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第二十四話 初めての膝枕
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「どうして一緒なのよ!!」
「でもすごいことだよ。他のクラスにも僕らより優秀な成績の生徒はいなかったようだから、僕とアイリーンが学年で一番、首席を取れたんだ」
「でもなんか釈然としないわ……!」
成績発表のなされた教室を出て学園の廊下を歩きながら、アイリーンは悔しそうに叫んでいた。
あれほど頑張った筆記試験の結果、それはなんとも言えないものだった。
主席であったことを誇りに思うべきなのか、肩を並べられたことを喜ぶべきなのか、それともファブリス王子を超えられなかったことを悔しがるべきなのかはわからない。
(二人とも一問とも間違い。それさえ正解していれば……。本当に惜しい。でも)
アイリーンは本当に頑張った。その事実が変わらないのは確かだ。
今はファブリス王子の前なので口にできないが、あとで存分におめでとうと褒めてあげたい。
そんなことを考えていた時だった。ファブリス王子が思わぬことを言い出したのは。
「せっかく頑張ったんだ、ご褒美は何がいい?」
「ご褒美、ねぇ。ファブリス殿下にしては珍しく結構気の利いたこと言うじゃない!」
ご褒美。それを提案したファブリス王子も意外だったが、何より驚いたのはアイリーンの反応だ。
物で釣るのは無理だと真っ先に諦めたというのにそれに食いつくなんて。
(……もしかして成長して何か欲しいものでもできたの!?)
でも思い当たるものは何もない。公爵令嬢とだけあって大体何でも手に入ってしまうし、そうでなければ自分で手に入れてしまうのが彼女だから。
故に、アイリーンが要求したのは物ではなかった。
「疲れたからちょっと枕代わりになってくれない? 一度やってみたかったのよね、ファブリス殿下のお膝って感触がいいから」
――。
――――え?
ファブリス王子も数秒間呆けた顔をしていた。
「何よ。膝枕、知らないの?」
「……知ってるよ。ただ、君がそんなことを言うなんて思わなくて」
私もまったくの同意だ。
確かに筆記試験に向けての勉強の中、彼女が読んでいた古典文学の中で膝枕のシーンが登場していた。
しかしそれを実践しようとするとは、さらにはそれをご褒美に欲しいと言うとは誰が想像できただろうか。
「知ってるならできるでしょ。場所は……そうね、いつものところ。いいわね?」
「う、うん」
王子は明らかに緊張していた。
無理もない。私だって膝枕の絵面を想像するだけで羞恥心のような何とも言えない感情が込み上げてくるのだから。
ケロッとしているのはアイリーンただ一人。
彼女は「そうと決まれば早く行くわよ!」と駆け出したのだった。
その足取りは、いつもよりわずかに、ほんのわずかに弾んでいるように思えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
すぐそこにファブリス王子の顔面がある。
絶世の美少年と呼ばずにはいられない、最高に整ったその顔面が。
吸い込まれそうになる青い瞳と見つめ合う。彼の吐息が頬にかかってこそばゆい。
そして後頭部は、程々な硬さで心地良い太ももの上に乗せられていた。
(これは……! これはやばい。やば過ぎる……!!)
