4 / 20
4:公爵令嬢と聖女、休戦協定を結ぶ。
しおりを挟む
どうしてスペンサー様はあたくしを見捨て、あんな女を選んだんでしょう。
スペンサー様にベタ惚れで尻尾を振りまくっていたダコタならともかく、あの泥棒猫はスペンサー様と話しているところを見たことがありませんのに。
泥棒猫の名前は確かダスティー。
没落子爵の娘で、クズ令嬢だなんて呼ばれている女ですわね。あたくし、あまりに興味がないので噂しか存じ上げませんが。
「あんな美貌も学歴もないゴミクズにどうして……! 私はこんなにもあなたを愛しているのにぃぃぃぃぃ!」
歯を食いしばりながらあたくしは、ベッドに顔を埋めておりましたの。
泣き叫ぶなどとはしたないことは致しませんが、スペンサー殿下とあの女がイチャイチャしているところを見たくないものですから、ただ今休学中ですの。その間中ずっと腹が立ってしまって、もう荒れまくりなのですわ。
呪ってやるぅ。あの女、絶対に呪い殺してやりますわよっ。
でもそんな力、もちろんあたくしにはございませんわ。
いずれは学園に復帰しなければならないでしょう。そしてスペンサー様に冷たい目で見られるに決まっています。
耐えきれませんわ。
婚約破棄された女としてあたくしは嗤われるでしょう。あたくしは孤立無援になり、誰も買い手がつかない『傷物』になってしまうのですわ。
……いっそのこと、死んでしまおうかしら。
ふとそんなことを思いついた時、あたくしの部屋をノックする者が現れましたの。
顔を上げて扉の方を睨みつけると、返事もしていないのに扉がスゥーっと開きましたわ。
「ヤッホー、遊びに来ちゃった」
そこに立っていたのは、ピンクブロンドの髪を揺らす少女――聖女ダコタでしたのよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうしてあなたがここに」
あたくしの宿敵と言っても過言ではない女が、あたくしの屋敷に乗り込んで来た。
それを悟った時、あたくしは表情を固くなりました。
ダコタ。
彼女は元平民でありながら聖女の力を持ち、協会のバックアップを受けて貴族学園に堂々と入学した『成り上がり』娘ですわ。
ピンク髪で小動物のような愛らしさがあり、幼女趣味の男衆に大人気でしたわ。
まずは彼女が何用でここまでいらしたのか詰問しなければなりませんわ。
公爵家に勝手に足を踏み入れたとなればそれは不法侵入罪。厳しく罰しませんとね?
「あなた、誰に断って来たんですの?」
「リーズ様のお身体の様子を見に、かな? 公爵さんに頼まれてわざわざ来たんだよ? そんな顔されるのは心外だなあ」
お父様が?
ああ、でも確かに。これだけ部屋にこもっていれば心配されるのも当然ですわよね。引きこもっている名目は「体の不調」。聖女を呼ぶのもある意味納得ですわ。
……しかし少なくともダコタの意向が含まれているには違いありませんけれど。
あたくしはそっと顔を拭うと、静かに問いかけました。
「あなた、あたくしに何の話がありますの? もしよろしければ聞かせてくださいな」
「おやおや、ダコタがお話をしに来たと思ってるの? まあでも『治療のついで』に付き合ってあげてもいいよ?」
ダコタの、平民らしい下品な笑み。
本来歯を見せてニヤニヤするのは、貴族であれば打たれても何の不思議もないほどの無礼なのだけれど……、普段は注意するそれも今はどうでもいいですわ。
「なら、『ついで』でお聞かせ願えますかしら」
あたくしたちは治療のふりをしながら、話し始めましたの。
「……ってことで、休戦協定を結ぼうと思ってね」
「休戦協定、ですの。それはいい考えですわね」
今までライバル同士であったあたくしたち二人。
しかしそこに横槍が入ったことにより、協力しようということになったわけですわ。
「リーズ様は王子様を奪ったあいつが憎いんでしょ? ダコタもそう。王子様のことを絶対諦め切れないもん」
「……当然ですわ。あんなゴミクズに渡してはやりませんわよ」
あたくしたちの意見は、初めて一致いたしました。
今まで些細なことで争い、いがみ合ってましたけれど、今は少し休戦。なんとしてもあのゴミクズ――ダスティー子爵令嬢を陥れ、スペンサー殿下から引っぺがすのですわ!
