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2日目
1(2)「クローズドサークル」
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杭原さんは全員を見渡せる位置まで移動した。
「あたしの師匠……いえ、あたしの兄はこの白生塔で殺された」
これには皆が多かれ少なかれ動揺した様子だった。
杭原さんは口調こそ淡々としているが、その表情には怒りと苦しみが滲んでいる。
「三年前よ。兄は突然、行方不明になった。最後に会ったとき、兄はあたしに話していたわ。獅子谷氏に招待され、白生塔に行くんだって。兄は白生塔に行ったきり、消えてしまったの。あたしは獅子谷氏に事情を訊こうと思って彼の居所を調べた。でも作家を引退すると同時に隠居生活に入った獅子谷氏もまた、完全に行方をくらませていたの。あたしが死力を尽くしても、彼を探し出すことはできなかった。この塔にも何度も出向いたわ。だけど無駄足に終わった。あたしは闇探偵として着実に仕事をこなして、去年にこの琴乃を弟子に取っても、ずっと兄に何があったのかを突きとめようと調査は継続してた。そして二ヵ月前、あたしのもとに一通の手紙が届いた。此処への招待状よ。震え上がったわ。これ以上ないチャンスに喜ぶ気持ちもあったけど、この因果に恐怖を抱いたのも事実。それでもあたしは兄の、師の仇討ちのため、やって来た」
思わぬ告白に、サロンは静まり返っていた。杭原さんに気を遣ってというだけでなく、皆それぞれ、いまの話が何を意味するのか考えているのだろう。
「あたしは最初、獅子谷氏が犯人だと考えてたわ。だけどあの〈密室からの消失〉で、犯人は別だと知った。そこの義治くんが云ったとおり、獅子谷氏なんてはじめからいなくて、これは犯人が仕掛けた罠だと悟った。だって獅子谷氏がいるとしたら、ああやって姿を隠して犯行を続けようとはしないはずなのよ。殺人まで起これば、塔内を隈なく捜索されるのは避けられない。この塔には構造上、隠れ続けられる場所がない。この冬の山中、外には隠れていられないしね。そうなると、犯人は客人か使用人の中にまぎれてると分かるわ。でも出雲ちゃんではないでしょうね」
背中に触れているので、出雲さんが安堵するのが分かった。
「あたしの兄は、間違いなく日本一の優秀な探偵だったわ。それを葬った犯人の叡智が、こんな簡単に当てられるものだとは思えない。あえてはっきり云わせてもらうけど、出雲ちゃんじゃ力不足よ。犯人は、探偵達の中にいる」
「そんな! 有り得ないよ、犯人を糾弾する存在である探偵が殺人犯なんて! そんな探偵という概念を根本から覆してしまうような滅茶苦茶な――」
「誠一さん、あたしは貴方が一番怪しいと思っているわ。さっきのお返しじゃないけどね」
「ははっ、とんだどんでん返しだ! このボナパルトが殺人犯だって?」
「少なくとも、犯人は三年前も此処で探偵達を殺した。あたしの調べではそれ以前にも獅子谷氏によるこの催しは行われていたようだわ。きっと獅子谷氏もとっくに殺されているのね。つまり犯人は何度も探偵虐殺を繰り返している」
「探偵虐殺? 探偵が犯人だとか、探偵が被害者だとか、そんな奇天烈なロジックが一体あるだろうか! 杭原さん、君はとても正気の沙汰とは思えないよ」
枷部さんの云うとおり、前代未聞の事態だ。これから探偵達が殺されていく……現に過去にも殺されてきた……さらにその凶行すら探偵によるものだなんて……こんなあべこべな話はフィクションでもなかなか拝めない。
「あたしは正気よ。誰よりも冷静でいないと、この犯人に足をすくわれるもの。話を戻すけど、犯人がかなり以前から犯行を繰り返してる以上、それなりの年齢でないと辻褄が合わないの。此処に招かれてるのは若い人ばかり……誠一さん、年長者である貴方が一番怪しいというのは道理よね?」
「……はは。なるほど、杭原さん、君が昨日僕と意気投合してみせたのは、探りを入れるためだったというわけだね?」
僕は全身が粟立つのを感じた。ただの遊びと思っていた昨晩の出来事のすべて……その裏にそんな意図があったなんて……。これまで確かと信じていた足元が瓦解していくかの如き戦慄だ。
「だが杭原さん、いまの君の話が嘘でないと証明する方法はないだろう! やっぱり犯人は君で、そんなトークで僕らを煙に巻こうと企んでいるのかも知れない!」
「ええ、そうね。でも犯人であるという証拠もないわ。全員、同様にね」
張り詰めた空気。それを壊すかのように、義治くんが「ああ、面倒くせぇ」と頭を掻いた。
「出雲って女が犯人じゃない証拠だってねぇんだぞ。俺は依然として、そいつが怪しいと思うね。それが一番合理的だからだ。大体、そいつの喋り方、全然使用人として成ってないじゃねぇか。どう見てもパチもんだぜ」
出雲さんは義治くんの心無い発言に傷付いたのか、また泣き出してしまった。僕はさすがに彼を睨んだが、とっくに視線を逸らされていた。
「悪魔の証明ですね」
ずっと無言だった無花果ちゃんが凛とした声で告げる。
悪魔の証明。〈そうでない〉という証明。これでは水掛け論だ。一向に埒が明かない。
「その通りよ。もう皆、分かったわよね。あたし達は、犯人が次に動くのを待つしかない。犯人は必ずあたし達を全滅させるわ。今までずっとそうしてきたからこそ、白生塔の出来事は明るみに出なかったんだもの。でもあたしは今回、それを止めてみせる。犯人にボロを――」
「ちょっと待ってくださいよ、杭原さん!」
僕は黙っていられなかった。杭原さんの発言は、とても聞き流せるものではなかった。
「動くのを待つって……誰かが殺されるのを待つってことですか!」
杭原さんは「当たり前でしょ」と答えた。
「おかしいですよ、そんなの! それに殺人が起きると分かっていたなら、どうして止めなかったんですか! いまの話を昨日のうちにしていれば、能登さんは殺されないで済んだかも知れないのに……」
「云ったわよね。あたしは仇討ちに来てるって」
「先生、これは杭原さんが正しいよ。第一、探偵というものは往々にして殺人は止められないものさ。事件が起きなければ解決だってできないのだからね」
「枷部さんまで、何を云っているんですか……」
枷部さんは正義の人ではなかったのか。胸の内に失望の念が広がる。酷い裏切りを受けた気分だった。……桜野だって犯罪を断固許さないというよりは謎への好奇心から探偵活動をしているけれど、それでも犯人が人を殺すのを待つなんて云ったことは一度も……。
「桜野、何か云ってくれよ」
「うーん。とりあえず警察を呼ぶべきじゃないかなぁ」
そうだった。今すぐ電話を――いや、此処は圏外なのだった。
「出雲さん、固定電話は」
「それが……この塔には外への連絡手段が一切ないんです……」
クローズドサークル。頭に浮かんだのはまたその言葉だ。
「警察なんて呼んでも無駄よ。容疑者である以上あたし達が帰れないのは変わらないし、余計に事態を掻き回されるだけだわ。せっかく、警察の邪魔なしに犯人との一騎打ちが叶う環境なのに」
杭原さんの言葉はもう道徳ある人間のそれではない。別の人種、別の思考体系、別の言語。とても構っていられない。
「車で下まで行きましょう。出雲さん、運転お願いできますか?」
「あっ、はい」
この短時間ですっかり憔悴してしまった出雲さんをこき使うようで心が痛んだが、そうも云っていられない状況だ。僕は出雲さんに肩を貸しながら、玄関扉へと進む。桜野も当然一緒に来てくれるようで、近寄ってきた。
玄関扉の取っ手に手をかけ、押そうとする。
「え……」
この扉は外開きだったはずだが……。
僕は今度は手前に引いた。しかし、開かない。びくともしない。
「向こう側から錠が……かかってる……」
「そ、そんなはずありません。この扉には鍵なんかないですよ?」
玄関は二重扉で、施錠できるのは外側の扉だけである。しかし、どうしても開かないのだ。
「閂だね」
桜野が云った。
「外から閂がかけられているから動かないんだよ」
この扉の取っ手は、両開きの扉のそれぞれから半円の弧を描くように取り付けられている。桜野の云うとおり、この半円に板状のものを通せば〈閂〉が成立する。
「でも桜野、一体誰が、外から閂なんてかけたんだ? だって今、全員が中にいるじゃないか。この塔には他に出入り口なんて……」
ざわめきが起こった。これは、先ほどの杭原さんの推理も含めて、すべてを破壊する事実なのだ。
「やっぱり獅子谷ってお爺さんが犯人で、外にいるんじゃないの? ほら、車の中なら温かいし……あ! それともお爺さんはとっくに逃げてるんじゃあ……」
香奈美ちゃんはさすがにパニックに陥ってしまい、義治くんが彼女を抱き締めて宥めた。恋人らしい彼の動きを初めて見た。
「外に協力者がいるか、そもそも外部犯とも考えられます」
無花果ちゃんには微塵も動揺した様子は見られない。後ろに控えている新倉さんも同じだ。
「私達、閉じ込められたんですか?」
出雲さんが蒼白な顔を僕に向けた。情けなくて堪らないことに、僕じゃあ彼女を元気づけられる返答はできない。
「桜野、何が起こっているんだ。お前なら分かるか?」
僕にとっては桜野が頼みの綱だったが、彼女も首を傾げていた。唇を指先で撫で回しているのは、深く考え込んでいるときに出る彼女の癖だ。
「中にいながら閂をかける方法。外で閂をかけてから中に這入る方法。これらはないねぇ」
今の桜野に云えるのはそれだけらしかった。
「あたしの師匠……いえ、あたしの兄はこの白生塔で殺された」
これには皆が多かれ少なかれ動揺した様子だった。
杭原さんは口調こそ淡々としているが、その表情には怒りと苦しみが滲んでいる。
「三年前よ。兄は突然、行方不明になった。最後に会ったとき、兄はあたしに話していたわ。獅子谷氏に招待され、白生塔に行くんだって。兄は白生塔に行ったきり、消えてしまったの。あたしは獅子谷氏に事情を訊こうと思って彼の居所を調べた。でも作家を引退すると同時に隠居生活に入った獅子谷氏もまた、完全に行方をくらませていたの。あたしが死力を尽くしても、彼を探し出すことはできなかった。この塔にも何度も出向いたわ。だけど無駄足に終わった。あたしは闇探偵として着実に仕事をこなして、去年にこの琴乃を弟子に取っても、ずっと兄に何があったのかを突きとめようと調査は継続してた。そして二ヵ月前、あたしのもとに一通の手紙が届いた。此処への招待状よ。震え上がったわ。これ以上ないチャンスに喜ぶ気持ちもあったけど、この因果に恐怖を抱いたのも事実。それでもあたしは兄の、師の仇討ちのため、やって来た」
思わぬ告白に、サロンは静まり返っていた。杭原さんに気を遣ってというだけでなく、皆それぞれ、いまの話が何を意味するのか考えているのだろう。
「あたしは最初、獅子谷氏が犯人だと考えてたわ。だけどあの〈密室からの消失〉で、犯人は別だと知った。そこの義治くんが云ったとおり、獅子谷氏なんてはじめからいなくて、これは犯人が仕掛けた罠だと悟った。だって獅子谷氏がいるとしたら、ああやって姿を隠して犯行を続けようとはしないはずなのよ。殺人まで起これば、塔内を隈なく捜索されるのは避けられない。この塔には構造上、隠れ続けられる場所がない。この冬の山中、外には隠れていられないしね。そうなると、犯人は客人か使用人の中にまぎれてると分かるわ。でも出雲ちゃんではないでしょうね」
