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65.私がもらい受ける
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しかし一瞬怯んだように見えたフェリクは一拍置いて笑い出す。くつくつと喉から出る、毒のある嘲笑だった。
「国のために働くのは王族の務めだ。それにその役目がなければそいつはとっくに処分されていた。不自由なく生かしてやってるんだ。むしろ感謝すべきだと思わないか? 今後は研究素材として国に貢献すればいい。生きてる限りメイリーンが愛玩動物として可愛がってくれるだろう」
研究材料。愛玩動物。聞きなれない単語はやっぱり理解が出来なかった。
間を置いてカっと熱くなるほどの怒りがジゼルの全身を駆け巡る。魔法が効かないのなら平手の一つでもお見舞いしてやりたい。
だけどフェリクに近付こうとしたジゼルの体は、抱きしめる腕で強く引き留められた。
激昂したままのジゼルが見上げれば、眉尻を下げたリュートが拒否するように首を振る。
「いいんだ。よく考えれば正式な王であるフェリクが僕を対等に見るわけがない。そんなこと当然なのに、どうして気付かなかったんだろうね」
そう言って穏やかに微笑む表情は泣きそうに見える。
思わず胸が苦しくなったジゼルの背後で再び嘲るように笑う声が聞こえた。負傷した腕を押さえたままのフェリクは口元に歪な笑みを浮かべ、俯く兄を眺めている。
「笑わせる……。化け物同士、気が合うようだな。なんならその女も一緒に飼ってやろうか?」
ぴくりとリュートが反応したのがわかる。しかしどこまでも人を馬鹿にした声は、彼が動くより先にジゼルの怒りを頂点まで引き上げた。あまりの激怒で眩暈さえ感じるほどだ。
真紅の瞳が炎のように揺れる。無意識に溢れ出す魔力は抑えきれず、ジゼルに視線を向けたリュートは制止するように名を呼んだ。
だけどフェリクに届く前にやはり力は霧散してしまった。
悔しいけれど、これで良かったのかもしれない。
だってあの指輪がなければ、愛する人の弟を殺してしまっていただろうから。
それだけはユスシアの先祖に感謝すべきかもしれない。
「腹が立つどころじゃないけど、やっぱり来て良かった。リュートを大切に思うご家族がいるのなら躊躇するところだけど、これで心置きなく連れて帰れるんですもの。こんな国、リュートには似合わないわ。お前も、ユスシアのおかしな価値観も許せない。彼はイブリスの王女である私が貰い受けるわ」
放った言葉は本心からのものだ。
でも、誰か一人くらいリュートを大切にする人がいて欲しかった。静かで固い声は収まらない苛立ちのおかげで少し震えている。
(瞳の形も髪の色も、それに声だって。とてもよく似ている双子なのに……。どうしてこんなに違うのかしら)
守るように肩を抱くリュートの腕から伝わる温もりは、憤る気持ちを徐々に沈めてくれるようだ。一度深く息を吐いたジゼルは、再びフェリクに視線を固定する。
「イブリスの……王女……だと?」
呟かれた声は自分への確認も兼ねているようだった。
先ほどより更に剥き出しになった警戒心が手に取るようにわかった。
フェリクが焦るほどジゼルの心は落ち着きを取り戻す。その問いには肯定の微笑みだけで返すことにした。息を呑んだフェリクにはきちんと伝わったようだ。
「ふざけるな。その女と手を組んでユスシアを乗っ取る気か?」
「そんなつもりはないよ」
「そうよ、こんな国いらないわよ。私はリュートを迎えに来ただけだもの。本当は昔のように交流できたらいいなと思ってたけど、こちらから願い下げだわ」
力なく首を振るリュートに被せるように言い、ジゼルは再び湧き出る怒りのままに目を吊り上げる。
「国のために働くのは王族の務めだ。それにその役目がなければそいつはとっくに処分されていた。不自由なく生かしてやってるんだ。むしろ感謝すべきだと思わないか? 今後は研究素材として国に貢献すればいい。生きてる限りメイリーンが愛玩動物として可愛がってくれるだろう」
研究材料。愛玩動物。聞きなれない単語はやっぱり理解が出来なかった。
間を置いてカっと熱くなるほどの怒りがジゼルの全身を駆け巡る。魔法が効かないのなら平手の一つでもお見舞いしてやりたい。
だけどフェリクに近付こうとしたジゼルの体は、抱きしめる腕で強く引き留められた。
激昂したままのジゼルが見上げれば、眉尻を下げたリュートが拒否するように首を振る。
「いいんだ。よく考えれば正式な王であるフェリクが僕を対等に見るわけがない。そんなこと当然なのに、どうして気付かなかったんだろうね」
そう言って穏やかに微笑む表情は泣きそうに見える。
思わず胸が苦しくなったジゼルの背後で再び嘲るように笑う声が聞こえた。負傷した腕を押さえたままのフェリクは口元に歪な笑みを浮かべ、俯く兄を眺めている。
「笑わせる……。化け物同士、気が合うようだな。なんならその女も一緒に飼ってやろうか?」
ぴくりとリュートが反応したのがわかる。しかしどこまでも人を馬鹿にした声は、彼が動くより先にジゼルの怒りを頂点まで引き上げた。あまりの激怒で眩暈さえ感じるほどだ。
真紅の瞳が炎のように揺れる。無意識に溢れ出す魔力は抑えきれず、ジゼルに視線を向けたリュートは制止するように名を呼んだ。
だけどフェリクに届く前にやはり力は霧散してしまった。
悔しいけれど、これで良かったのかもしれない。
だってあの指輪がなければ、愛する人の弟を殺してしまっていただろうから。
それだけはユスシアの先祖に感謝すべきかもしれない。
「腹が立つどころじゃないけど、やっぱり来て良かった。リュートを大切に思うご家族がいるのなら躊躇するところだけど、これで心置きなく連れて帰れるんですもの。こんな国、リュートには似合わないわ。お前も、ユスシアのおかしな価値観も許せない。彼はイブリスの王女である私が貰い受けるわ」
放った言葉は本心からのものだ。
でも、誰か一人くらいリュートを大切にする人がいて欲しかった。静かで固い声は収まらない苛立ちのおかげで少し震えている。
(瞳の形も髪の色も、それに声だって。とてもよく似ている双子なのに……。どうしてこんなに違うのかしら)
守るように肩を抱くリュートの腕から伝わる温もりは、憤る気持ちを徐々に沈めてくれるようだ。一度深く息を吐いたジゼルは、再びフェリクに視線を固定する。
「イブリスの……王女……だと?」
呟かれた声は自分への確認も兼ねているようだった。
先ほどより更に剥き出しになった警戒心が手に取るようにわかった。
フェリクが焦るほどジゼルの心は落ち着きを取り戻す。その問いには肯定の微笑みだけで返すことにした。息を呑んだフェリクにはきちんと伝わったようだ。
「ふざけるな。その女と手を組んでユスシアを乗っ取る気か?」
「そんなつもりはないよ」
「そうよ、こんな国いらないわよ。私はリュートを迎えに来ただけだもの。本当は昔のように交流できたらいいなと思ってたけど、こちらから願い下げだわ」
力なく首を振るリュートに被せるように言い、ジゼルは再び湧き出る怒りのままに目を吊り上げる。
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