「じゃあよろしくね、リーズ様」
「スペンサー殿下のためならあなたと組むことも厭いませんわ。せいぜい力になりなさい、ダコタ」
公爵令嬢と聖女。
あのクズ令嬢より身分はずっと格上。そんなあたくしどもの手にかかれば、あんなクズ令嬢は屁でもありませんわよ。
必ず彼女を泣かせ、二度と口を利けなくなるほどに心をへし折ってやりましょう。
そうと決まればじっとしている場合ではありませんわね。
学園を卒業する半年後までの間に、必ずスペンサー殿下を取り返す。
見てなさいよゴミクズ。お前を本当のゴミに変えて差し上げますわ! ほほほほほ!」
「まさに悪役だね。まあダコタもだけど」
あたくしどもは意地悪に微笑み合い、初の握手を交わしたのですわ。
スペンサー様にベタ惚れで尻尾を振りまくっていたダコタならともかく、あの泥棒猫はスペンサー様と話しているところを見たことがありませんのに。
泥棒猫の名前は確かダスティー。
没落子爵の娘で、クズ令嬢だなんて呼ばれている女ですわね。あたくし、あまりに興味がないので噂しか存じ上げませんが。
「あんな美貌も学歴もないゴミクズにどうして……! 私はこんなにもあなたを愛しているのにぃぃぃぃぃ!」
歯を食いしばりながらあたくしは、ベッドに顔を埋めておりましたの。
泣き叫ぶなどとはしたないことは致しませんが、スペンサー殿下とあの女がイチャイチャしているところを見たくないものですから、ただ今休学中ですの。その間中ずっと腹が立ってしまって、もう荒れまくりなのですわ。
呪ってやるぅ。あの女、絶対に呪い殺してやりますわよっ。
でもそんな力、もちろんあたくしにはございませんわ。
いずれは学園に復帰しなければならないでしょう。そしてスペンサー様に冷たい目で見られるに決まっています。
耐えきれませんわ。
婚約破棄された女としてあたくしは嗤われるでしょう。あたくしは孤立無援になり、誰も買い手がつかない『傷物』になってしまうのですわ。
……いっそのこと、死んでしまおうかしら。
ふとそんなことを思いついた時、あたくしの部屋をノックする者が現れましたの。
顔を上げて扉の方を睨みつけると、返事もしていないのに扉がスゥーっと開きましたわ。
「ヤッホー、遊びに来ちゃった」
そこに立っていたのは、ピンクブロンドの髪を揺らす少女――聖女ダコタでしたのよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうしてあなたがここに」
あたくしの宿敵と言っても過言ではない女が、あたくしの屋敷に乗り込んで来た。
それを悟った時、あたくしは表情を固くなりました。
ダコタ。
彼女は元平民でありながら聖女の力を持ち、協会のバックアップを受けて貴族学園に堂々と入学した『成り上がり』娘ですわ。
ピンク髪で小動物のような愛らしさがあり、幼女趣味の男衆に大人気でしたわ。
まずは彼女が何用でここまでいらしたのか詰問しなければなりませんわ。
公爵家に勝手に足を踏み入れたとなればそれは不法侵入罪。厳しく罰しませんとね?
「あなた、誰に断って来たんですの?」
「リーズ様のお身体の様子を見に、かな? 公爵さんに頼まれてわざわざ来たんだよ? そんな顔されるのは心外だなあ」
お父様が?
