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3.居座る勇者
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シリウスが無理やり滞在を始めてからそろそろ一月が経過する。
あの場にいた者たちは誰一人としてリィラの決断に反対はしなかった。
むしろ最後には、
「とりあえずお試しに滞在だけならいいんじゃないですか?」
という部下たちからの説得もあったのだ。
それというのも、国を破壊されるよりはマシだろう、それにこの怪力を我が国のものに出来るのであれば問題ないのでは、という理由のもと、わりとあっさりと迎え入れられたというわけだ。
ソファに座り昼食後のお茶をゆっくり味わっていたリィラは、ふと向かいに座るシリウスの首元に目をやった。
滞在の条件として厄介なブレスレットは没収済みである。代わりに彼の首には金色の細いリングがあった。
中央に赤い宝石が埋め込まれた金の輪は褐色の肌によく映える。もちろんただの装飾具ではない。リィラに危害を加えようとすれば即死の魔法が作動する仕掛けになっている。
そんな危険なものを躊躇せず受け取り、自ら首に嵌めたシリウスはどこまでも予測できない男だった。
それに、求婚したにもかかわらず、彼からは仲を進展させようとする気配もない。
ただただ優しくリィラを気遣う姿はまさに人畜無害そのものである。
おそらく一過性の感情だったのだろう。拍子抜けしたリィラは、ほっとしたような安堵もあり、同時になんとなくモヤモヤした感情も抱えていたりする。
「どうした? リィラ」
眺める視線に気づいたシリウスは飲んでいたカップをソーサーに置き、首を傾げた。
「なんでもない……。その、今日も美味であった」
料理が得意だというシリウスは、たびたびリィラに昼食を振る舞う。
はじめは拒否していた料理人ともいつの間にか打ち解け、今では調理場に出入りできるようになっている。食の話題は国境を越えるらしい。
あの場にいた者たちは誰一人としてリィラの決断に反対はしなかった。
むしろ最後には、
「とりあえずお試しに滞在だけならいいんじゃないですか?」
という部下たちからの説得もあったのだ。
それというのも、国を破壊されるよりはマシだろう、それにこの怪力を我が国のものに出来るのであれば問題ないのでは、という理由のもと、わりとあっさりと迎え入れられたというわけだ。
ソファに座り昼食後のお茶をゆっくり味わっていたリィラは、ふと向かいに座るシリウスの首元に目をやった。
滞在の条件として厄介なブレスレットは没収済みである。代わりに彼の首には金色の細いリングがあった。
中央に赤い宝石が埋め込まれた金の輪は褐色の肌によく映える。もちろんただの装飾具ではない。リィラに危害を加えようとすれば即死の魔法が作動する仕掛けになっている。
そんな危険なものを躊躇せず受け取り、自ら首に嵌めたシリウスはどこまでも予測できない男だった。
それに、求婚したにもかかわらず、彼からは仲を進展させようとする気配もない。
ただただ優しくリィラを気遣う姿はまさに人畜無害そのものである。
おそらく一過性の感情だったのだろう。拍子抜けしたリィラは、ほっとしたような安堵もあり、同時になんとなくモヤモヤした感情も抱えていたりする。
「どうした? リィラ」
眺める視線に気づいたシリウスは飲んでいたカップをソーサーに置き、首を傾げた。
「なんでもない……。その、今日も美味であった」
料理が得意だというシリウスは、たびたびリィラに昼食を振る舞う。
はじめは拒否していた料理人ともいつの間にか打ち解け、今では調理場に出入りできるようになっている。食の話題は国境を越えるらしい。
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