語彙力が吹っ飛んでしまうほど、とにかくやばい。
人生初の膝枕。ドキドキせずにはいられず、心臓の鼓動が外に漏れ聞こえそうなほどだった。
「どうかな?」
少し不安そうに問いかけられる。
その声に優しく鼓膜をくすぐられて「ひゃっ」と声が出そうになるのをどうにか堪えた。
「安心なさい、なかなかいいわよ」
「良かった……」
和やかな空気の中、なんだか私だけが置いてきぼりだ。
どうしてアイリーンが平静でいられるのか理解しかねた。普通、乙女ならばもっとときめくものだろう。これがどうして落ち着いていられるのか。
そのうちに彼女はやがて目を閉じ、すやすやと眠ってしまった。
勉強に次ぐ勉強の日々だったから疲れていて当然だ。わかっている。確かにファブリス王子の膝枕は気持ちいい。でも――。
私を残して勝手に寝られては困ってしまう。
一体どうやってこの状況を乗り切ればいいのだろうか。そもそもこれはアイリーンへのご褒美であって、私はあまり関係ないのにと申し訳なくなる。
けれど寝たふりを決め込むのはなんだかもったいない気がして、瞼を開けた。
再び絡まる視線。思わず頬が高揚してしまう。
見ただけでわかるほどだったのか、ファブリス王子に心配されてしまった。
「顔が赤い。疲れて熱が出たりしてないかい?」
「だ、大丈夫。ただちょっと、顔が近いから」
恥ずかしいとはさすがに言葉にできない。
それでもきちんと伝わったらしく「僕もだよ」と柔らかく微笑みながら言われた。
(――っ!!)
またしても威力がすごい。こんな至近距離でイケメンの笑顔を見せられてさらに顔の赤みが増してしまった気がする。
どうにか誤魔化さなければ。しどろもどろながら話題を変える。
「ファブリス王子、あの、その……ありがとう。勉強会付き合ってくれたのに、ご褒美までしてくれて」
「お礼を言いたいのは僕の方だよ。君のおかげで張り合いができた。今まで王子だからっていう理由で勉強してきたせいかな……いつになく楽しかったんだ」
「そう。それは良かったわね」
ファブリス王子には迷惑かけてばかりだった気がするが、そう言ってもらえて安心した。
というかますます笑顔が眩しくなっている。やばい。
「また次の筆記試験も一緒に勉強しよう、アイリーン」
「もちろんよ。頑張って勉強させる……じゃなかった、勉強するわ」
「楽しみにしてるよ」
アイリーンが目覚めたらこの会話のことを教えてあげないと――。
そう思いながら私は、もはやファブリス王子の顔に視線が釘付けだ。申し訳なさなど吹き飛んで、今だけだからとファブリス王子との会話と膝枕の感触を心ゆくまで味わうことにした。
「でもすごいことだよ。他のクラスにも僕らより優秀な成績の生徒はいなかったようだから、僕とアイリーンが学年で一番、首席を取れたんだ」
「でもなんか釈然としないわ……!」
成績発表のなされた教室を出て学園の廊下を歩きながら、アイリーンは悔しそうに叫んでいた。
あれほど頑張った筆記試験の結果、それはなんとも言えないものだった。
主席であったことを誇りに思うべきなのか、肩を並べられたことを喜ぶべきなのか、それともファブリス王子を超えられなかったことを悔しがるべきなのかはわからない。
(二人とも一問とも間違い。それさえ正解していれば……。本当に惜しい。でも)
アイリーンは本当に頑張った。その事実が変わらないのは確かだ。
今はファブリス王子の前なので口にできないが、あとで存分におめでとうと褒めてあげたい。
そんなことを考えていた時だった。ファブリス王子が思わぬことを言い出したのは。
「せっかく頑張ったんだ、ご褒美は何がいい?」
「ご褒美、ねぇ。ファブリス殿下にしては珍しく結構気の利いたこと言うじゃない!」
ご褒美。それを提案したファブリス王子も意外だったが、何より驚いたのはアイリーンの反応だ。
物で釣るのは無理だと真っ先に諦めたというのにそれに食いつくなんて。
(……もしかして成長して何か欲しいものでもできたの!?)
でも思い当たるものは何もない。公爵令嬢とだけあって大体何でも手に入ってしまうし、そうでなければ自分で手に入れてしまうのが彼女だから。
故に、アイリーンが要求したのは物ではなかった。
「疲れたからちょっと枕代わりになってくれない? 一度やってみたかったのよね、ファブリス殿下のお膝って感触がいいから」
――。
――――え?
ファブリス王子も数秒間呆けた顔をしていた。
「何よ。膝枕、知らないの?」
「……知ってるよ。ただ、君がそんなことを言うなんて思わなくて」
私もまったくの同意だ。
確かに筆記試験に向けての勉強の中、彼女が読んでいた古典文学の中で膝枕のシーンが登場していた。
しかしそれを実践しようとするとは、さらにはそれをご褒美に欲しいと言うとは誰が想像できただろうか。
「知ってるならできるでしょ。場所は……そうね、いつものところ。いいわね?」
「う、うん」
王子は明らかに緊張していた。
無理もない。私だって膝枕の絵面を想像するだけで羞恥心のような何とも言えない感情が込み上げてくるのだから。
ケロッとしているのはアイリーンただ一人。
彼女は「そうと決まれば早く行くわよ!」と駆け出したのだった。
その足取りは、いつもよりわずかに、ほんのわずかに弾んでいるように思えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
すぐそこにファブリス王子の顔面がある。
絶世の美少年と呼ばずにはいられない、最高に整ったその顔面が。
吸い込まれそうになる青い瞳と見つめ合う。彼の吐息が頬にかかってこそばゆい。
そして後頭部は、程々な硬さで心地良い太ももの上に乗せられていた。
(これは……! これはやばい。やば過ぎる……!!)
語彙力が吹っ飛んでしまうほど、とにかくやばい。
人生初の膝枕。ドキドキせずにはいられず、心臓の鼓動が外に漏れ聞こえそうなほどだった。
「どうかな?」
少し不安そうに問いかけられる。
その声に優しく鼓膜をくすぐられて「ひゃっ」と声が出そうになるのをどうにか堪えた。
「安心なさい、なかなかいいわよ」
「良かった……」
和やかな空気の中、なんだか私だけが置いてきぼりだ。
どうしてアイリーンが平静でいられるのか理解しかねた。普通、乙女ならばもっとときめくものだろう。これがどうして落ち着いていられるのか。
そのうちに彼女はやがて目を閉じ、すやすやと眠ってしまった。
勉強に次ぐ勉強の日々だったから疲れていて当然だ。わかっている。確かにファブリス王子の膝枕は気持ちいい。でも――。
私を残して勝手に寝られては困ってしまう。
一体どうやってこの状況を乗り切ればいいのだろうか。そもそもこれはアイリーンへのご褒美であって、私はあまり関係ないのにと申し訳なくなる。
けれど寝たふりを決め込むのはなんだかもったいない気がして、瞼を開けた。
再び絡まる視線。思わず頬が高揚してしまう。
見ただけでわかるほどだったのか、ファブリス王子に心配されてしまった。
「顔が赤い。疲れて熱が出たりしてないかい?」
「だ、大丈夫。ただちょっと、顔が近いから」
恥ずかしいとはさすがに言葉にできない。
それでもきちんと伝わったらしく「僕もだよ」と柔らかく微笑みながら言われた。
(――っ!!)
またしても威力がすごい。こんな至近距離でイケメンの笑顔を見せられてさらに顔の赤みが増してしまった気がする。
どうにか誤魔化さなければ。しどろもどろながら話題を変える。
「ファブリス王子、あの、その……ありがとう。勉強会付き合ってくれたのに、ご褒美までしてくれて」
「お礼を言いたいのは僕の方だよ。君のおかげで張り合いができた。今まで王子だからっていう理由で勉強してきたせいかな……いつになく楽しかったんだ」
「そう。それは良かったわね」
ファブリス王子には迷惑かけてばかりだった気がするが、そう言ってもらえて安心した。
というかますます笑顔が眩しくなっている。やばい。
「また次の筆記試験も一緒に勉強しよう、アイリーン」
「もちろんよ。頑張って勉強させる……じゃなかった、勉強するわ」
「楽しみにしてるよ」
アイリーンが目覚めたらこの会話のことを教えてあげないと――。
そう思いながら私は、もはやファブリス王子の顔に視線が釘付けだ。申し訳なさなど吹き飛んで、今だけだからとファブリス王子との会話と膝枕の感触を心ゆくまで味わうことにした。
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