ああ、でも確かに。これだけ部屋にこもっていれば心配されるのも当然ですわよね。引きこもっている名目は「体の不調」。聖女を呼ぶのもある意味納得ですわ。
……しかし少なくともダコタの意向が含まれているには違いありませんけれど。
あたくしはそっと顔を拭うと、静かに問いかけました。
「あなた、あたくしに何の話がありますの? もしよろしければ聞かせてくださいな」
「おやおや、ダコタがお話をしに来たと思ってるの? まあでも『治療のついで』に付き合ってあげてもいいよ?」
ダコタの、平民らしい下品な笑み。
本来歯を見せてニヤニヤするのは、貴族であれば打たれても何の不思議もないほどの無礼なのだけれど……、普段は注意するそれも今はどうでもいいですわ。
「なら、『ついで』でお聞かせ願えますかしら」
あたくしたちは治療のふりをしながら、話し始めましたの。
「……ってことで、休戦協定を結ぼうと思ってね」
「休戦協定、ですの。それはいい考えですわね」
今までライバル同士であったあたくしたち二人。
しかしそこに横槍が入ったことにより、協力しようということになったわけですわ。
「リーズ様は王子様を奪ったあいつが憎いんでしょ? ダコタもそう。王子様のことを絶対諦め切れないもん」
「……当然ですわ。あんなゴミクズに渡してはやりませんわよ」
あたくしたちの意見は、初めて一致いたしました。
今まで些細なことで争い、いがみ合ってましたけれど、今は少し休戦。なんとしてもあのゴミクズ――ダスティー子爵令嬢を陥れ、スペンサー殿下から引っぺがすのですわ!
「じゃあよろしくね、リーズ様」
「スペンサー殿下のためならあなたと組むことも厭いませんわ。せいぜい力になりなさい、ダコタ」
公爵令嬢と聖女。
あのクズ令嬢より身分はずっと格上。そんなあたくしどもの手にかかれば、あんなクズ令嬢は屁でもありませんわよ。
必ず彼女を泣かせ、二度と口を利けなくなるほどに心をへし折ってやりましょう。
そうと決まればじっとしている場合ではありませんわね。
学園を卒業する半年後までの間に、必ずスペンサー殿下を取り返す。
見てなさいよゴミクズ。お前を本当のゴミに変えて差し上げますわ! ほほほほほ!」
「まさに悪役だね。まあダコタもだけど」
あたくしどもは意地悪に微笑み合い、初の握手を交わしたのですわ。
0
お気に入りに追加
388
あなたにおすすめの小説
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~
咲桜りおな
恋愛
四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。
記憶が戻ったのは五歳の時で、
翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており
その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、
自分が公爵家の令嬢である事、
王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、
何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、
そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると……
どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。
これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく
悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って
翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に
避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。
そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが
腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。
そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。
悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと
最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆
世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。
記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。
せいめ
恋愛
婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。
そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。
前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。
そうだ!家を出よう。
しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。
目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?
豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。
金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!
しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?
えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!
ご都合主義です。内容も緩いです。
誤字脱字お許しください。
義兄の話が多いです。
閑話も多いです。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
妹に裏切られて稀代の悪女にされてしまったので、聖女ですけれどこの国から逃げます
辺野夏子
恋愛
聖女アリアが50年に及ぶ世界樹の封印から目覚めると、自分を裏切った妹・シェミナが国の実権を握り聖女としてふるまっており、「アリアこそが聖女シェミナを襲い、自ら封印された愚かな女である」という正反対の内容が真実とされていた。聖女の力を狙うシェミナと親族によって王子の婚約者にしたてあげられ、さらに搾取されようとするアリアはかつての恋人・エディアスの息子だと名乗る神官アルフォンスの助けを得て、腐敗した国からの脱出を試みる。
姉妹格差によりすべてを奪われて時の流れに置き去りにされた主人公が、新しい人生をやり直しておさまるところにおさまる話です。
「小説家になろう」では完結しています。
魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる
橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。
十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。
途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。
それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。
命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。
孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます!
※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。
「悲劇の悪役令嬢」と呼ばれるはずだった少女は王太子妃に望まれる
冬野月子
恋愛
家族による虐待から救い出された少女は、前世の記憶を思い出しここがゲームの世界だと知った。
王太子妃を選ぶために貴族令嬢達が競い合うゲームの中で、自分は『悲劇の悪役令嬢』と呼ばれる、実の妹に陥れられ最後は自害するという不幸な結末を迎えるキャラクター、リナだったのだ。
悲劇の悪役令嬢にはならない、そう決意したリナが招集された王太子妃選考会は、ゲームとは異なる思惑が入り交わっていた。
お妃になるつもりがなかったリナだったが、王太子や周囲からはお妃として認められ、望まれていく。
※小説家になろうにも掲載しています。
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる