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第四章

37:夜、テラスにて

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「――ダーム殿、どうされたのですか?」

 まるでタイミングを見計らったように声がしたので、ダームは思わず「わあ」と声を上げてしまった。
 振り返るとそこには、メンヒの姿がある。

「そ、僧侶くん!?」

「驚かせるつもりはなかったのですが、申し訳ありません。ちょっと、いいですか?」

 遠慮がちにこちらへ寄ってくる少年。魔法使いはそれを快く受け入れた。

「僧侶くんも何か考え事?」

「いえ僕は。部屋で夜のお祈りをしておりましたら、ダーム殿がテラスにいらっしゃるのが見えてどうしたのかな、と」

「ふーん」と頷き、ダームはメンヒの方を見た。きっと昼のこともあり、心配してくれているのだろう。
 本当なら、今すぐにでも彼に全てをぶちまけてしまいたい。でもダームにはそれができなかった。

 メンヒはこの問題とは全く無関係の人間だ。もし何か迷惑をかけてしまってはいけない。最悪、牢屋にぶち込まれるようなことだってあるかも知れないのだから。

「あたしのことは大丈夫だよ。ちょっと夜風に当たってただけだから」

 軽く誤魔化して、笑って見せた。
 しかし。

「無理をする必要は、僕はないと思いますよ」

「――へ?」

 真剣な顔でそう言われ、ダームは思わず変な声を漏らしてしまった。
 ダームを黒い瞳でじっと見つめて、メンヒが言う。

「ダーム殿は大丈夫だとおっしゃいましたが、僕にはそうは見えません。ダーム殿はいつもお強いのは存じ上げております。でも、笑顔が引き攣っていますよ」

 指摘され、ダームは初めて気がついた。
 自分の浮かべている笑顔が、実は今にも泣きそうな、そんな表情であることに。

「こ、これは違うの。ちょっと。だから」

「慌てなくても大丈夫ですよ。何か悩みがあるのでしたら、僕に言っては頂けないでしょうか」

「う」とまた漏れる声。
 いくら隠そうとしても、賢い彼には全てお見通しなのだ。そう思い体が強張る感覚を覚えた。

「ごめん。でも僧侶くんに言ったらダメなの。あたしが解決しなくちゃいけない問題で……」

「差し出がましいようですが。一人で抱え込む必要はないと思います。僕に手伝えることなら、手伝わせてほしいくらいなんですから」

 驚いた。
 彼の目は真剣そのものだったから。
 ダームはなんと言っていいのかわからなくなり、震える声で訊いてみた。

「ねえ。僧侶くんはどうしてそんなに言ってくれるの?」

 夜のテラスにびゅうとひときわ強い風が吹き込み、ダームの髪を揺らした。
 そのまましばしの間静寂が落ちる。たった数秒のそれが、とても長く感じられた。

 そして――。

「決まっています。それは僕が、ダーム殿に救われたからです」

 彼は微笑んで、そう言ったのだった。
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