背中に触れているので、出雲さんが安堵するのが分かった。
「あたしの兄は、間違いなく日本一の優秀な探偵だったわ。それを葬った犯人の叡智が、こんな簡単に当てられるものだとは思えない。あえてはっきり云わせてもらうけど、出雲ちゃんじゃ力不足よ。犯人は、探偵達の中にいる」
「そんな! 有り得ないよ、犯人を糾弾する存在である探偵が殺人犯なんて! そんな探偵という概念を根本から覆してしまうような滅茶苦茶な――」
「誠一さん、あたしは貴方が一番怪しいと思っているわ。さっきのお返しじゃないけどね」
「ははっ、とんだどんでん返しだ! このボナパルトが殺人犯だって?」
「少なくとも、犯人は三年前も此処で探偵達を殺した。あたしの調べではそれ以前にも獅子谷氏によるこの催しは行われていたようだわ。きっと獅子谷氏もとっくに殺されているのね。つまり犯人は何度も探偵虐殺を繰り返している」
「探偵虐殺? 探偵が犯人だとか、探偵が被害者だとか、そんな奇天烈なロジックが一体あるだろうか! 杭原さん、君はとても正気の沙汰とは思えないよ」
枷部さんの云うとおり、前代未聞の事態だ。これから探偵達が殺されていく……現に過去にも殺されてきた……さらにその凶行すら探偵によるものだなんて……こんなあべこべな話はフィクションでもなかなか拝めない。
「あたしは正気よ。誰よりも冷静でいないと、この犯人に足をすくわれるもの。話を戻すけど、犯人がかなり以前から犯行を繰り返してる以上、それなりの年齢でないと辻褄が合わないの。此処に招かれてるのは若い人ばかり……誠一さん、年長者である貴方が一番怪しいというのは道理よね?」
「……はは。なるほど、杭原さん、君が昨日僕と意気投合してみせたのは、探りを入れるためだったというわけだね?」
僕は全身が粟立つのを感じた。ただの遊びと思っていた昨晩の出来事のすべて……その裏にそんな意図があったなんて……。これまで確かと信じていた足元が瓦解していくかの如き戦慄だ。
「だが杭原さん、いまの君の話が嘘でないと証明する方法はないだろう! やっぱり犯人は君で、そんなトークで僕らを煙に巻こうと企んでいるのかも知れない!」
「ええ、そうね。でも犯人であるという証拠もないわ。全員、同様にね」
張り詰めた空気。それを壊すかのように、義治くんが「ああ、面倒くせぇ」と頭を掻いた。
「出雲って女が犯人じゃない証拠だってねぇんだぞ。俺は依然として、そいつが怪しいと思うね。それが一番合理的だからだ。大体、そいつの喋り方、全然使用人として成ってないじゃねぇか。どう見てもパチもんだぜ」
出雲さんは義治くんの心無い発言に傷付いたのか、また泣き出してしまった。僕はさすがに彼を睨んだが、とっくに視線を逸らされていた。
「悪魔の証明ですね」
ずっと無言だった無花果ちゃんが凛とした声で告げる。
悪魔の証明。〈そうでない〉という証明。これでは水掛け論だ。一向に埒が明かない。
「その通りよ。もう皆、分かったわよね。あたし達は、犯人が次に動くのを待つしかない。犯人は必ずあたし達を全滅させるわ。今までずっとそうしてきたからこそ、白生塔の出来事は明るみに出なかったんだもの。でもあたしは今回、それを止めてみせる。犯人にボロを――」
「ちょっと待ってくださいよ、杭原さん!」
僕は黙っていられなかった。杭原さんの発言は、とても聞き流せるものではなかった。
「動くのを待つって……誰かが殺されるのを待つってことですか!」
杭原さんは「当たり前でしょ」と答えた。
「おかしいですよ、そんなの! それに殺人が起きると分かっていたなら、どうして止めなかったんですか! いまの話を昨日のうちにしていれば、能登さんは殺されないで済んだかも知れないのに……」
「云ったわよね。あたしは仇討ちに来てるって」
「先生、これは杭原さんが正しいよ。第一、探偵というものは往々にして殺人は止められないものさ。事件が起きなければ解決だってできないのだからね」
「枷部さんまで、何を云っているんですか……」
枷部さんは正義の人ではなかったのか。胸の内に失望の念が広がる。酷い裏切りを受けた気分だった。……桜野だって犯罪を断固許さないというよりは謎への好奇心から探偵活動をしているけれど、それでも犯人が人を殺すのを待つなんて云ったことは一度も……。
「桜野、何か云ってくれよ」
「うーん。とりあえず警察を呼ぶべきじゃないかなぁ」
そうだった。今すぐ電話を――いや、此処は圏外なのだった。
「出雲さん、固定電話は」
「それが……この塔には外への連絡手段が一切ないんです……」
クローズドサークル。頭に浮かんだのはまたその言葉だ。
「警察なんて呼んでも無駄よ。容疑者である以上あたし達が帰れないのは変わらないし、余計に事態を掻き回されるだけだわ。せっかく、警察の邪魔なしに犯人との一騎打ちが叶う環境なのに」
杭原さんの言葉はもう道徳ある人間のそれではない。別の人種、別の思考体系、別の言語。とても構っていられない。
「車で下まで行きましょう。出雲さん、運転お願いできますか?」
「あっ、はい」
この短時間ですっかり憔悴してしまった出雲さんをこき使うようで心が痛んだが、そうも云っていられない状況だ。僕は出雲さんに肩を貸しながら、玄関扉へと進む。桜野も当然一緒に来てくれるようで、近寄ってきた。
玄関扉の取っ手に手をかけ、押そうとする。
「え……」
この扉は外開きだったはずだが……。
僕は今度は手前に引いた。しかし、開かない。びくともしない。
「向こう側から錠が……かかってる……」
「そ、そんなはずありません。この扉には鍵なんかないですよ?」
玄関は二重扉で、施錠できるのは外側の扉だけである。しかし、どうしても開かないのだ。
「閂だね」
桜野が云った。
「外から閂がかけられているから動かないんだよ」
この扉の取っ手は、両開きの扉のそれぞれから半円の弧を描くように取り付けられている。桜野の云うとおり、この半円に板状のものを通せば〈閂〉が成立する。
「でも桜野、一体誰が、外から閂なんてかけたんだ? だって今、全員が中にいるじゃないか。この塔には他に出入り口なんて……」
ざわめきが起こった。これは、先ほどの杭原さんの推理も含めて、すべてを破壊する事実なのだ。
「やっぱり獅子谷ってお爺さんが犯人で、外にいるんじゃないの? ほら、車の中なら温かいし……あ! それともお爺さんはとっくに逃げてるんじゃあ……」
香奈美ちゃんはさすがにパニックに陥ってしまい、義治くんが彼女を抱き締めて宥めた。恋人らしい彼の動きを初めて見た。
「外に協力者がいるか、そもそも外部犯とも考えられます」
無花果ちゃんには微塵も動揺した様子は見られない。後ろに控えている新倉さんも同じだ。
「私達、閉じ込められたんですか?」
出雲さんが蒼白な顔を僕に向けた。情けなくて堪らないことに、僕じゃあ彼女を元気づけられる返答はできない。
「桜野、何が起こっているんだ。お前なら分かるか?」
僕にとっては桜野が頼みの綱だったが、彼女も首を傾げていた。唇を指先で撫で回しているのは、深く考え込んでいるときに出る彼女の癖だ。
「中にいながら閂をかける方法。外で閂をかけてから中に這入る方法。これらはないねぇ」
今の桜野に云えるのはそれだけらしかった。
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