バチバチと火花を散らす姉弟は置いておくとして。
とりあえず土産話はできた。あとはこの二ヶ月間の休暇をどうにか乗り切るべく、休めるだけ休むだけ。
軽食も終わったことだし久々にアイリーンの自室のふかふかなベッドで横になりたい。
今日か、長くても明日くらいしかのんびりしていられないだろうから。
夏休みが始まって数日。
馬車でひたすら北に進むことしばらく、ライセット公爵領へと戻ってきた。
屋敷の前に馬車が停まると、その音を聞きつけたのか中からずらりとメイドや執事たちが現れ、深々と頭を下げられる。
「「「おかえりなさいませ、アイリーン様」」」
「ただいま。ああ、ようやく戻って来られたって感じね!」
重たいドレス姿のままでくるくると回り、メイドたちの間をすり抜けて邸内へ走り込む。
アイリーンは公爵領に入ってからというものずいぶんとご機嫌だ。
学園からの開放感、帰省できたことの喜びが大きいだろう。
でもそれともう一つ、理由があるらしかった。
二階へ駆け上がって真っ先に向かったのは自室。
……ではなく、その隣の部屋だった。
「ヒューゴ、入るわよ!」
中からの答えも待たずに扉を開ける。
それと同時に部屋の中にいた人物が顔を上げ、青の瞳でこちらを睨んだ。
「――誰かと思えば姉上ですか。相変わらず騒々しい」
彼はアイリーンの弟、公爵令息ヒューゴ・ライセット。
アイリーンとはどうにもソリが合わず、同じ屋敷にいながら必要以上は言葉を交わしたことのない相手だった。
ファブリス王子ほどではないものの、十一歳になった彼はなかなか将来有望な容姿をしている。
性格はアイリーンとは真逆でおとなしく、まさに幼い紳士という感じなのだとか。
……姉に対しては呆れを隠していないようだが。
「何よ。せっかく帰ってきてあげたんだから喜びなさい」
「誰も頼んでいません。ですがよく何事もなくお帰りになれましたねと言っておきます。王子殿下のおかげでしょうか」
「なんだか釈然としない口ぶり……! でも特別に許してあげる。そんなことより」
弟からの嫌味もろくに効かず、にぃっと自信満々に微笑むアイリーン。
そして彼女はずっと言いたくて仕方なかっただろう言葉を叫んだ。
「わたくし、学園で首席になったのよ!」
「嘘を吐いても意味ないですよ」
「まあっ、わたくしの言葉を疑うのね!? 本当なのよ。ファブリス殿下と一緒の点数だったんだから!!」
アイリーンとしては面白くなかっただろう。せっかく自慢しても真面目に取り合ってもらえないのだ。とうとう怒った彼女が突きつけたのは――。
「ほら、見るがいいわ。筆記試験の結果よ!」
その途端ヒューゴが目を見開いた。
それからすぐに血相を変えて部屋を飛び出して行く。
「馬鹿ねぇ。ここまでしないとわたくしを信じないなんて」
アイリーンは少し不満そうに呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヒューゴが慌てて両親を呼んできたらしく、ライセット一家は食堂に集っていた。
時間は昼過ぎだが「口寂しいから何か食べたいわ」とワガママを言ったおかげでテーブルの上には軽食が並べられている。
「本当に本当に本物なのだろうな、この筆記試験の紙は」
「偽造じゃないでしょうね」
(うわあ、ずいぶんな評価ね。でも確かに入学前のアイリーンからは想像もつかないのはすごくわかる。私とファブリス王子とアイリーン自身の並々ならぬ努力があったからこそだもの)
本質的な部分では微塵も変わっていないせいで嘘だとしか思えないのだろうが、事実としてアイリーンは成績優秀者になったのだ。
「本物に決まってるじゃない。勉強もそうだけど、友達だってできたのよ、わたくし」
そう言えばますます家族全員から驚かれる。
アイリーンはここぞとばかりに意気揚々と学園での出来事を語り出した。
勉強のこと以外にも、周囲との交流を深めたこと、ファブリス王子のことなどなど。
軽食をつまみながら、おそらく小一時間ほど話していただろうか。
それを聞き終えたライセット公爵夫妻はなんとも感慨深そうな表情をしていた。
「よくやった。本当によくやったな。これでようやく王子殿下と並び立つほどであればお前を安心して嫁に出せる」
「勉学で王家と同格だと周囲に知らしめた、それはとても良いことです。アイリーン、頑張りましたね」
珍しく――それこそ数年ぶりに褒められたかも知れない。アイリーンはさぞ誇らしかっただろう。
何年同居していようが私にとっては実質他人。それでもずっと心配と迷惑をかけてばかりだったので、様々な朗報を持ち帰れて良かったと思った。
「でもやっぱり姉上、淑女らしさの欠片もないままみたいじゃないですか。ダメダメなのは一緒なんじゃ……」
「ふん、うるさいわねヒューゴ。今はわたくしの方が賢いのをお忘れかしら?」
「調子に乗ってられるのも今のうちです。勉強もきっと姉上をもう一度追い抜かしてみせますよ」
挑発し合い、バチバチと火花を散らす姉弟は置いておくとして。
とりあえず土産話はできた。あとはこの二ヶ月間の休暇をどうにか乗り切るべく、休めるだけ休むだけ。
軽食も終わったことだし久々にアイリーンの自室のふかふかなベッドで横になりたい。
今日か、長くても明日くらいしかのんびりしていられないだろうから。
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